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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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086 幼女、ゴロゴロする

「あ~~~うぅ~~~あ~~~~」

 謎の声を発しながら、ベッドの上でゴロゴロと右に左に転がるのは、穂乃香だった。

 既に、今日の分の撮影は終了したので、衣装から普段着に着替え、ウィッチ組の撮影準備の間、自室で待機となったのだが、ベッドに突っ伏すなりこのゴロゴロ運動を開始し、既にゆかりに引かれている。

「穂乃香お嬢様、大丈夫ですよ、可愛らしかったです」

 ゆかりのそれは素直な感想でしかないし、頑張りをほめたたえる言葉のつもりだったのだが、それは穂乃香に思い切りトドメを刺す一言だった。

「うぐっ!」

 差し込まれた言葉の刃に、ビクッと全身を震わすと、穂乃香はぴたりと動きと止める。

「え、何で、そんなショックを受けているんですか!?」

 状況からして自分の発言が何やら穂乃香にダメージを負わせたことは察せられたゆかりだが、理屈がよくわからなかった。

 何しろ、穂乃香の見せた演技は完璧だったし、その場の全員が見入ってしまったほどである。

 熟練のカメラマンも、アングル固定で助かったとまで言わしめた極上のシーンは『カット』の掛け声とともに、拍手の嵐を呼び起こした。

 あおいもオンエアーすれば、一気に話題を呼ぶと太鼓判まで押したのだから、穂乃香がぐったりと沈み込む理由がゆかりにはまるで想像がつかない。

『主殿、ちゃんと言葉にしておかないと、傷が深くなるばかりではないかの?』

 不意に穂乃香の脳裏に響いた声に、穂乃香はピクリと肩を震わす。

『この娘は悪気もないからの。先ほどの主殿を褒め称えるだろうの』

 そこまで言われれば、穂乃香と言えども、見過ごせないと顔を上げた。

「穂乃香おじょ……うさま?」

 ゆかりが動きを見せてくれたことに示した喜びを、瞬時に驚きへと変える。

 何しろ、顔を上げた穂乃香の顔がゆでタコの様に真っ赤だったのだ。

 ゆかりが面食らって何事かと聞くのを一瞬忘れている間に、穂乃香が口を開く。

「恥ずかしいからさっきのことは忘れて……」

 消え入りそうな声で放たれた穂乃香の言葉に、ゆかりは幾度となく高速の瞬きを放った。

 そして、思わず立場も忘れて疑問を口にしてしまう。

「なんで?」

 

 穂乃香が戻るなり、大丈夫と察したウィッチ組とは違い、あおいを除く撮影クルーはやや緊張気味だった。

 クルーの中には、子役が自分でも理解していない理由で、崩れていく場面を幾度も見てきた者も多い。

 直前の出会いのシーンでは、完璧と言って差し支えない演技を決めた穂乃香が『友達と遊ぶように振舞って』とありのままを求めた途端に、盛大に崩れたのだ。

 特に、みどりと奈菜が自然体だったこともあって、悪目立ちしてしまう。

 その違和感は周囲から見ていれば、誰であっても感じ取れるレベルのモノだったので、演者である穂乃香自身も自覚したに違いなかった。

 ゆえに逃げ出したとその場のほぼ全員が察している。

 セリフであれば、後で本人か、無理なら声優にアフレコしてもらうという手もあるが、演技ではそうもいかないのだ。

 あおいを含め、最高の逸材を見つけたと思っていた矢先のトラブルに、撮り直しも含めて、次善の手を模索し始める。

 そんな中、穂乃香が戻ってきた。

 表情は悪くない。

 だが、クルーの中には、先ほどのシーンによって植え込まれた不安があった。

 しかし、その空気を「おまたせして、すみませんでした。本番お願いします」という覇気のある穂乃香の声が、一瞬で払い飛ばす。

 長く撮影を共にしてきた千穂が見せる様な風格のある言葉に、クルーは直前の不安など忘れて持ち場についた。

 そうして、誘惑のシーンが始まる。


「私……なんで、こんな……あれ?」

 魔女姿の千穂はふわふわのソファに身を沈めながら、寝ぼけ眼で辺りの様子を窺う。

 視界に収まるのは森の風景で、自分が寝そべるのはそこに置かれたソファという違和感だらけの状況なのに、千穂は大して反応も示さず受け入れた。

「森……に、ソファ? ん……でも、きもちいいからいいか……」

 間延びした声で、目を閉じる千穂に、幼い声が声をかける。

「おねえちゃん」

 千穂は気だるそうに閉じていた目を開いて、声の主の顔を見た。

 興味深そうな顔、少し警戒しているような顔、最後に薄く笑みを浮かべた顔の三つが自分を覗き込んでいる。

「きもちいいでしょ?」

 えへへと笑うのは興味深そうに自分を見ていた顔、幼女組でも一番無邪気なみどりの演じる精霊の女の子だ。

「話し掛けても大丈夫?」

 警戒の色を残しつつみどりに話し掛けたのは、同じく精霊の女の子役の奈菜である。

「大丈夫よ、みて」

 最後に薄く笑みを浮かべていた精霊の姫でありながら、登場時の荘厳な衣装ではなく、みどりや奈菜と同じ格好になっている穂乃香が、すっと指をさした。

 その指の先、白いソファーに寝そべる千穂の両手と両足には緑のツタが巻き付いている。

 奈菜はその様子を見た後に、胸に手を当ててほっと息をついた。

「あれなら安心ですね、魔力も力も抜けていくから」

 奈菜の言葉に、まどろんでいた千穂の目に、わずかに光が灯る。

「……待って、そんなの、ダメ……よ」

 懸命に何かを振り払う様に頭を振って、自分を呼び戻そうとする千穂の様子に、みどりが悲鳴を上げた。

「おねえちゃん、こわい」

 怖がっている演技はみどりには難しかったので、セリフと共にあおいの指示通りしゃがみ込んで顔を隠す。

 直後に、奈菜が顔を隠すように頭ごと抱きしめて、二人はカメラから外れた。

 そうして、穂乃香と千穂だけのシーンが訪れる。

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