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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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073 幼女、お仕置きを見る

 ヘリコプターから飛び降り海中へと降り立った老人は、ニヤリと笑みを浮かべると穂乃香を見る。

「久しぶりじゃな、穂乃香、息災であったか?」

 状況にそぐわないドヤ顔と決めきった声の老人に、ゆかりは呆れと非難の混じった声を投げつけた。

「何をしてらっしゃるのですか旦那様!」

 穂乃香は呆然としつつも、ゆかりの言葉に思い当たった相手の敬称を口にする。

「…………おじいさま」

 そう呼ばれた直後、空から降りてきた穂乃香の祖父菊一郎は、子供のように目を輝かせると、すぐに糸のように細めた。

「穂乃香、会いたかったぞ!」

 感極まって穂乃香を抱きしめようと両手を広げた菊一郎の前へ、目をキラキラと輝かせてみどりが割り込んでくる。

「ねぇ、おじいさんが、ほのかちゃんのおじいちゃんなの?」

 出鼻をくじかれる形となった菊一郎だったが、それを気にした素振りも見せずに、パッと手を閉じると、みどりに微笑みかけた。

 それからとても柔らかな口調で「そうじゃよ、岩崎みどりさん」と頷いて見せる。

 ニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべる菊一郎にみどりは嬉しそうに頷きを返す一方で、低空とはいえ数メートルの高さから飛び降りて登場するという怪行動に、奈菜は若干怯えた目を向けていた。

「ほ、穂乃香ちゃん」

 声をわずかに震わして自分に身を寄せてきた奈菜の頭を、穂乃香は安心させるようにポンポンと叩いてから口を開く。

「あの、お爺様、とりあえず浜へ上がりませんか?」

「ふむ、穂乃香が言うならそうしようかの」

 穂乃香の言に嬉しそうに頷くと素早くその手を握って、ザバザバと身にまとう着物のあちこちから水を噴き出しながら、菊一郎は浜へ向けて歩き出した。


「旦那様、何を考えてらっしゃるのですか、ヘリから飛び降りるなど! しかも、お召しになっているのは最高級の……」

 目を吊り上げたゆかりの発言を、片手を上げて制した菊一郎は「わかった。わしが考えなしだった」と素直に非を認めると、あっさり頭を下げた。

「お前にも心配を掛けたし、確かにこの着物を仕立ててくれた者にも申し訳ないことをした」

 顔を上げながら言う菊一郎は、眉を下げ反省している風に見える。

 そんな哀れさを誘う老人の表情に、感じるものがあった穂乃香は、すぐに「お爺様」と声を掛けた。

「おお、穂乃香はこの駄目な爺を許してくれるのか?」

「もちろんです、お爺様」

「ありがとうのう。さすが穂乃香じゃ。優しいのう」

 目を細めて柔らかく笑った菊一郎に、落ち込ませずに済んだと穂乃香は胸をなでおろしたが、ゆかりは違う。

 平然と穂乃香を垂らし込んだ茶番劇の演者に、ゆかりは目を吊り上げたままで一歩迫る。

「穂乃香お嬢様は騙せても、私はそうはいきませんからね、旦那様。きっちり小池さんに報告しますからね」

「なぬっ!?」

 好々爺然とした笑みを浮かべていた菊一郎が、慌てて目を見開いた。

「こ、小池はまずい、ゆかり、この爺に無体を働くのはよしてくれんかの?」

「無体ではありませんし、穂乃香お嬢様をダシに使おうとした報いなので、甘んじて受け入れてください」

「むぅ……おぬし変わったの……」

「何せ、今は穂乃香のお姉ちゃんなので」

 シレッと言いきったゆかりに、菊一郎は周囲の誰もが気付かないほど一瞬だけ嬉しそうな顔をのぞかせると、「しかたないのぉ」とあきらめの言葉を口にする。

 それを聞いたゆかりが満足そうに頷いたところで、先ほど浜辺を横断していったエリーたちが、一人の小柄な人物に率いられるようにして浜辺へと戻ってきた。

「なんで、ヘリポートに着陸するまで、我慢できないっ!!!」

 大声を張り上げたのは、エリー達を先導するように先頭に立った小柄な人物である。

 穂乃香は見覚えのない顔に「あれは?」とゆかりを見れば、その視線に応えるように頷き、紹介を始めた。

「はい。彼女は旦那様……穂乃香お嬢様のお爺様の第一秘書である小池陽子さん。今年で61歳のスーパーウーマンです」

「違うよ、あたしは62歳。あと、そんな大したもんじゃない。ただのクソババアさ!」

 エリーたちを率いるようにして歩いてきた陽子は、年齢を感じさせぬしっかりとした足取りで浜辺まで足を止めることなく一気に歩き切ったにもかかわらず、息一つ切らさずにそう言い切ってみせる。

 ピシッと着込んだパンツスーツを姿勢よく着こなし、キリッと後頭部で結ばれた髪は白髪でありながらつやつやと輝いていて、全身からできる人の雰囲気を醸し出していた。

 ゆかりのスーパーウーマンという評価に誇張は無いように見える快活な老秘書は、穂乃香たちに歩み寄った勢いを殺すことなく、流れるような動きで菊一郎の頭に拳骨を全力で振り下ろす。

「このバカジジイ!!!」

「いだああああああ」

 拳骨で殴られたところを抑え、そのまま砂浜に大げさに突っ伏す菊一郎を一瞥すると、陽子は穂乃香に対して頭を下げた。

「ご無沙汰しております。穂乃香お嬢様。以前お会いした時は、お嬢様はまだ幼稚舎に通われる前でしたので、ご記憶にないかもしれませんが、穂乃香お嬢様の祖父であるバカいちろ……菊一郎の第一秘書を務めております小池陽子と申します」

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