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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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088 幼女、頑張る

「本番! 5,4……」

 3のカウントから指折りに変わる独特のカウントダウンをきっかけに撮影がスタートする。

 森の中に組まれたお茶会のセットでは、穂乃香と千穂をメインに、穂乃香の脇に奈菜、千穂の横にみどりが並び、四人が一つのソファの上で密着していた。

 四人に供されるお菓子もお茶もパステル調のポップなデザインのモノが並び、森という背景を前にして、違和感がものすごいはずなのに、仲良さそうに笑い合いながらじゃれ合う四人の姿が、それらを置き去りにするほど視線を集める。

 その注目の中で、穂乃香が演技を始めた。

「ねぇ、凛華おねぇちゃん……ずっとこうしていましょうね? 私たち皆で」

 千穂の体にもたれかかるようにして、上目遣いで声を掛ける穂乃香は、まさに籠絡せんとする魔性を漂わせている。

 そして、その色香が最大限に効果を発揮した結果、千穂の暴走が始まってしまった。

「うん、そうだね!」

 ギュウッと穂乃香を抱きしめたところで、あおいの「カット!」の声が響く。

 こめかみに指をあてて、あおいが苦悩の表情を見せた。


「千穂が、NGを出すなんて……」

「恋は盲目というわね」

 驚いた表情のアリサに、彩花が真面目な顔でポツリと呟く。

 消え入りそうなほど小さな一言だったが、それでもアリサはものすごい勢いで彩花を振り返った。

「え? なに、どういうことですか、彩花?」

 目をぱちくりと瞬かせて理解できないと言わんばかりの表情を浮かべるアリサに対して、彩花はどこまでも無表情で「さあ? どういうことなのかしら」と返す。

 答えが返ってくると思っていただけに、彩花の返事にアリサは「え?」と目を丸くした。

 だが、彩花は気にした素振りもなく、口を閉ざしてしまう。

「え、ちょっと、彩花、あの、私意味が分からないのですけど?」

 慌てた様子で狼狽えるアリサだったが、彩花に気にする素振りは全く見らなくなってしまった。

「あの、無視は酷くないですか、ちょっと~~」

 全く反応を消してしまった彩花はそれでも反応をしない。

 ただ、その彩花の口元にわずかに笑みが浮かんでいることを、必死にアピールするアリサは知る由もなかった。


「えーと、ね、千穂ちゃん」

「はい!」

「受け入れたらだめなのよ。『みんな』のくだりから、他の子たちを思い出すシーンだからね」

「はい!」

 あおいの言葉に素直に頷く千穂は、普段と変わりない。

 むしろしっかりとした返事をしているのだが、それはシーンを取る前にも見せていた姿だった。

 すなわち、この返事は、明瞭ではきはきしていながら、まるで説得力がないのである。

 ゆえに、あおいも念押しをするように、さらに踏み込む。

「えーと、千穂ちゃん、大丈夫? わかってる?」

 だが、千穂の返しはまるで変わらなかった。

「はい!」

 千穂の満面の笑みとともに返される返事が、穂乃香を抱きしめたまま放たれている時点で、あおいは再びこめかみに手を当てた。

 一方、まるで茶番の様な二人のやり取りに、千穂に抱き留められた穂乃香も傍観者であることを止める。

 なにしろ、見た目は幼女であっても、長き年月を生きた魂の宿る穂乃香なのだ。

 露骨な自分への密着を見れば、度合いや種類はともかく、千穂がものすごく自分に愛着を抱き、演技そっちのけになってしまったことぐらい察する。

「ねぇ、千穂さん」

 はっきりと少なくとも、あおいが聞き取れる大きさで声を掛けたのに、なぜか千穂からの反応はなかった。

 思わず視線を上げると、千穂の笑顔がこちらを向いている。

 聞こえていないというわけではなく、何かを期待する目に、穂乃香は察した。

 ほんの少し前、ゆかりと姉妹ごっこをしていた時も、名前にお姉ちゃんとつけないと返事をしてもらえないという謎事象を体験していたお陰で、穂乃香は同じ目だと理解した。

「ふぅ」

 いろいろなものを吹っ切るための溜息が、一旦足元に視線を落とした穂乃香の小さな口から零れ落ちる。

 そして、気合を入れ直して視線を上げると、穂乃香は「千穂お姉ちゃん」と呼びかけた。

「なぁに?」

 ニコニコからデレデレに笑顔の種別を切り替えた千穂の返事に、自分の予測通りであったことに、穂乃香は心の中で溜息を零す。

 だが、会話が成立するならば、穂乃香には千穂を説得する役目があるのだ。

「千穂お姉ちゃん、穂乃香ね。千穂お姉ちゃんと、こうしていろんなお話をしたいなぁ」

 普段は『私』と呼称する穂乃香が、自分を『自分の名前』で呼称する。

 穂乃香自身が、常々可愛いと思っているみどりのマネであり、今の千穂には効果的だろうという選択だったが、ものの見事に効果を示した。

「うっ嬉しいわ!! 穂乃香ちゃん! 一杯お話ししましょう!!」

 一瞬言葉を詰まらせた後、喜色満面で千穂は言い放ち、再び穂乃香を抱きしめにかかる。

 それを素早く潜り抜けた穂乃香は、困り顔で訴えかけた。

「あー、でもね。先に撮影を終わらせないと、皆困っちゃうと思うんだ?」

「穂乃香ちゃんも?」

 千穂からほんの少しの間も置かず超高速で打ち返されてきた問いかけに、穂乃香は思わず「え?」と漏らすが、すぐにその意図をくみ取って頷きで応える。

「うん、穂乃香も困るよ! だって、千穂お姉ちゃんとお話しする時間が減っちゃうもん!」

 拳をぎゅっと握って胸の前で並べてアピールする穂乃香の内心は、恥ずかしさで満ち満ちていた。

 それでも、あおいにすらまともな反応を返さなくなった千穂を軌道修正できるのは自分しかいないという使命感で、穂乃香は『可愛らしい幼女の演技』を続ける。

 そんな穂乃香の主に精神力の方面で身を呈した訴えかけは、千穂の目に光を灯した。

「そうだね。すぐ終わらせようね、撮影」

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