809 幼女、戯れる
「みどりちゃんには、もう一つやって貰いたい……じゃ、ないな……やって貰わないといけないことがあるの」
穂乃香の言い直しに、ただならぬものを感じ取ったみどりは、無意識に背筋を伸ばした。
それから、少し気持ちを落ち着けると「な、なに?」と緊張気味に内容を尋ねる。
対して穂乃香は、直ぐに応えずに目を閉じた。
どういうことだろうかと、みどりが首を傾げた直後、穂乃香の周囲に五人の眷属が姿を現わす。
「黒華……たち?」
思わずそう口にしたみどりに、穂乃香は「ええ」と言いつつ頷いて見せた。
それから、改めて説明の言葉を付け足す。
「この子達を預かって欲しいの」
みどりは穂乃香の言葉に、正直拍子抜けしたような気分で「もちろんだよ」と頷いた。
だが、そんなみどりの言葉に対して、穂乃香はぐっと表情を引き締める。
穂乃香が何故表情を変えたのかわからないみどりが、戸惑いの表情を浮かべると直ぐに、更なる説明がなされた。
「以前、皆に五人をそれぞれ預けた時は、私が魔力を霊力に変換した上で、皆に送っていたの」
みどりはそのたった一言で、理解してしまう。
「そっか……みどりは穂乃香ちゃんのかわりをするんだね」
穂乃香はみどりの発言に、ゆっくりと重々しく頷いて見せた。
その態度から、自分に任される穂乃香の身代わりはとてつもなく大変なことなのだと、みどりは理解する。
だからこそ、みどりは直ぐに月奈と奈菜を見た。
「月奈と奈菜に、穂乃香ちゃんをまもるのをおねがいすることになるかもしれない」
つい直前まで三人でやってみせるという気持ちで奮い立っていただけに、自分が眷属を支える役目を引き継いだら、そこに加われないかも知れないと想像したみどりは、申し訳なさそうな顔で二人を見る。
そんなみどりに、月奈はニカリと笑って「なにいってるのみどり、やくわりぶんたんでしょ?」と頷いて見せた。
一方奈菜は少し困り顔になって、溜め息をつきながら「全部やれなくてごめんなさい、なんて、穂乃香ちゃん真似すぎだよ」と指摘する。
奈菜のその言葉はみどりに突き刺さったが、穂乃香にもしっかりと効く指摘だった。
みどりと穂乃香がお揃いの苦笑いを浮かべる。
そんな中で、疑問をそのままにしておけない茉莉が少し申し訳なさそうに、穂乃香に問い掛けた。
「えっと、なんで、眷属の皆を預かるのが、みどりちゃんの方なのかなぁ……?」
どこか探るような茉莉の態度に、穂乃香はすぐさま答えを返す。
「え? みどりちゃんの方が仲がいいから」
「なっ!」
絶句だった。
穂乃香から返ってきた答えが、まるっきり想定外だったことも勿論だが、仲の良さを出されて優劣をつけられたことが思いの外ショックだったのである。
茉莉は思わず「冗談でしょ?」と口に出して尋ねた。
すると、穂乃香は「うん、冗談」と簡単に頷いてみせる。
穂乃香があっさりと言い放ったせいか、皆の理解がすぐに及ばず、シンとした空白の時間が訪れた。
そんな中で冗談だと肯定された茉莉は、安堵と、からかわれたことへの憤りと、簡単に乗せられた自分を恥じる気持ちで、火照るほどに体が熱くなる。
結果、真っ赤になった茉莉は「なっ……」と、同じ音を繰り返すことしかできなかった。
すると、その流れの一部始終を見ていたクルミがお腹を抱えて笑い出す。
そうなれば、笑いは伝播し、茉莉に対する遠慮から、声を上げるのは堪えたものの、アリサも肩を大きく震わせ始めた。
そんな二人の変化にいち早く気付いた茉莉は声を張り上げる。
「ちょ、笑うな!」
茉莉の放った抗議の言葉には、多分な照れ隠しが混ざっていた。
「真面目に答えると、みどりちゃんは召喚獣を持っているからってことかな」
穂乃香の言葉に、島村が深く頷きながら確認の言葉を口に出した。
「なるほど、性質の違う属性の霊力を供給するのに向いているということですな」
「うん。まあ、それに、みどりちゃんには一度黒華を預かってもらっているしね」
穂乃香の言葉に黒華がみどりの頭の上をくるくる回りながら「そうなのれす!」と頷く。
「黒華たちは魔力ではなくて霊力を糧にしているから、茉莉お姉ちゃんよりも、五行の聖獣を従えているみどりちゃんの方が何かと相性がいいのよ……魔力の霊力変換も自然とできているしね」
ちらりと、みどりを見る穂乃香の目には、しっかりと信頼が宿っていた。
それを見た茉莉は、呆れ顔で大きく溜息を吐き出して見せる。
「最初から真面目に言ってくれてもよかったと思うんですけど?」
不満げな口ぶりで言う茉莉に対して、穂乃香の顔が正面を向いた。
反射的に何かを言われることを察した茉莉は、ピクリと肩を震わせる。
「真面目な話ばっかりじゃ、疲れちゃうでしょ?」
ペロッと小さく舌を出した穂乃香に、茉莉はこめかみに血管を浮き上がらさせた。
「からかわれる方が疲れるに決まっているでしょうがぁぁぁぁ!!!!」
心の底から放たれた茉莉の言葉に、クルミとアリサを皮切りに皆が噴き出し、笑い出す。
そうして、皆でひとしきり笑いあった。




