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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
最終章 穂乃香の決断
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最終話 セーラー服の魔法使い

 穂乃香の魔法封印からおよそ一年の時が過ぎた。


 穂乃香達は順調に幼稚舎の二年目を終えた。

 プリッチの撮影も終了し、芸能活動という意味では一段落を迎えている。

 一方、主要キャスト五人の内、千穂と彩花、茉莉は進学を果たした。

 残るクルミとアリサは、榊原家で技能実習を受けながら、必要な技能を習得していく方が榊原家に馴染むのが早くなることから、進学の必要性を感じなかったこともあり、受験すらしていない。

 そんなある日、茉莉は穂乃香に呼び出されて、その私室に向かうことになった。


「穂乃香お嬢様、お呼びですか?」

 穂乃香の私室に入ってきたメイド服姿の茉莉が頭を下げたままで尋ねた。

「茉莉お姉ちゃんに聞きたいことがあって」

「なんでしょうか」

 頭を上げた茉莉に、穂乃香は手にしていた書類を差し出す。

「これは……」

 チラリと書類を確認した茉莉が、明らかな戸惑いの色を覗かせた。

 そんな茉莉に向かって、穂乃香は表情を変えることなく、落ち着いた口調で問い掛ける。

「なんで受けないの?」

「え、いや、なんというか……その、皆も、役者の仕事はもうしないみたいだし……」

 しどろもどろになりながら答える茉莉からは、既にメイドムーブが剥がれ落ちてしまっていた。

 そんな茉莉に、穂乃香は溜め息交じりに今受けている仕事以外は当面新しい芸能の仕事は受けないと決めたクルミの実情に触れる。

「クルミお姉ちゃんにとって、芸能のお仕事は生きるための術で、新たにメイドっていう術を得たことで、自分の意思で生き方を選べるようになったということでしょう?」

「う、うん」

「アリサお姉ちゃんも、武術の道を究めたいって言う欲求があって、うちのメイドになったことで、護衛として腕を磨く道が出来たって事だよね」

「……うん」

「彩花お姉ちゃんは、プリスラーフマーナの脅威が去ったことで、自分を見つめ直すために、芸能活動をお休みすることにした」

 穂乃香の言葉に茉莉はついに押し黙って頷くだけになってしまった。

「千穂お姉ちゃんは、彩花お姉ちゃんが無茶をしていたことを知って、医術の道を志して猛勉強を始めてる」

 そこまでで一旦言葉を止めた穂乃香は、じっと茉莉を見詰める。

 そのままの姿勢で、やや間を開けてから、穂乃香は改めて茉莉に問い掛けた。

「で、茉莉お姉ちゃんは、芸能の道を歩み続けることに決めたんだよね?」

 真っ直ぐに自分の目を見て問い掛けてきた穂乃香の言葉に対して、目を逸らしつつ茉莉は頷く。

「じゃあ、なんで、ドラマのオファーを蹴るのよ!」

 強めの穂乃香の言葉に、茉莉は「だって、主役だよ、主役。私に出来ると思うの!?」と声を張って返した。

「オファーしてくれた人は、出来ると思ってるからオファーしたにきまってるでしょうが!」

 何を言っているんだという呆れが多分に籠もった表情で、穂乃香は言い放つ。

 だが、茉莉はブンブンと左右に首を振って「無理!」と訴えた。

 そんな茉莉を見て穂乃香は大きく溜め息を零す。

 それから、呆れ顔のままで「そこまでいうなら、わかったわ」と告げた。

 穂乃香の言葉に、茉莉は諦めてくれたと息を吐き出す。

 が、直後、驚きの言葉を聞くことになった。

「榊原芸能事務所社長、榊原穂乃香の業務命令です。良いから受けなさい」

「はぁっ!? 横暴だわ!!」


 魔法封印を受けた穂乃香だったが、強大な力を失ったことで、おとなしくなるということはなかった。

 むしろ積極的に法律や社会の情報を貪欲に集め、より知識を強化して新たな武器を身に付けようと動き出す。

 その一環として穂乃香が選んだのが、芸能事務所の経営であった。

 榊原芸能事務所は、もともと穂乃香自身がプリッチのドラマに参加するために組織された会社であり、みどり達も所属している。

 そして、劣悪な契約状況下にあったクルミを救うための移籍先となった事務所でもあった。

 設立時、社長は菊一郎であり、運営は陽子を中心に行われていたのだが、穂乃香が強く要望したことで、社長は穂乃香に、運営は榊原本邸の穂乃香護衛隊に委譲されている。

 そして、今現在穂乃香は事務所社長、茉莉は所属タレントという立場なのであった。


「茉莉お姉ちゃんだって、自分に向いている期待はわかっているでしょう?」

 一世を風靡したプリッチメンバー五人の内、四人は芸能活動を休止あるいは辞めつつあった。

 自分たちも使いたいと思っていた子役達が次々辞める事態となって、唯一、芸能活動を続ける気配のある茉莉に周囲の期待は集まっている。

 特に一年間を共にやってきたあおいたち、プリッチの撮影チームは、プリッチメンバーを高く買っていることもあって、次の作品も一緒に挑みたいと茉莉に声を掛けてきたのだ。

「でも、私に出来るかが……」

 覚悟さえ決めてしまえば絶対に怯まない茉莉だが、その一歩を踏み込むまでが大変である。

 結局、社長直々の説得となったのだが、茉莉は腹をくくれずにいた。

「だいたい、この主人公、茉莉お姉ちゃんが誰よりも一番理解出来ると思うんだけど?」

 穂乃香はそう告げて、茉莉の反応を待つが、しかし、動きはない。

 仕方ないと思いながら、穂乃香はその内容に触れることにした。

「突然強大な魔力を受け継ぐことになった女の子が、魔法の力で身に降りかかる事件を解決し、世界を守る物語……はっきり言って、茉莉お姉ちゃん、そのまんまじゃない」

 穂乃香はそう言いながら手にした書類、茉莉主演作の企画書を振ってみせる。

「い、いや……でも……」

「このライバルの魔法使いの女の子も、みどりちゃんだと思えば、しっくりくるでしょ? 負けられないって思ってるの知ってるよ」

 茉莉は穂乃香の言葉に口を真一文字に結んだ。

 言葉にはしていないが、態度が肯定してることに穂乃香は軽く苦笑すると、言葉を続ける。

「それから、強大な魔力を授け、無理矢理魔法使いにした精霊は、私。世界を奪おうとする魔王はプリスラーフマーナ……完璧じゃない?」

 穂乃香の言葉に、茉莉は渋い顔を見せた。

「魔法を封印しちゃった私は、少しでも自分に出来ることを増やしたい……それなのに、最初のお仕事を所属タレントに受けてもらえないなんて……」

 嘆く素振りを見せる穂乃香の姿に、茉莉はヤケになって大声を張り上げる。

「わかったわよ、受けるわよ、やれば良いんでしょ、その『セーラー服の魔法使い』の主役!」

 啖呵を切った茉莉に満足そうな笑みを浮かべた穂乃香は頷きながら「茉莉お姉ちゃん」と名前を呼ぶ。

「な、なに?」

「まだ、タイトルは確定じゃないから、セーラー服の魔法使い(仮)(かっこかり)よ」

「指摘するのそこ!?」

 穂乃香の私室に茉莉の大声が響いた後で、二人は瞬きし合った後で、どちらからともなく笑い合った。


「それじゃあ、頑張ってよ。セーラー服の魔法使いの主役」

 穂乃香の言葉に、茉莉はしっかりと頷いた。

「はい、お任せくださいお師匠様!」

 わざわざ大げさにお辞儀をして、巫山戯てみせた茉莉に穂乃香は不満そうな顔を向ける。

「ちょっと、茉莉お姉ちゃん?」

 穂乃香の態度に、魔法関連の揶揄はまずかったかと、茉莉は思った。

 だが、穂乃香はニヤリと笑って「社長でしょ、社長」と自分の胸をポンポンと叩いてみせる。

 そんな穂乃香の返しに一瞬固まった茉莉だったが、僅かな間を挟んで再び笑い出した。

 そして、茉莉は笑いながら目の前の恩人にして、師匠にして、親友にして、社長というとんでもない幼女に誓う。

「どうせやるなら、歴史に名を残す名作にするわ、セーラー服の魔法使い!」

「良い気合いね。社長としても誇らしいわ」

「でしょ?」

 軽やかな口調で言葉を交わし合ったところで、穂乃香が最後に「でも、タイトル変わるかも知れないけどね」と両手を上に向けて軽く肩を上げてみせた。

 その態度に笑いながら、茉莉は「カッコ仮でしたね、社長」と相づちを打つ。

 穂乃香と茉莉、二人しかいない部屋の中には、いつまでも二人の和やかな笑い声が響いていた。

というわけで、今回をもちまして、セーラー服の魔法使いは、一旦終了とさせて頂きます。

最終話がかなり強引な終わり方になったという印象はあるのですが、これからのお話もいくつも思い付いてしまっているために、多少強引でも区切りを付けないと、終れないだろうという思いもあり、こう言う着地となりました。


第二部については、少し間を開けてから、プロットを組み立て直したうえで始めたいなと思っていますが、それほど二部を望む声がなかったら、まあ、完結になるかも知れません。


ともかくも、ここまで800話以上に及びお付き合いくださった皆様ありがとうございました。

毎日更新と言うことで、話の質が安定しなかったような気もしますし、長いわ!とか思われてそうだなぁと幾度か思ったものの、商業作品じゃないし!と言い訳して続けさせて頂きました。

ここまでこれたのも読者の皆さん、ブックマークや評価を付けてくださった皆様、感想やメッセージ、誤字報告をくださった皆さん、その皆さんの協力のお陰だと思っています。


つたない内容と文章ではありましたが、ここに一応の完結を見られたことはまさに皆さんのご協力のお陰であると改めて感謝しております。

次回作、あるいは第二部でもお付き合い頂けましたら幸いです。



雨音 静香

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― 新着の感想 ―
[一言]  面白い誤字の元は何か想像し、誤字報告するのも楽しみの一つでした。  第二部に続くと聞いて安心です。  第一部終了 お疲れ様です、ありがとうございました。
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