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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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077 幼女、魔女たちと出会う

 凛華役の少女は大げさに頭をさすりながら、明るい声で「ごめんね、桜花ちゃん!」とサイネリア役の少女を風祭桜花の役名で呼んだ。

 不用意な発言で、穂乃香たち幼女の夢を壊さずに済んだだろうかと、内心ではドキドキしながら、凛華役の少女は一同の反応を待つ。

 だが、その穂乃香たちへの気配りも、フォローも台無しにする者が現れた。

「やほやほー、初めまして、星野クルミだよっ!」

 大きく右手を広げて手を振る少女、星野クルミは、劇中では引っ込み思案で怖がりという役どころのマーガレットこと安土菊乃を演じている。

 クルミの役どころとはまるで違う態度と名乗った名前に、凛華役の少女は驚きで声もなく口をパクパクさせた。

 その横では桜花役の少女が、やってしまったと言わんばかりに、顔を手で覆って空を見上げる。

 だが、二人の少女の反応を他所に、後から追いついてきたローズに変身するローザ役の金髪の少女が、大きな青い眼を瞬かせながら疑問を口にした。

「どーした、デス? 挨拶、キャラクターと本名と、どっちがいいデス?」

 きょろきょろとウィッチメンバーを見渡したローザ役の少女の横から顔を出したリリーに変身する氷川沙百合役の少女が、苦笑しながら答える。

「なんというか……いろいろ手遅れなので、ちゃんと本名と役名で自己紹介をしましょう?」

 その提案に、凛華役の少女はがっくりと肩を落として「そだね」と頷いた。

 わずかな時間で目まぐるしく会話を交わし合うプリッチたちを前に、穂乃香もみどりも目を瞬かせている。

 そんな二人とは違って、奈菜は羨望のまなざしでクルミを見ていた。

 奈菜は引っ込み思案な自分を十分すぎるほど自覚しており、ドラマの中では同じような性格のマーガレットに変身する菊乃に誰よりも親近感を覚えていて、思わず応援してしまうことが多い。

 その彼女が、こうして誰よりも明るく挨拶をして見せた姿に、奈菜は感動していた。

 自分も変わりたいと思い、一生懸命穂乃香の横に立つために背伸びしている自分の理想を見た気がして、奈菜はクルミに一瞬で尊敬の念を抱く。

 そして、クルミはプリッチ以前にも子役としてさまざまなドラマに出演しており、実は5人の中では一番芸歴が長かった。

 だからこそ、奈菜の視線に一番早く気が付いて、クルミは微笑みを返す。

「テレビと違って嫌だったかな?」

 まっすぐと自分を見て、聞いて来るクルミに、奈菜は慌てて首を左右に振った。

「じゃあ」

 奈菜の容姿や穂乃香のやや後方に隠れて立つ姿に、性格を察したクルミは、ふっと柔らかい笑みを浮かべてみせる。

「私も菊乃ちゃんのように引っ込み思案だったから、うまく演じられるんだよ~。それからね、今は知らない人に会うのが楽しいよ。人は変われるんだよ」

 クルミの言葉に、奈菜は自分の気持ちが理解してもらえたのだという感動で、より羨望の眼差しを強めた。

 それから、穂乃香の横に立つと、これまで出したことのない大きな声で自己紹介をしてみせる。

「聖アニエス学院幼稚舎一年もも組、竹本奈菜です!」

 そのはきはきとした奈菜の力強い挨拶に、わずかな言葉でそれを引き出したクルミの手腕に穂乃香は素直に感心していた。

 だが、穂乃香からも尊敬の眼差しを向けられたクルミは、奈菜の自己紹介に大きく動揺する。

「えっ、君達、幼稚園児だったの!?」

 穂乃香の落ち着きぶりや奈菜の背の高さに小学生くらいと踏んでいたクルミは、年齢を予測して自己紹介を軌道修正させた凛華役の少女へ視線を向けた。

「え、今更、やり直しはできないよ」

 目を閉じて左右に小さく首を振りながら無理と言う凛華役の少女の答えに、クルミは慌てて穂乃香、奈菜、みどりと表情を窺う。

 クルミを評価するような目を向ける奈菜と穂乃香は大丈夫そうだが、みどりは瞬きを繰り返していた。

 その反応は、状況を飲み込むための儀式だと察しがついたクルミだが、みどりの中でどんな結論に至るかまでの想像はつかない。

 営業スマイルを顔に張り付けて、クルミはみどりの審判を待った。

 何しろ、凛華役の少女が懸念した『夢を壊す』を実践してしまっているので、怒られても泣かれても仕方がない。

 そんな思いで見るみどりが、ポツリと呟いた。

「リコちゃんだ」

「へ?」

 想像もしなかった言葉に、クルミは間抜けな声を上げる。

 だが、一方で穂乃香はなるほどと言わんばかりに幾度も首を上下させていた。

 それを視界に捉えたクルミが、説明を求めるように穂乃香へと向き直る。

「リコちゃんは同じクラスの子なんですけど、女の子同士の時と、男の子といる時と態度が違う子なんです」

「えと、リコちゃんはすっごくおしゃべりが好きで優しくて可愛い子なんですけど、男の子がいると喋らなくなっちゃうんです」

 穂乃香の後を引き継いで、奈菜が一生懸命説明すると、クルミはよくわかったと頷きを見せた。

 そうして、一応の落ち着きを見せたところで、沙百合役の少女が提案する。

「では、改めて自己紹介をしませんか? クルミと奈菜ちゃんだけしかしてないですし」

 沙百合役の少女は、ほんわかとした雰囲気を纏いながらも、しっかりと指針を示し、一同は誰からともなく頷いた。

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