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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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072 幼女、襲撃を受ける

「ほのかちゃん、ななちゃん~」

 遠くから響くみどりの声に、奈菜以外の3人が視線を向けて手を振る。

 その反応が嬉しくなったのか、ポイポイと履いていたサンダルを投げ出すと、みどりは砂浜を転がりそうな勢いで穂乃香たちの元へと駆け寄ってきた。

「みどりがさいごだね!」

 元気なみどりが着る黄色地の水着には、真っ赤やピンクな花が散りばめられ、彼女の根の明るさを表現している。

 そんなみどりは、駆け寄ったにもかかわらず反応のない奈菜に気が付いて視線を向けた。

「あれ、ななちゃん、どうしたの?」

「ふぇ?」

「おかお、まっかだよ?」

 コテンと小首を傾げて問うみどりに、奈菜は目を瞬かせてから俯く。

 それから消え入りそうなほどか細い声で「穂乃香ちゃんに、カッコいいって言われたの」と、ものすごく嬉しそうに言い加えた。

 するとみどりは、ちょこちょこと後ろに下がって見てから、パッと笑顔の花を咲かせる。

「ほんとだね、えいごもくろもかっこいい!」

 両手でバンザイをしながらみどりが奈菜を褒めると、奈菜はますます恥ずかしそうにモジモジし始めた。

 そんな二人のやり取りをニコニコと見ていた穂乃香が「じゃあ、そろそろ海に入ろう」と声を掛ける。

 穂乃香の提案に、顔を見合わせてからみどりと奈菜は頷いたが、横からにゅっと入り込んできたゆかりに止められた。

「駄目です!」

「え?」

 割と真剣な口調で止められた穂乃香は目を丸くする。

 対してゆかりは、真剣な表情のまま「準備運動をしなくてはいけません! わかりますね」と迫ってきた。

 その剣幕に、穂乃香は素直に「う、うん」と頷く。

「素晴らしいお返事です」

 穂乃香の態度に満足したらしいゆかりは満面の笑顔を見せた。


「疲れたー」

「ゆかりおねえさんはりきってたね」

 必要以上に熱のこもった準備運動を6人でこなした穂乃香はぐったりとしながらも浮き輪に入りぷかぷかと海を味わっていた。

 その横には同じく浮き輪に入ったみどり、さらにその周囲を控えめなしぶきを上げて奈菜が泳ぐ。

 姉の影響で水泳教室に通っている奈菜は、他の二人と違って、泳ぎにくい海であっても、多少だが泳げたのだ。

「準備運動は大事だって、あかね先生も言ってたからね」

「あー、いってたねー」

 穂乃香の言葉に、みどりがニコニコと同意したところで、奈菜がガバリと顔を上げる。

「あ、ななちゃんおかえりー」

「私の浮き輪につかまって良いよ」

「はぁ……うん、はぁ、ありがとう……」

 二人に褒められたことで、必要以上に張り切って泳いでいた奈菜は少し疲れ気味だったが、穂乃香に浮き輪を勧められると嬉しそうに手を伸ばした。

「それにしても、奈菜ちゃんは泳ぐの上手だね」

「うん、カッコよかった!」

「しょ、しょんなことにゃいよ」

 慌てた様子で謙遜する奈菜だが、嬉しさと恥ずかしさで顔を赤くする。

 そこへ保護者組も追い打ちをかけ始めた。

「いえ、本当にきれいな泳ぎでしたよ、奈菜さん」

「そうねぇ、安心して見ていられたわぁ」

 ゆかりと由紀恵に次いで、加奈子も微笑みを交えて「よかったわね」と微笑みかける。

「水泳を頑張って覚えたお蔭ね」

 加奈子の言葉に、奈菜はもじもじしながらも「うん!」と力強く頷いた。

 プールに通っているときは憂鬱な日もあった奈菜だったが、こうして穂乃香やみどりたちに褒められて評価されて、あの日々は無駄ではなかったと素直に思う。

 そんな自分の努力の成果に、奈菜がジンと胸を熱くした時だった。

 不意に穂乃香が「あっ」と声を上げる。

「どうしました、穂乃香お嬢様?」

 声を上げたのが穂乃香だったこともあり、緊迫感の乗った声で問うたゆかりの言葉は従者としてのモノに改まっていた。

「音が聞こえる」

「あ、ほんとだ」

「ヘリコプターかな?」

 穂乃香の言葉に、みどりが頷き、奈菜が補足する。

 直後、今度はみどりが「あっ」とホテルへと続く森の小路から現れた人物に気付き指さした。

「あれは、エリー……だけじゃない?」

 森の中から姿を現したのはメイド服姿のエリーだけではなく、穂乃香ですら見慣れていないメイドや執事たちが十人、ぞろぞろと浜辺へとやってくる。

 が、エリーたちはペコリと穂乃香たちに向けてお辞儀をすると、そそくさと浜辺を横断していった。

「えーと、なに?」

 首を傾げながら穂乃香は傍らのゆかりに問いかける。

「いえ、何も聞いてません……それに、エリーたちは呼ばなければ、こちらには……」

 そう自分の知りうる情報で答えるゆかりの耳にも、ヘリコプターの立てる独特の機械音が届き始めた。

「まさかっ」

 近づくバタバタという機械音に、ゆかりは一つの答えにたどり着く。

 そうして、ゆかりの考えを肯定するように、高速で森の向こうからヘリコプターが浜辺の上へと飛来した。

「あれは……」

 穂乃香が見上げたヘリコプターの機体には『榊原綜合警備保障』の文字が刻まれている。

「榊原……」

「やはり」

 自らの苗字ゆえに読める漢字を穂乃香が口にした後で、ゆかりが確信めいた呟きを口にした。

 直後、穂乃香たちの空中でホバリングしていたヘリの扉が開き、ぬっと一人の老人が顔を出す。

「あれは……」

 初めて見る顔のはずなのに、穂乃香の胸が不意にトクンと跳ねた。

 知らないのに知っている不思議な感覚に穂乃香が戸惑いの表情を見せたところで、老人は軽快な身のこなしでヘリコプターから宙を舞う。

「え、ええええええええええええええええ!?」

 驚きの声を上げる穂乃香の目の前で、バシャッと大きな水柱を立てて、老人は海中へと舞い降りた。

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