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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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080 幼女、台本に戸惑う

 穂乃香が承知したことで、菊一郎が復活した。

「ほれみろ、穂乃香もやる気ではないか!」

 結果的にそうせざるを得なくなっただけなのだが、穂乃香は空気の読める子供である。

 陽子とゆかりの攻撃で菊一郎が沈む前に笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、お爺様。とっても素敵なプレゼントでした」

 その言葉に、菊一郎は感激で目を潤ます。

 さすがに泣き出しはしなかったが、鼻の先まで赤くなっていた。

 そのジジバカぶりに、陽子もゆかりも毒気を抜かれたのか、苦笑しつつ追撃を取りやめる。

 一同の空気がやや弛緩したタイミングで、あおいは次の行動に出た。

「お母様方、こちらの都合でお嬢様にお願いしてしまいましたが、テレビドラマへの出演など、問題はありませんでしょうか?」

 丁寧な口調で尋ねるあおいに対して、由紀恵と加奈子は顔を見合わせてから、ほぼ同時に「主人に確認してみます」と返す。

 雰囲気や流れで承諾する気持ちは強かった二人だが、それでも『聖アニエス学院』という名門校に通わせている娘にとって、テレビに出演させることがメリットなのか、リスクなのかを考えずに即断するわけにはいかないと、一度、間を開ける意味を含んでの回答だった。

 対してあおいはもちろんだとばかり頷きつつ笑顔を返す。

「もちろん、撮影は明日以降で、穂乃香さんと一緒に出演していただくことになりますので、三日後までに決めていただければ結構です」

 てきぱきとスケジュールを切っていくあおいの言葉に、穂乃香は自分の自由意思はもうないのだと、苦笑を浮かべた。

 そこへ、いつの間にか後ろに回り込んでいた千穂が、優しく穂乃香の肩に手を置く。

 プリッチの中でもリーダーであり、ムードメーカーでもある主役の凛華を務める千穂は、とにかく面倒見と気配りができる子であった。

 やや強引なあおいのやり口は心得ているので、その監督が視線を向けるのが奈菜とみどりと察した瞬間から、フォローされないであろう穂乃香の様子をしっかりとフォローしていた千穂は、努めて明るくやわらかな声をかける。

「大丈夫だよ、穂乃香ちゃん。撮影は面白いし、そんな難しいセリフは無いと思うよ。だから、たのしんじゃお?」

 千穂の言葉に穂乃香は目をぱちくりと瞬かせて驚きの心境を見せてから、まるで噴き出すようにして笑みを浮かべた。

「そうですね。楽しんじゃいます!」

「うん。それじゃあ、改めてよろしくね、穂乃香ちゃん!」

「こちらこそ、よろしくお願いします、千穂さん」

 がっちりと握手を交わして笑顔を向け合う穂乃香と千穂に、みどりと奈菜、それにプリッチメンバーが我も我もと群がる。

 こうしてそれぞれが握手を交わして、より仲良くなったところで、荷物搬入を終えた報告がエリーからなされた。


「えーと?」

 パラパラと渡された台本を見て、穂乃香は表情を引きつらせた。

 穂乃香の与えられたのは精霊の少女の役なのだが、とにかくセリフが多い。

 まるまる2ページ喋りっぱなしもあるので、それを新たに参加することになった奈菜やみどりと分け合うとは言って貰ったものの、総量で言えば、ウィッチの誰よりも多かった。

 一方で、みどりは楽しそうに台本を覗き込んでいる。

「ほのかちゃん、いっぱいしゃべるんだねー」

「う、うん」

 素人、それも4歳まであと2カ月はある自分に、それほどの役など用意されていないだろうと踏んでいた穂乃香の前に与えられた役は、なんとゲストヒロインだった。

 しかも、ウィッチたちのパワーアップの為のアイテムを与える役どころである。

 シレッと『人気次第では、戻ってからも撮影をお願いするかもしれないわ』と言い足したあおいのセリフが、今も穂乃香の耳に残っていた。

 そしてである。

 穂乃香を誰よりも誇りに生きるジジバカは、その言葉に二つ返事で了承してしまったのだ。

 つまり、保護者の承諾済みであり、しかも厄介なことに、菊一郎はいかに不利になろうとも意見を翻さない漢として知れ渡っている。

 孫の身に問題がない以上、撤回されないであろう完璧な出演許諾をあおいはもぎ取ったのだ。

 もちろん、慎重さを欠く行動に陽子、ゆかりは抗議をするものの、作り上げてきた榊原会長のイメージを崩すわけにもいかず、追認する以外の術はない。

 藤倉あおいは、監督としての腕前もさることながら、ことキャスティングにおいては無類の天才的手腕を発揮してきた女性であった。

 そんな榊原グループの秘蔵っ子、会長の愛孫娘、しかも容姿は抜群な幼女を、プリッチの秋スペシャルに出演させるという大金星を挙げたあおいではあるが、一つだけ懸念がある。

 いかに天才児との評価を受けている穂乃香であっても、演技の実力は未知数なところが大きいのだ。

 妹であるあかね情報では、劇は保護者への発表の場である冬のお遊戯会まで、幼稚舎の一年生は取り組まない。

 唯一、幼稚舎に入る前の体験入園で、穂乃香が劇に触れたことがあると聞いた程度だ。

 つまるところ、あおいにとってはバクチな部分も大いにある。

 しかし、抜け目のないあおいは、穂乃香がしゃべりやセリフをこなせなくても、声優のアフレコで構わないとそちらの準備も水面下で整えていた。

 若干……いや、かなり無茶な台本を渡したのも、穂乃香の実力を測る一環であり、そして、勝負勘の強いあおいには予感がある。

 そして、とんでもない天才を吊り上げたのだという手応えが、それを確信へと変えた。

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