表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
66/812

066 ようじょ、ためいきをつかれる

 旧青海島診療所ホテルの地下にある榊原家の技術研究所の一角には、榊原家の屋敷に近い造りのモニタールームが整備されている。

 榊原家の所有する施設には、大抵このモニタールームが設置されており、穂乃香護衛隊はここを仮の指令所として使用し、屋敷の本部とリンクさせていた。

 そのモニターに映し出されているのは、青海島の浜辺で展開された事件の一部始終である。

 既に過去の事であり、無事も確認されているのだが、モニターで再生される『膿』との戦いで、穂乃香が海に突っ込むシーンでは、何度再生されてもそこかしこから悲鳴が上がっていた。

「何度見ても、心臓に悪いです」

 ゆかりはモニターで何度目になるかわからない穂乃香の戦闘シーンを見つめながら大きく溜息をつく。

「無事勝利されたけど、正直問題しかないわ」

 エリーが非常に疲れた顔で、ゆかりの肩に手を置いた。

「覚えてないんでしょう?」

 エリーにそう聞かれて、ゆかりは頷く。

 その視線の先のモニターには、駆け付けたゆかりがみどりと穂乃香を抱え上げて、逃走し水の体のユラに回り込まれるまでが映し出されていた。

「私の記憶では、ホテルを抜け出したみどりさんを穂乃香お嬢様が保護しに向かって、私はその後を追いかけたことになっているわ」

 実際にそれ以外の記憶はゆかりの中にはない。

 だが、目の前では少年向け特撮ヒーローの姿から元の穂乃香に戻るシーンも、急に現れたユラから逃げるシーンも、そして、対峙するシーンまでもがばっちりと撮影されていた。

「この水の体の『何か』なんて見ていない」

 ゆかりが自分の中にある真実を口にするが、モニターの映像はそれを完全に否定している。

 目の前で映像という決定的な証拠を突き付けられても思い出せない気持ち悪さで、ゆかりは眩暈を起こしそうだった。

 だが、それはゆかりの中での問題に過ぎない。

 より深刻なのはその後に記録された不可解なのだ。

「エリー、ヤッパリ結果は一緒よね」

「ええ、編集など一切ないわ……一応本部で解析に掛けたけど、繋がりに修正の痕跡などない通常の記録データよ……映像以外は……」

「……そう」

 深刻な顔でモニターを見つめる二人の目の前で映像が飛ぶ。

 だが、それはそう見えるだけに過ぎなかった。

 ユラと穂乃香たち三人が対峙していた直後の映像では、穂乃香がしりもちをついてゆかりのスカートの裾を掴んでいる映像になっている。

 ユラが消える姿もなければ、穂乃香がしりもちをつく動作も映っていなかった。

 本来連続しているはずの映像が、下手くそに編集されたように、途中の行程が抜け落ちている。

 にもかかわらず、コマ送りで確認しても、わずか1/60秒の違いで状況が書き換わっていた。

「これをどう考えるか……の答えが『時間が飛んだ』が一番妥当だなんてね」

 顔中に苦さを満たしたゆかりが大きく肩を落とす。

 エリーも似たような顔で「ついに、穂乃香お嬢様の全てを観測できなくなったってことでしょうね」と続けた。

「……ともかく、穂乃香お嬢様に異常はなかったことだし、そこで気持ちを切り替えるしかないわね」

 ゆかりの言葉に随行している穂乃香護衛隊の面々も頷く。

 魔法だけでも規格外だったお嬢様が、更に時間の概念からはみ出たことに、一同の中で一番大きい感情は、いざという時に介入できないという無力感だった。


「ともかく、みどりさんの件は、芋の植え付けの一件と同様にお母様にも『何もなかった』と思っていただきましょう」

 ゆかりは苦々しい顔で、特殊部隊から出向しているメンバーに、みどりとその母親に対する処置を指示する。

 そんなゆかりに、エリーは心配そうに声を掛けた。

「大丈夫、ゆかり?」

「ちょっと、皮肉を感じてるわ……自分もみどりさんたち親子のように、記憶をいじられたのだなと思うと……ね」

 ゆかりの言葉に、エリーはなるほどと頷く。

「確かに、今はまだ映像記録として、状況を把握できているけど……」

 ふぅと溜息を零しながら、ゆかりは自分の内に浮き上がった不安を、気持ちに圧されるままに言葉に変えていった。

「把握できなくなってしまったら、穂乃香お嬢様の心に寄り添えなくなりそうで……」

 そこまで吐き出したところで、ドンと息が詰まるほどの衝撃を背中に受けて、ゆかりはよろめく。

「!!」

 思わず目を丸くして振り向いたゆかりの視線の先で、エリーが眉を吊り上げていた。

「それはみんなが思ってること! 完璧に寄り添うことはもう、物理的に不可能になった! でも、いえ、だからこそ、できる限りのことをする! でしょ?」

 強い口調で放たれるエリーの言葉は、ゆかりへと言い聞かせるためであり、同時に自分にも、護衛隊の面々にも言い聞かせる為のものである。

 それを声の響きに感じ取ったゆかりは、笑みを浮かべると「当たり前でしょう」と大きく頷いた。

 さらに全員を振り返って声を張る。

「穂乃香お嬢様が時間を越えるなら、私達も超える手段を得ましょう! どこまでも穂乃香お嬢様についていくのです!」

 直後、その場の全員が声を揃えて「オー!」と声を張り上げて応じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ