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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第十九章 幼女と母と侵略者
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713 幼女、たじろぐ

「あら、穂乃香ちゃんが気が進まないなら、私が依り代になるわよ!!」

 はいはいと両手を挙げてアピールしながら、ゆかりと舌戦を繰り広げていたはずのマナが突如参戦してきた。

「……マナ」

 一点の曇りも無い清々しい表情で言い切ったマナに、ゆかりは盛大な溜め息をつく。

 そんな面倒くさい脱線を予測して、否定の言葉を口にしなかったゆかりに代わり、島村が口を挟んだ。

「人間を神体にするというのが仮に可能だとして、そうなると存在そのものが依り代と一心同体となってしまいますね」

 島村の言いたいことがわからなかった穂乃香は「えっと……」と戸惑いの表情を見せるが、桃香の事に関しては異常に頭が回るマナは、バッチリと島村の言葉の影に隠れた指摘に辿り着く。

「確かに問題だわ!」

 唐突なマナの断言を聞いた穂乃香は、思わず「へ?」と声を漏らした。

 それが、マナの意識を穂乃香に向けさせる。

「考えてもみて、穂乃香ちゃん!」

 がしっと両肩をマナに掴まれ、思わず身が引ける穂乃香だが、勢いに負けて「う、うん」と頷いた。

 そうなれば、自分の考えの理解者か、あるいは自分の話を聞く気があるとマナに断定されてしまう。

 桃香の娘が自分の話を熱心に聞いてくれていると解釈したマナはご機嫌で自分の考えを披露した。

「もし、モモちゃんが私を依り代にしてくれても! もし私の身に何かあったら、モモちゃんまで死んじゃうかも知れないでしょ?」

 マナの考えは直ぐに頷けるモノでは無かったが、しかし、それはあり得ない、と断言出来るものでも無い。

 ゆえに、穂乃香は難しい顔で考えた後で「……確かに」と小さく頷いた。

「そうなの!」

 マナの返しに、心の底から(なにが!?)と思う穂乃香であったが、それを声や態度に出すことはどうにか回避する。

「モモちゃんは永遠に神様として存在すべきなんだから、私の身がどうにかなったら、それが揺らぐというのはダメだわ!」

 興奮気味に言い切ったマナを見ながら、穂乃香もようやくその思考の全貌を理解した。

 そんなタイミングで、桃香が「でもぉ」と自分の意見を口にする。

「みんなとは一緒に居たいと思うけど、別にずっと居たいってワケじゃ無いわよ?」

 穂乃香そっくりの動きで首を傾げた桃香は更に言葉を続ける。

「それに、私がママちゃんに取り憑いたら、ママちゃんに変な影響が出るかも知れないじゃない?」

 桃香の言葉に、マナが「私のことを案じてくれるのね!」と心の底から嬉しそうな顔をするが、それを見詰めるゆかりの目はどこまでも冷ややかだった。

 そんな中で、自分の考えが正しいかどうかを桃香は信頼する人物に投げ掛ける。

「どう、島村さん?」

 桃香の問い掛けに島村は一拍を空けてから正直なところを言葉にした。

「穂乃香お嬢様も似たようなお考えだと思いますが……はっきり申し上げると、わからないとしか言い様がありませんな」

 さりげなく穂乃香が言葉に窮しないように、島村は言葉を選びながら続ける。

「先ほどユラ様が仰っておられましたが、ご神体には品物、自然と様々なモノがありますが、特定の生き物というケースは実に少ないですからな……はっきりとは断言出来ませんが、神格を支えるにはそれなりの器が必要であり、一個人で支えるのには限界があると言うことなのだろうと思います」

 島村の言葉はそれを聞く全員が頷ける内容だった。

 だが、そうなると実例であるユラの状況に意識が向く。

「と、すると、穂乃香お嬢様の眷属であるユラ様のご神体は……」

 ゆかりの疑問を受けてユラは「ふむ」と小さく頷いた。

 それから顎に手を当てると、あくまで自分の認識として、ユラは自分の状況を説明する。

「今の我は分霊(わけみたま)ゆえ、主殿を依り代にしておるが……そもそもの依り代は『海』そのものであったの」

 ユラはそう言ってから視線をずっと傍で待機している五人の眷属達に向けた。

「あの子らも、木や水辺と行った自然を依り代としていたが、今は主殿を依り代としておるの」

 視線を向けられたことで、出番だと解釈した黒華と蜜黄が文字通り飛んでくる。

「そうなのれす! 黒華はお池に宿っていたのれす!」

「蜜黄は池の周りに生える草花なのでし!」

 自分たちのルーツと根源を語れる嬉しさからか、テンション高めに訴える二人に次いで、青葉も控えめながら自分の出自を語った。

「私は更にその周りに育った木々が依り代ですね」

 最初に池、その周囲に草花、最後に木々と、育まれていった自然が、そのまま、黒華、蜜黄、青葉の三人を順番に産み落としたのである。

 そのことに気付いて、穂乃香は胸の内で、なるほどと一人納得するのだった。

 穂乃香が頷いている間に近寄ってきた残る二人の眷属も自分たちの源流を語る。

「この朱種は、榊原家の庭を守る朱色の魔除け花を咲かす樹を依り代としていたのですわ! 今は主様に寄り添わせて頂いてますけれど!」

「私、白果は白い魔除け花を咲かす樹を依り代としておりました、今はお姉様方と同様に主様に宿らせて頂いております」

 五人の言葉が終わり、桃香が「じゃあ」と皆の話を頭の中で纏めながら視線を穂乃香に向けた。

「モモちゃんの言ってた、依り代を穂乃香ちゃんに、というのは出来てるってこと?」

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