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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第一章 幼女と新たな人生
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007 幼女、プリッチを知る

 プリッチとは、小学生の女の子たちが、魔法の力で変身して悪と戦う特撮ドラマである。

 正式名称は『プリティーウィッチ』シリーズといい、演者を変えながら続く人気シリーズだ。

 特に、アイドルの様な華やかな魔女姿は人気で、子供は言うに及ばず、大人の中にもコスプレ衣装のモチーフとして選ぶ人もいるくらいだ。

 そんな、プリッチの最新作は『プリティーウィッチ・フローラル』で、その名の通り花をモチーフに取り入れたシリーズだ。

 主人公はピンクの衣装が可愛いアネモネで、その他に水色の衣装のサイネリア、黄色の衣装のマーガレット、白い衣装のリリー、そして赤い衣装のローズがいて、5人を中心にお話が展開される。

 1年間かけて放送されるシリーズは、秋を迎えたことで、中盤に達していたのだが、体験入園の帰りに、穂乃香が『ウイッチ』の話を聞いたとゆかりに伝えた翌朝には、屋敷のシアタールームに、第一話から録画されたものが用意されていた。


「では、穂乃香お嬢様、ご覧になりますか?」

「は、はい、お願いします!」

 だいぶ食い気味におねだりする穂乃香は、大分興奮気味だった。

 魔女役の子に教わった魔女の活躍するドラマというものに、言葉だけで胸躍る思いの穂乃香は、早く目にしたくて仕方がない。

 そわそわと落ち着きのない穂乃香に、録画データの入ったメディアをセットしたゆかりが笑いながら話し掛ける。

「ふふふ、穂乃香お嬢様が、そんなに落ち着かないなんて初めてですかね」

 その指摘に穂乃香はわずかに頬を染めながら「し、仕方ないじゃない? これは私にとって初めての……」と言いかけて口を閉ざした。

 続く言葉は『魔法の手掛かり』なのだが、何しろ魔法とはとても危険な技術なので、修得や修行、そして調べることすら許可がない場合は違法とされる国があった。

 国によっては、許可の無い者が『魔法』と口にするだけで罰せられるのだ。

 今生きるこの国がどの程度魔法に関して寛容な国なのかはわからない以上、うかつなことは口にできないと、長く生きた穂乃香の中の大魔法使いは判断した。

 もっとも、魔法をテーマにしたお話が『放送』されてる時点で、そこまで強烈に罰せられることはないだろうとも判断してはいるのだが、それでも、慎重な方がいいと長く生きた知恵は、結論を動かすことはなかった。


「初めての、なんですか?」

 しかし、穂乃香の世話をしてくれるメイドは容赦がなかった。

 平然と追い打ちをかけてくる。

 これでもしも罰則があるのなら、笑いながら崖から幼子を突き落とす悪女である。

 ゆかりに限ってそんなことはないと思っても、しかし、人の本性はわからないと経験則が訴えてくる。

 まるで真逆の二人のゆかりに挟まれる気分に、穂乃香は思わず言葉を失ってしまった。

「どうかなさいましたか、穂乃香お嬢様?」

 優しい口調で問いかけるゆかりが、果たして言葉通りの慈愛の人なのか、あるいは笑顔の仮面をかぶった悪魔なのか、穂乃香は勝手に追い詰められていく。

 一方、ゆかりは動き出したスクリーンに視線を向けて「おや、始まったようですよ」と穂乃香の視線を誘った。

 釣られて穂乃香もスクリーンを見れば、自分より少し年上の少女が、道端に人に踏まれてしまった花を見つけて心を痛めているところだった。


 穂乃香はテレビ自体は知っているし、ニュース番組なども見たことは幾度かある。

 それでも、ドラマは初めてだった。

 穂乃香の記憶にあるドラマ、いわゆる演劇的なものと言えば、舞台の上で、大袈裟な演技や舞台装置を使い、誇張されたストーリーをなぞるというものである。

 人々が日々を過ごす街中をそのまま背景に、誇張を感じさせず、日常の一コマのように描かれる物語の表現手法、そのリアルさに、衝撃を受けながらも、穂乃香は自然と物語の中に没頭していった。

 車の中から見掛けた記憶のあるアスファルトに包まれた何気ない街角が、幼稚舎の奥に見えた初等部の校舎が、プリッチの世界に出てくる通学路や小学校によく似ている。

 自分の記憶に近しい風景が、だんだんと穂乃香自身がその場にいて、アネモネへと変身する少女凛華(りんか)の活躍を目の当たりにしている様な錯覚を与えてくる。

 凛華の全身が等身大で映し出されるシアタールームのスクリーンの大きさも、音響効果の高さも穂乃香をのめり込ませるのに十分な作用を発揮していた。


 植物を魔獣に変え、人々を襲わせる敵の魔法使いを前に、踏まれてしまい助命の為に凛華の手によって鉢植えへと移されたピンクの花から現れた妖精が助けて欲しいと訴える。

『魔法? 魔法なんて私には使えない』

『大丈夫だフロ、ボクが力を貸してあげるフロ』

 劇中では、妖精の力を借りて、凛華が受け取った魔法のステッキでプリティーウィッチへと変身を遂げていく。

 その様子に穂乃香はぽかんと口を開けたまま、そのシーンに釘付けになっていた。

 全身がピンクの光に包まれて、足元の光が消えてブーツへと変わり、腰回りの光が消えてフワフワに膨らんだ白いスカートに、アネモネの花びらをかたどったピンクのオーバースカートが現れる。

 上半身は背中までの丈の裏がピンクで表が白いマントに包まれ、そのうちの衣装は肩を出したノースリーブのスカートに似たピンクと白の可愛らしい上衣へと変わる。

 首元には、マントを留め、更にアクセントになる真ん中にピンクの丸いブローチのハマった白くて大きなリボンが現れる。

 頭には三角の白いとんがり帽子が現れ、先にピンクの房が付くとわずかに横へとずれて、可愛らしく凛華の頭へ収まった。

『これで大丈夫フロ。凛華は普通の女の子じゃなくて、小さくて可愛い魔女、プリティーウィッチのアネモネになったフロ。だから、魔法を使えるようになったフロ、小さくても魔女なんだからフロ!』

 妖精の囁いた言葉に、画面に釘付けになっていた穂乃香は大きな衝撃を受けた。

『子供は魔法を使ってはいけないけど、魔女に変身したら使っていい!?』

 脳内で都合良く変換された結論に、目から鱗が落ちるほどの衝撃を覚えた穂乃香は知らずに震えていた。

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