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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第一章 幼女と新たな人生
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008 幼女、魔法のステッキを欲しがる

「プリッチ、すごく面白かった」

 それは穂乃香の偽らざる感想だ。

 だが、それ以上に、大事なことを教えられた。

 それは『魔女に変身してしまえば、魔法は使い放題だ』ということである。

 もちろん、そんなことは劇中のテーマにすらないのだが、穂乃香はそれで納得してしまった。

 結果として、穂乃香の中で、それは合法的な抜け道として認識されてしまう。

 そして、一つの課題が解決されたことで、穂乃香の目下最大の関心事は、魔法のステッキへと移った。

 魔女に変身するための魔法道具、それを手にできれば、自分も魔女となって、魔法の修行でも研究でもできるはずなのだ。

「ねぇ、ゆかりさん?」

 急に改まって自分を見た穂乃香に、ゆかりは一瞬戸惑った。

 こんな真面目な顔をして何かを訴えようとしたことが今までになかったし、何やら鬼気迫るものが背景にあったのだ。

 どんなことを言われるのか、その見当すらついていなかったのもあり、ゆかりは一瞬口淀んでから、それでも従者としての威信にかけて、平然を装い「なんでしょうか?」と問い返す。

「私も、あの魔法のステッキが欲しいのです」

 穂乃香生涯初のおねだりに、ゆかりは盛大な肩透かしを食らった思いで、さりとて珍しくも年相応な願望に表情が思わず緩む。

「そうですか、わかりました。旦那様にお伝えしますね」

 ゆかりの返事に、今度は穂乃香が身を強張らせた。

「だ、旦那様? おじい様ですか?」

「ええ、そうですよ」

 ゆかりの返事に、穂乃香は自分のうなぎ上りに上昇していたテンションのまま、おねだりをしていた自分にようやく気が付いた。

 穂乃香は外見はともかく、人生を一度終えるほどの経験を積んだ記憶がある。

 それゆえに、常日頃、自分の周りにはたった一人、ゆかりというメイドが付くだけで、覚醒してからも、その前の朧な記憶でも両親と対面したことがない事実をしっかりと自覚している。

 そして、時折出てくる旦那様こと自らの祖父とも、穂乃香は片手で足りるくらいしか会ったことがない。

 それらを総合すれば、自分の置かれているのが複雑な家庭環境であり、場合によっては祖父に疎んじられている可能性さえあると穂乃香は推察していた。

 その厄介者かもしれない自分が『おねだり』などとんでもない事だった。

「あ、あの、やっぱり、今のは、きのまよいということで、聞き流してほしいのじゃ」

 動揺のあまり言葉が乱れる。

 顔面も蒼白を越えて、かなり不健康な白に差し掛かっている。

 そんな尋常ならざる穂乃香の様子に、ゆかりは静かにその頭を撫でた。

「大丈夫ですよ、穂乃香お嬢様」

「えっだまっててくれるのかの?」

「いえ、そうではなくて、旦那様はむしろ喜んでご用意なさると思いますよ」

 衝撃のゆかりの発言に、しかし長く生きたがゆえの警戒心がむくむくと膨れ上がってきた。

「そ、そんなことを言うて、ゆかりさんはわしを破滅に誘う者なのではないのか!?」

 びくびくと怯えながら警戒心で猫のように威嚇をしてみせる穂乃香に、ゆかりは笑う。

「嫌ですわ、穂乃香お嬢様」

 そこで視線を逸らして「やるなら、そんな風に悟られないようにやりますよ」とそれはそれは低い声で、恐ろしい一言が付け足された。

 普通の子供ならトラウマにでもなりかねない低く深い声だったが、逆に穂乃香は目を瞬かせると「なるほど」と納得してしまった。

「悟られた可能性があるのに、手を出すわけないですよね、ゆかりさんが」

 落ち着いたのか口調も戻った穂乃香はそう言って笑みを浮かべる。

 その反応に、ゆかりは心の底から笑いだしてから、一言付け加えた。

「ただ、穂乃香お嬢様のおねだりは初めての事なので、旦那様が非常に張り切る可能性があるのはお伝えしておきます」

「え……そっち?」

「はい。そちらです」

 祖父が自分を疎ましく思っているのではなく、単に大事に思うあまり接し方に苦慮していると知り、穂乃香はホッとした。

 そして、落ち着いた状態で思い返してみれば、微妙に距離を取られていたのも、急に背後を取られて驚かされたのも、接し方に迷っていたのだとすると納得できるものがある。

 なにしろ、自分も孫が出来た時に嫌われたくない一心で距離を詰められず、逆に嫌われた苦い記憶を持っていたので、ものすごい親近感を抱くこととなった。

 今生の祖父は、まるで昔の自分の様だ。

 そう思うと、ゆかりの言っていた張り切り過ぎるかもしれないという予測にも納得がいく。

 ペンダントを孫娘にねだられたときに、世界でも数えるほどがない高価な魔石を加工して作り上げたものを与えたら、息子夫婦はもちろん、時の国王にまで怒られたものだ。

 まるでやり過ぎではないと思っていたのだが、周りの剣幕は恐ろしいほどで、泣く泣く贈るのをあきらめた悲しい記憶がある。

 私はどんなものでもしっかり受け取ろう。

 そして、お爺ちゃん孝行もしよう。

 穂乃香はそう心に誓うと、一つの思い付きをゆかりに告げた。

「あの、おじい様にお願いのお手紙を書きたいのですが」

「まあ! それはいい考えですわ」

 笑顔で微笑みを返すゆかりに、穂乃香は大きく頷いた。

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