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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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081 幼女、無茶ぶりをこなす

 撮影は翌日からということで、撮影クルーはすでに榊原グループの職員の協力を得ながら島中のあちこちで撮影の準備に入っていた。

 あわただしく動き回るスタッフを他所に、穂乃香やみどり、奈菜は、ウィッチチームと共に、食堂に丸く椅子を並べた状態でセリフ合わせを、あおいの指示のもと行っている。

 ちなみに、少し離れた場所に見学者兼監督者として、菊一郎以下、陽子、ゆかり、由紀恵、加奈子も席を用意されて、その様子を見つめていた。

「じゃあ、まずは千穂と穂乃香ちゃんの出会いのシーンから」

「はい!」

 千穂は右手を上げながら短くも気合の乗った返事をすると素早く立ち上がる。

 次いで、穂乃香も見よう見まねで「はい!」と手を上げて千穂に続く。

「ここは……どこ? み、みんなは!?」

 既に半年以上主役の凛華を演じている千穂は、台本を座っていた椅子の上に残したまま、演技を始めた。

 不安そうに帽子のつばを上げつつ空を見上げた後で、周囲の人気のなさに慌てて周囲を見渡す千穂のパントマイムが、パーカーとジャージスタイルで食堂内であっても、魔女の姿で森の奥深くにいる姿を見ているものの脳裏に容易に抱かせる。

 容赦なく場の雰囲気を緊張で塗りつぶしてしまった千穂に、ウィッチチームの面々は表情を曇らせた。

 こと演技においては、役に入り込んでしまう癖のある千穂は、普段見せる気遣いがゼロになる。

 というよりも、演技に没頭しすぎて、周囲に気を配れなくなってしまうのだ。

 本番でも、テストでもない、台本を読む段階でも、千穂は演技であるために深く潜ってしまう。

 そんなまさに完璧な演劇人の後に、素人の、演劇の経験もない、しかもまだ幼女の穂乃香にセリフを読ませようというのだ。

「さすがに、ひどすぎる」

 そう零したのは、いつもは明るい言動で場を和ませているクルミである。

 実力主義の世界で、たまに真剣さの足りない勘違いした子にお仕置きとしてプロの洗礼を浴びせることはない事ではないが、今この場でやる事ではないと、クルミはストップを掛けようとした。

 しかし、それを止めたのは穂乃香の演技である。

 台本は千穂と同じく机の上に置かれ、千穂を見ているようで、見ていない不思議な目をしながら、与えられたセリフを口にしていた。

「ようこそ、魔女の娘、ここは精霊の住まう森、ここに立ち入るに足る資格がそなたにあるのか、我、自ら問いに来た」

 抑揚のないそれでいて耳に馴染む発声に、行動を起こしかけていたクルミだけでなく、その場のほぼ全員が押し黙る。

 その中で、あおいは笑みを深め目を輝かせ、千穂は当たり前のように次の自分のセリフへと移った。

「あなたは……いえ、あなたが精霊の姫?」

「名は無い、好きに呼ぶがいい。だが、この場にこれ以上留めおくかどうかは決めねばならぬ」

 台本のト書き……演技の指示に従って、穂乃香は右手を前に向かって翳す。

 すると、後ろによろめきながら、千穂は数歩たたらを踏んで見せた。

「……は、話を聞いてください!」

「まずは試練を受けよ! 話はそれからだ……もっとも、結果次第では『それから』などないがな」

「そん……な……」

 ガクリと千穂が膝から床に足をつく。

 それをもって、アネモネと精霊の姫の出会いのシーンは終わりを迎えた。

 直後である、ガバリと立ち上がった千穂が、喜色満面で穂乃香を抱き上げる。

「わぁ!」

 思わず抱き上げられた穂乃香が驚きの声を上げた。

 一方、穂乃香を抱き上げた千穂は、頬を真っ赤に染めて興奮した様子で、口早に言葉を発する。

「すごい、すごいよ、穂乃香ちゃん、天才、天才だね、最初っからこんなに入り込めたのは、穂乃香ちゃんのお陰だよ! もう、すごい、すごすぎ!!」

 大絶賛で褒めちぎる千穂に対して、穂乃香はすごくくすぐったい思いをしていた。

 何しろ、演技にあたって参考にしたのは契約を果たしたばかりの『ユラ』で、穂乃香としてはそれを真似ただけである。

 演技というよりはモノマネで、それを高く評価されたことが、どうにも照れ臭いのだ。

 が、それはあくまで当人の心理であり、当人の評価である。

 千穂から始まる無茶な本読みを止めようとしていたクルミなどは、目の前の光景に飲まれて、上げかけていた腰を力なく椅子に戻した。

 無邪気に千穂と穂乃香の応酬を絶賛するみどりと奈菜とは対照的に、クルミをはじめとする千穂以外のウィッチメンバーは、若干顔色が青ざめている。

「まさか、あの穂乃香ちゃんって、千穂クラスの化け物なのか……」

 異常なのどの渇きを感じながら茉莉がぽつりとつぶやいた。

「ほぼ全開の千穂さんとやりあって、それでいて違和感がないなんて……信じたくないです」

 引きつった笑顔で、座る椅子の背もたれに体重をかけたアリサは深い溜息を落とす。

「演技経験ゼロだそうです……よ、アレで」

 彩花の様子は常とは変わらなく見えるが、寒さでも感じたのか、しきりと手を擦り合わせていた。

「ちほりんの全開を当てさせるなんて、ヒドイと思ったけど、こんなの見せられた私達の方がひどい目に合ってるよー」

 力なくクルミは天井を仰ぎ見る。

「あっちにも、こっちにも、天才か……」

 力なく言葉を零したクルミは、そっと何かを隠すように自らの右手を目の上に重ねた。

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