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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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069 幼女、迷走する

 ユラの思慕の情を抱いているという断言に、穂乃香は目を点にしたまま固まっていた。

 完全に思考停止した様子の穂乃香に、ユラはもう一歩踏み込む。

『言い換えれば……主殿に懸想……恋をしているようなものだの』

 ユラの言葉に、雷に打たれたように穂乃香は全身を震わし、目を丸くして言葉の主に迫る。

「は? 恋? あの年で? 同性なのに?」

 どんどん早く大きくなっていく聞き返す声が、穂乃香の動揺の大きさを物語っていた。

 何しろ、友達、親友くらいに思っていた幼い女の子が、今は同性の奈菜が自分に恋愛感情を抱いているというのだから、驚く以外、穂乃香に見せられる反応などなかった。

 そもそも、恋だの愛だのは思春期以降のモノと決めつけていた節もあるので、穂乃香には衝撃以外の何物でもない。

『情というものは、別段、年齢も性別も立場も関係なくあるものよ。確かに幼子ゆえの心の未熟はあるだろうがの……しかし、情を抱かぬというわけではないからの』

 ユラの断言に対して、穂乃香は否定の言葉を持ち合わせてはいなかった。

 子供だからベタベタしてきていたのだろうと軽く思っていたし、不快ではない、むしろ慕われていて嬉しいとさえ思っていたものが、幼子の恋愛感情の上にあるのだと知っただけで、穂乃香はたやすく狼狽してしまう。

 前世記憶のある穂乃香だが、恋愛の機微には疎い方だったのもあり、そうかと飲み込むにはあまりにも大きな事実だった。

「ゆ、ユラの勘違いということは……ないかな?」

 どこかすがる様な声音に、ユラは『ないの』と容赦なく答える。

 主に真実をありのまま伝えることと、主を安心させるために虚言を伝えることを、秤に掛ければ、ユラに後者を選ぶ理由がなかった。

 その上、ヒトならざるものゆえの冷静さではっきりと言いきってしまう。

『我の言葉に疑念を抱くのであれば、主殿の目で確かめるとよいの』

 スッパリと切りすてる無慈悲な言葉に、穂乃香は沈黙せざるを得なかった。


 ユラとの会話から一晩挟み、挨拶を交わした奈菜の反応は、確かに恋を覚えたばかりの少女のそれに思えた。

 そして、穂乃香はユラの言葉が正しそうだと実感する。

(ど、どうしよう……ゆ、ユラの言う通りかもしれない……)

 熱のこもった奈菜の視線を、穂乃香は浮かべた笑顔で受け止めつつも、内心では大きく動揺していた。

 今生きる世界でどうなのかは、穂乃香もよくわかってはいないが、少なくとも前世の世界では、同性の恋愛など禁忌の中の禁忌である。

 比較的常識人の穂乃香にとっても、それは当然許容されないことであり、その道に自分が引き込んだかもしれないともなれば、罪悪感は果てしなく大きくなっていった。

 そして、目の前に突き付けられた事実に、穂乃香は悶々と悩み始める。

 自分はどうするのがいいのか、結論の出ない疑問がぐるぐると頭を駆け巡る中で、ユラが助け舟を出した。

『まことに言いにくいが、主殿?』

(な、なに、ユラ?)

 慌てふためきながら返事をした穂乃香の言葉が声にならなかったのは、緊張のあまり喉がからからに乾いていたからである。

 だが、穂乃香はどうにか声を発さずに済んだ。

『我は確かに思慕の情と言ったがの……とはいえ、その様な生々しい感情ではないと思うのだがの。何しろ相手はまだ幼子だからの』

 ユラの冷静かつ的確な指摘に、穂乃香は自分が生々しい妄想をしていたことに気付き、押し黙る。

 思慕だの、恋だの言われたせいで、一人で舞い上がっていたが、冷静に考えれば、責任の取り方を考えるというのはあまりにも飛躍していたと、暴走気味だった穂乃香もようやく思い至った。

(す、すまぬ。そういう感情を向けられるのに慣れて無くて……)

 思わず顔を覗かせた前世の穂乃香の影響でユラに堅めの言葉で返事をすると、そのまま力が抜けた体が膝からゆっくりと崩れ落ちていく。

「え、穂乃香ちゃん?」

 その急に膝をついた穂乃香に、奈菜が驚きで目を見開き、直後に駆け寄って支えようと手を伸ばした。

 次いで、みどりとゆかりも駆け寄ってくる。

「だいじょうぶ!? ほのかちゃん!」

「穂乃香お嬢様、どこか調子が悪いのですか?」

 心配そうな二人の声に、体を支える奈菜の手に、穂乃香はあいまいに笑みを返しながら「大丈夫」と伝えるのが精一杯だった。

「穂乃香お嬢様、無理はいけませんよ?」

 昨晩から朝までのわずかな時間しか穂乃香が寝ていないことを知っている分、ゆかりの表情はかなり深刻である。

「大丈夫、どっちかというと精神的なものだから」

 穂乃香は心配ないと伝えるつもりでそう言ったのだが、ゆかりの受け取りは違っていた。

「せ、精神的!?」

 衝撃を受けたゆかりは一歩よろめくが、直後、頭を振るって表情を硬くする。

「え? はれ?」

 穂乃香がそう口にした瞬間には、その体はゆかりによって小脇に抱え上げられていた。

「すぐに、診察しましょう!」

 そう言って駆け出したゆかりは、元診療所に医務室として残っている診察室へと穂乃香を抱え上げた状態で駆け出す。

「ちょっと、ゆかり~~~~~~」

 遠ざかっていく穂乃香の声に目をぱちくりと瞬かせたみどりと奈菜は、どちらからともなく顔を合わせた。

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