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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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082 幼女、吊り上げられる

『ヤバイ、穂乃香ちゃん、ヤバイわ』

 喜々とした声で、スマホを耳に当てたあおいは、電話の向こうの妹に直近の感想を伝えていた。

 一方、電話向こうのあかねは、聞いた記憶もないようなはしゃぐ姉の声に戸惑う。

「お、お姉ちゃん、お、落ち着いて、何かあったの?」

 何しろ『ヤバイ』しか言わないので、あかねにはまるで状況が掴めないのだ。

 特に、穂乃香のことは榊原家の承諾も得ずに、あおいに流してしまったという負い目があるので、あかねとしては全容を理解できていない時点で、かなり気が気じゃない。

 にもかかわらず、情報源は興奮一色で、まるで追加情報をよこさないのだから、蛇の生殺しもいいところであった。

『あー、じゃあ、忙しいから切るわ』

「は? え?」

 直後、耳に当てたスマホからは、回線が切断されたのだとわかる『ツー』という音が響いてくる。

「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん! なんで、え!? やばいって何よ!!!!」

 既に通話は終了しているのに、あかねはスマホに向かって吠えた。

 当然、返事がないのでしばらく独り相撲を続ける羽目になる。

 そうして、ほんの少し頭が冷えたところで、あかねはスマホを操作して、あおいへと電話を掛け直した。

 まずは、もう少し情報を得なければ、最近減っていた胃薬の量を増やさなければならないことになりそうなあかねとしては、かなり必死である。

 が、スマホを耳に当てたあかねの耳に届いたのは無情な音声だった。

『おかけになった電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、かかりません』

「あーーーーー!」

 思わずスマホに八つ当たりとばかりに床にたたきつけそうになるあかねだったが、途中で腕を止められたのは、愛用のベッドの上に置かれた真新しいスマホの空き箱の入った紙袋を視界に納められたからだろう。

 危うく購入直後に廃棄物に変えるところだった自分に気付き、あかねは力なくへたり込んだ。

「一体何が、どうなってるのよー」

 そのままお気に入りのカーペットの上に寝転がって、あかねは情報の途絶した南の島を、そこにいるという超優等生にして問題児の今を思う。


 ホテルからほど近い森の開けた場所が、アネモネと精霊の姫との邂逅の場に選ばれていた。

「じゃあ、いきまーす、皆さんよろしくお願いします」

 撮影スタッフの挨拶込みの指示出しに、各スタッフが了承のサインを返す。

「千穂、穂乃香ちゃん、次は本番だから、よろしくねーー」

 上機嫌のあおいに、アネモネの魔女姿に着替えた千穂と、その奥にブリキ製のおもちゃのようなぎこちない動きをする穂乃香が「「はい!」」と声を揃えた返事をした。

「特効さん、お願い」

 あおいの指示に応えるように、ふわりと穂乃香の体が宙に舞う。

 穂乃香の動きが怪しかったのは、緊張などではなく、宙に浮いた妖精の姫を演出する為に、体にハーネスを装着されていたからであった。

「大丈夫? 穂乃香ちゃん?」

 あおいの声に、穂乃香は辛うじて自由な右手を上げて「大丈夫です」と答える。

 それに頷いたあおいは、足元に穂乃香と千穂を抑える3台のカメラの映像が、すべて映り込んだモニターに視線を移すと、宙吊りの穂乃香の負担を下げる為に、さっと右手を挙げた。

「本番、5,4……」

 あおいのそばに控えていた助監督が上げた右手の指を折りながら、カウントを進め、3からは声を抑えると、ゼロのタイミングで右手を振り下ろす。

 同時に、千穂が動き始めた。

 周囲を見渡し、練習よりもさらに怯えた声で「ここは……」と狼狽える。

 それから、顔を上げて木々の隙間から見える空を視界に捉えてから「どこ?」と声を発してから呆然とした表情を浮かべた。

 ややそのまま間を取ってから、ハッと気づいた風に「みんなは?」と震える手を口元に当てた千穂は、周囲を見渡す。

 その最中、千穂は何かに気付いたと言わんばかりの動きで、周りを窺っていた視線を瞬時に正面へと切り替えた。

 そこへ穂乃香の声が響く。

「ようこそ、魔女の娘」

 穂乃香のセリフに反応して、千穂は一瞬警戒の色を出すが、その姿を確認すると、よろりとしながら、穂乃香の方へ一歩踏み出した。

「ここは精霊の住まう森、なぜ立ち入ったかを問う前に、お前に足を踏み入れる資格があるか見せて貰おう」

 本読みから変わったセリフですら、平然と言い放つ穂乃香の堂々とした演技に、モニターの後ろに控えるあおい以下のスタッフもキャストも、そして、菊一郎含む見学組も、知らず握った手に力を込めて魅入られている。

「ま、待って下さい。貴女は……いえ、貴女が精霊の姫なのですか?」

 慌てふためく演技で尋ねる千穂であったが、対する穂乃香は完全に問答無用と言わんばかりに、目の前の魔女の言葉を汲むことはなかった。

「我が何者か知りたくば、試練を越えよ。話はそれからだ……もっとも、それからがあるとは思えんがな!」

 セリフと共に、穂乃香が右手を振り上げると、吹いた突風に圧される演技を千穂が見せて、その場に風に耐えながら蹲ったところで、あおいが声を張り上げる。

「カーーーット!! いいよ、最高、一発!!!」

 あおいの満足そうな声に、誰からともなく拍手が巻き起こり、同時に飛び出した特効、メイク、衣装の各スタッフが宙吊り状態から地面に降ろされた穂乃香に殺到した。

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