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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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070 幼女、思いを告げられる

「まあ、多少寝不足なようだが、それ以外は特に問題は無いだろう」

 しわの多い顔で柔らかい笑みを浮かべた白髪頭の老医師はそう言って太鼓判を押した。

 それから苦笑まじりに、穂乃香の横で診断が終わるまでそわそわしていたゆかりに視線を向ける。

「むしろ、ゆかり君の方が興奮し過ぎで、鎮静剤を処方したいところだね」

 老医師の言葉に、だがゆかりは勢いよく言い返した。

「私などどうでもいいのです! 穂乃香お嬢様に万が一のことがあれば、私だけでなく、榊原家が……」

「だから、落ち着きたまえ、ゆかり君。君の小さなご主人様が呆れているよ?」

 そう言われてピタリと動きを止めたゆかりは、ものすごい勢いで穂乃香に視線を向ける。

 一方、向けられた視線が、怯えた子犬のように見えて、穂乃香は思わず噴き出した。

 それから、表情を引き締めると不安げなゆかりに向かって、穂乃香は声を掛ける。

「大丈夫、呆れてない呆れてない」

「穂乃香お嬢様~~」

「暴走気味だったのは、私を心配しての事でしょ。ありがとう、ゆかりさん……じゃなかった、ゆかりお姉ちゃん」

「え……まだ、やるのですか?」

「まだ、やるのです」

「そうですか……」

 正直、穂乃香には姉妹ゴッコに名残があったわけではなかったが、珍しく動揺するゆかりが、穂乃香にとっては救いだった。

 自分もユラの言葉と奈菜の態度をきっかけに思い浮かべてしまった妙な妄想で混乱していたのに、より慌てふためいて診察室に駆け込んだゆかりを見ることで、自覚できるぐらい落ち着きを取り戻せている。

 精神衛生の為にも、これ以上自分がやらかさないためにも、若干ひどいとは思いつつも、穂乃香はゆかりを尊い犠牲にすることに決めた。

 それに、思いの外、ゆかりと姉妹ゴッコをするのが不快でなかったこともある。

 自らの中の幼い部分か、少女の部分か、それとも別の何かか、それはわからないが、ふと穂乃香に姉妹ゴッコの続きを思い立たせるだけの何かがあった。


 ゆかりの心配性をきっかけに大騒ぎになったが、診察室前に来ていたみどりや奈菜、その母親である由紀恵と加奈子にも穂乃香に異常がない事が伝えられ、全員が胸をなでおろす。

 そうして、再び朝食を再開した6人は、お昼までの予定として、海水浴を楽しむことに決め、それぞれが着替えて浜辺に集まることになった。

 最初に浜辺にやってきたのは黒の競泳タイプの水着に身を包んだゆかりと、水色に白の水玉が描かれたワンピースにスカート部分にフワフワのフリルがあしらわれた水着を着る穂乃香である。

 集合場所である浜辺は、『膿』と戦ったばかりの戦場跡なのだが、穂乃香にはユラとの出会いの方が印象的なせいか、まるで気にした様子もなかった。

 その上、ゆかりの記憶は失われているので、穂乃香としては逆に変に思い出さないように、努めて知らぬふりを決め込んでいる。

 もっとも穂乃香と契約を交わしたユラからすると、そのバレない様にという配慮も納得いかないものだった。

『主殿、我の能力を信じられないのは心外だの』

 そう言うユラに、穂乃香は苦笑で返す。

(長く生きると慎重になるの)

『主殿が言うと滑稽な言葉だの』

(……まあね)

 脳内で会話を交わし合うユラと穂乃香に対し、ゆかりの心境は穏やかとは言えない。

 映像によれば、魔女姿とは違う新たな変身を見せた穂乃香は、圧倒的な強さでもって『膿』を撃退している。

 一時、海に落とされかけて、ひやりとする部分があったのは事実だが、それはあくまで過程であって、結果は大勝利なのだ。

 しかし、問題なのはその後の出来事である。

 まるで記憶に残っていないユラとの対峙から穂乃香がしりもちをつくまでの消失したわずかな時間が、ゆかりの中で不安として大きくなっていた。

 調べる手立てがわからない上に、超常の存在や出来事であることが、より一層ゆかりの不安を増大させる。

 その上当事者の一人である穂乃香は平然とした顔で、寄せては返す波を見つめていた。

 強いて言えば、わずかに遠い目をしている。

「穂乃香お嬢様?」

 不安をかき立てられてゆかりは声を掛けるが、返ってきた穂乃香の返事は「なに?」と柔らかいものだった。

 それから、いたずらっぽい笑みを浮かべると、腰に左の握りこぶしを当てて、右手の人差し指を立てる。

「おやおや、違いますよ……そうでしょ、ゆかりお姉ちゃん?」

 穂乃香にそう言われて、ゆかりは「そうね、穂乃香ちゃん」と頷きを返した。

 そして、一つの可能性に気が付く。

 超常の出来事の中心にいる穂乃香自身も、あの後のことを認知していないのではないかという可能性だ。

 実際はユラとの邂逅の果てに、穂乃香は契約を交わしている。

 だが、それを知らないゆかりからしてみれば、目の前の穂乃香もまた記憶を操作されているのではないかと考えたのだ。

 同時に、その事実がゆかりに使命感を強く意識させる。

 ユラという危機に対して、穂乃香もまた記憶を奪われてしまったのだとすれば、目の前の小さな主を守るべきは自分であり、自分たち穂乃香護衛隊なのだ。

 そう意識したゆかりは強い意志を持って穂乃香を見つめる。

 その強いまなざしに気が付いた穂乃香は、不思議そうにゆかりを見つめ返した。

「穂乃香お嬢様……いえ、穂乃香ちゃんは、このお姉ちゃんが必ず守って見せます!」

すみません。

買い物に出ていたら帰りが遅くなって、定時にアップできませんでした

お恥ずかしい限りです (/ω\)

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