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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
最終章 穂乃香の決断
802/812

802 幼女、負けを認める

 茉莉の宣言に、一瞬頭が真っ白になってしまった穂乃香だったが、目を閉じて息を吐き出すことで、気持ちを立て直した。

 その上で、茉莉に切り返していく。

「茉莉お姉ちゃんはお仕事があるでしょう? 学校だって!」

「辞める」

 茉莉の間を置かない断言に、目が飛び出しそうになりながら、穂乃香は「はっ!?」と驚きの声を漏らした。

「穂乃香ちゃんが行くって言うなら、私は全部を捨ててでも行く!」

 表情を消していた先ほどまでとは打って変わって、慌てた様子で、穂乃香は茉莉に思い止めようと声を掛ける。

「ま、まって、茉莉お姉ちゃん!!」

 だが、茉莉の態度は硬いままだった。

「なぁに、穂乃香ちゃん?」

「ちゃんと、考えて! 茉莉お姉ちゃんにはたくさんのファンがいるし、学校だってあるでしょう!」

「うん。だから全部捨てる。穂乃香ちゃんの方が大事だから」

「ちょ……」

 かたくなな茉莉の態度に、穂乃香は説得の言葉を失ってしまう。

 そのタイミングを冷静に待っていたクルミは、シレッと手を上げた。

「それじゃあ、私も同行します」

「クルミお姉ちゃん!?」

 責任感の強い茉莉はともかく、クルミまでが同行を志願してくることは想定していなかったために、穂乃香の驚きは、この日一番となる。

 目を丸くして固まる穂乃香に向かって、クルミはにまりと笑って見せてから、自分が同行する理由を並べ始めた。

「正直穂乃香ちゃんがいなければ、私は今も不安を抱えたままだったと思うからね。このお屋敷で雇って貰えてなかったら、こんな風に心から安心することは出来なかったと思う……つまり、穂乃香ちゃんは大恩人で、この星野クルミはその恩をきっちり返さなくちゃいけないの……ま、それを別にしても、今の私にとって、この世界で一番大事な女の子が穂乃香ちゃんだからね、傍で守りたいって思うのは当然でしょ?」

 まさに一人舞台と言わんばかりに、大きな身振りを交えて、クルミは思いの限りを言葉に変える。

 覚えたセリフはスラスラと口に出来るクルミだけに、時折挟む小さな間が、彼女自身の言葉であることを強調していた。

 そんなクルミの本心からの言葉に、穂乃香が固まっていると、今度はアリサが意思を示す。

「私も行きたいネ! 異世界に挑むことは、自分を磨く事にも繋がると思うネ! それに何より、私は仲間を守りたいネ!」

 茉莉に続いて、クルミ、アリサと参加を主張すれば、一度は思い留まったみどり達も意見を変えた。

「や、やっぱり、みどりもいく!」

「るなだって!」

「私も行きます!」

「お母さんだってついて行くんだから!」

 こうなってしまうと、穂乃香としても、皆を押しとどめることは出来無い。

 大きな溜め息をついてから、穂乃香は「わかりました、私の負けです」と敗北を認めた。


「負けというのは、どういう意味ですか、穂乃香お嬢様」

 鋭い視線を向けたままでゆかりは、穂乃香にどう敗北したのかを語るように迫った。

 しっかりと言質を取らなくては、のらりくらりと認識の隙を突いて、事実をねじ曲げかねないとゆかりは警戒を緩めない。

 それは、茉莉やクルミも同様で、何に対して負けを認めているかを口にするまでは油断しないというのが、表情にありありと浮かんでいた。

 真剣な皆の眼差しに苦笑を浮かべた穂乃香は、両手を挙げて降伏したことを強調しながら、落ち着いた口調で宣言する。

「プリスラーフマーナの世界に乗り込むのをやめます」

 穂乃香の宣言を聞いて、桃香は胸に手を当てて、ふぅと息を吐き出した。

 島村、沙織も大きく表情には出なかったが、それでも僅かに体から力が抜ける。

 みどり、月奈、奈菜もお互いに笑顔を交わし合って安心し合っているように見えた。

 だが、ゆかり、茉莉、クルミの三人は緊張を解いていないし、アリサはじっと穂乃香を見詰めたままである。

 穂乃香は自分の発言が信用されていないことに、苦笑しながらも、いつもの口調で問い掛けた。

「でも、乗り込まないって事は、こっちは受け身になるんだよ?」

「穂乃香お嬢様が、アチラの世界に乗り込むような無茶をしないのであれば、どんなに困難でも、対策を完璧にやり遂げる覚悟です」

 間髪入れずに見事な答えを示したゆかりに追従するように、穂乃香の直弟子である茉莉とクルミも大きく頷いてみせる。

「皆の気迫はわかるけど、相手がどう出るかもわからないで対策するって事は、全ての可能性を考えて備えなければいけないって事なのよ?」

「それがなにか?」

 シレッと返してきたゆかりに、穂乃香は呆気にとられて、目を瞬かせた。

 そんな穂乃香に向かって、茉莉もたたみかける。

「穂乃香ちゃんが危険な世界に一人で挑むことに比べたら、一緒に頑張れるだけで、十分やる気になるし、その為の努力ならいくらでも出来ちゃうよ!」

 そう言い切った茉莉に、穂乃香が目を僅かに潤ませながら「茉莉お姉ちゃん」と熱の籠もった声でその名を呼んだ。

 自分の言葉が響いたのだと、嬉しく感じた茉莉も「穂乃香ちゃん」とその名を読んで両手を差し出す。

 いつでも抱きしめてあげられる体制を取った茉莉に、穂乃香はニヤリと笑みを浮かべてみせた。

「良い案があるんだけど」

 想像とは違う穂乃香の言葉に、茉莉は「へ?」と間の抜けた声を漏らす。

「茉莉お姉ちゃんの根性ならゼッタイ出来ると思うんだよね、私」

「……へ、へぇ」

 完全に穂乃香に嵌められた気分で、茉莉は生返事をした。

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