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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
最終章 穂乃香の決断
810/812

810 幼女、封印の準備に入る

「それじゃあ、二人とも、お願いね」

 穂乃香は、自分を挟むようにして左右に立った茉莉とみどりにそう声を掛けた。

「ほんとうにだいじょうぶなの?」

 しっかりと必要な魔法陣を覚え、練習を幾度かしたみどりであったが、その表情は不安の色が強い。

 茉莉の方も決して顔色が良いわけではなかった。

 理由は単純に穂乃香の用意した魔法陣にある。

 魔法使いの魔法と魔力を封印する儀式、それに用いられる魔法陣なのだが、それを使われる対象は罪を犯した魔法使いなのだ。

 つまり、穂乃香の用意した魔法陣はそもそも魔法使いに対する刑罰用のものである。

 当然だが、本来は罪を犯したものに掛ける魔法であるため、その安全性にみどりも茉莉も不安を感じているのだ。

「前に使った魔法封印の魔具があったでしょ? アレを強化しているだけで、体に影響はないよ」

 みどりに大丈夫だと伝えるために、穂乃香は軽めの口調でそう告げる。

 が、みどりと茉莉の表情はそれほど浮かなかったので、顔を上に上げて「千春さーーん」と呼びかけた。

 すると、即座にスピーカー越しに返事が返ってくる。

『はい、何でしょう、穂乃香お嬢様?』

「魔法を封印する魔法具に描かれた魔法陣と、二人に伝えた魔法陣はそれほど違わないよね?」

 穂乃香の言葉に対して、千春は即答しなかった。

 その事に一番動揺したのは、直ぐに同調してくれると思っていた穂乃香である。

「え、千春さん?」

 二人を納得させないといけないという事情もあるために、穂乃香の表情は引きつり始めていた。

 そんな穂乃香の表情の変化に、千春との間には事前の取り決めはなさそうだと茉莉は苦笑する。

 一方、みどりは穂乃香とスピーカーの間で視線を行き来させながら、不安そうな表情を見せていた。


『私が分析した結論で言わせて頂きますと、魔法具に使用されている魔法陣と、みどりさんと茉莉が使おうとしている魔法陣はほぼ同じものと言って良いと思います』

 ようやく戻ってきた千春からの反応に、穂乃香はホッと胸を撫で下ろした。

 だが、そんな穂乃香が瞬時に緊張するような一言を、茉莉がポツリと零す。

「ほぼ?」

 千春の言葉を待っていたために、皆が発言を控えていたせいで、茉莉の呟きは思いの外大きく響いた。

「え、えっと、どこがちがうのかしら?」

 明らかに動揺した声で、穂乃香が千春に説明を求める。

 対して、千春は丁寧な口調で淡々と答えを返してきた。

『違う点は、魔法陣同士の連携と、術者の波長の記録部分ですね』

 千春からの言葉に、穂乃香は今一度、ホッと胸を撫で下ろす。

 それならば説明出来ると踏んだのだ。

「千春さんの言ってくれた相違点については、私から説明するわ」

 先ほどとは違い力のある声で、穂乃香は宣言する。

 当然、流れるように皆の視線が穂乃香に集まり、それをきっかけに説明が始まった。

「皆にも言ったとおり、二人に使って貰う魔法陣は、元々は罪を犯した魔法使いの魔法を封印するために用いられる魔法陣なの」

 その点までは受け入れているので、みどりも茉莉も静かに頷く。

「当然だけど、魔法の封印は簡単に解けて貰ったら困るよね?」

 穂乃香の言うことは、刑罰という側面を考えれば当然のことであり、簡単に解除されてしまっては全く意味が無いのだ。

 更に、魔法封印にまで追い込まれてしまった魔法使いが、それを逆恨みする可能性を考えれば、魔法の解除は即ち危機の増大に等しい。

 そこをしっかりと理解した上で、クルミが確認の言葉を口にした。

「つまり、魔法陣の連携は、魔法の封印が解けにくくするための機構って事ね?」

 穂乃香はクルミの言葉に頷きながら「そして、波長を記憶するのは」と続ける。

 そんな穂乃香の言葉を継いだのはゆかりだった。

 深く頷きながら「波長を鍵にするという事ですか」と口にすれば、穂乃香が首肯する。

 そうして、理解したことを確認し合う主従だが、当然理解の追いつかない者もいた。

 アリサがそんな面々を代表して「説明の追加を求めるデーース!」と要望する。

 すると、顎に手を当てて考えながら茉莉がその要望に答え「あれでしょう?」と切り出した。

「魔法使いの波長を記録することで、その魔法陣を起動した魔法使いにしか魔法を解除出来なくする……だから、鍵」

 茉莉の言葉に穂乃香は大きく頷く。

 それから、穂乃香はみどりと茉莉に対して、順番に真剣な眼差しを向けた。

「いつか私の魔法が必要になる時まで、茉莉お姉ちゃんとみどりちゃんに、私の全てを預けます」

 重い言葉だと茉莉は思う。

 大人顔負けの知識や考え方や強さを持っている穂乃香だが、その中心にあったのは間違いなく魔法の力だと、茉莉は確信していた。

 いざとなればどうにか出来る力、いかなる理不尽もねじ曲げてしまえる力、それを手放すのにどれほどの勇気と覚悟がいるのか茉莉にはわからない。

 穂乃香とは比べものにならなくとも、魔法の力を得たことで、自分に以前よりも自信が満ちているのを自覚する今ならば、封印を選択するのに、すさまじい覚悟がいるのだということだけは、茉莉にも理解出来た。

 そして、同時に穂乃香は自衛の力を手放すのである。

 みどりや奈菜、月奈に、そして茉莉やゆかりを始めとする護衛隊に、穂乃香は身を委ねることを選んだ。

 プリスラーフマーナの侵攻の芽を可能な限り摘む為には妙手かも知れないが、実際天秤に乗せられるものが、自分の身の安全や力となれば、茉莉は決断出来なかったであろう自分を容易に想像出来る。

 その分だけ、茉莉は穂乃香の覚悟の大きさに、尊敬の念を抱くのだった。

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