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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第一章 幼女と新たな人生
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006 幼女、お遊戯会の練習に参加する

 穂乃香を味方と位置付けたあかねの変化は、早く的確だった。

 クラスの誰もが興味津々の穂乃香を利用して、彼女に苦手な子の指導をお願いしてみたのだ。

 年相応をはるかに逸脱した対応力に、完全におんぶにだっこの作戦だったが、これがばっちりハマってしまう。

 前世の記憶を持ち、すでに精神のレベルなら老人級の穂乃香からしてみれば、子供たちへの指導など、心温まる行為でしかない。

 多少の無礼な物言いだって、彼女にとっては可愛さを感じるポイントに過ぎない。

 結果いつにもましてニコニコとしながら、懇切丁寧に指導をする穂乃香にクラス全体が刺激される。

 できない子たちは当然のように、穂乃香に褒めてもらいたくて頑張り始めるし、できる子たちはなんと穂乃香をマネして他の子たちを教えるようになったのだ。

 穂乃香一人の投入で、劇的な化学変化をもたらしたあかねクラスのダンスは、ついに全員が修得するという快挙を同学年一番で達成したのだった。


「みんなすごいわ、よく覚えたわ!」

 興奮気味にクラスの子たちをねぎらうあかねに返ってきたのは、当然のことながら、穂乃香に対する感謝とか、尊敬とか、お礼とかいった言葉で、すでに自分の存在が空気レベルに到達していることをまざまざと突きつけられた。

 けれども、そこは穂乃香である。

 老人級の精神からすれば、あかね先生ですら可愛い年下範囲に含まれているのだ。

「あかね先生。あかね先生が教えてくれたから、皆ちゃんと踊れるようになったんです。あかね先生、ありがとうございました」

 あかねに花を持たせるつもりで、あかね先生のお陰を強調して穂乃香は頭を下げる。

 すると、それを見ていた周りの子たちも、我先にと頭を下げ始めた。

 クラス中から感謝とお礼の言葉を浴びせられたあかね先生は、思わず感涙をこぼしかけて、慌てて首に掛けたタオルで顔を押さえた。

(よ、よく考えたら、これ、穂乃香ちゃんのお陰なのに、感動してる場合じゃないわ)

 心中でそう思い至ったあかねは、笑みを浮かべて、もう一度踊ってみましょうと提案すると、クラス中が声を揃えて「はい!」と同意した。

 そうして指示もしないのに隊列を組み始めた子供たちを見て、あかねはふと思う。

(これ、貧乏くじどころか、一等とか、特賞とか引いたんじゃないの?)

 そう思って視線を向けると、その視線の先で穂乃香が気付いて笑みを返してきた。


 昼食を挟んで、帰りの時間までの午後のわずかな時間は、お遊戯会のもう一つの出し物劇の練習時間だ。

 このクラスの演目は『眠れる森の美女』だった。

 大変やる気のある園児たちに、本番のつもりで穂乃香に見て貰おうとあかねが提案すると、子供たちは興奮気味に頷いた。

 そうして、穂乃香は初めて見るストーリーと子供たちの一生懸命な演技に感動して、場面ごとで拍手と歓声を上げ、それを聞いた出番待ちの子たちも、気合が入り、いつも以上の集中力を発揮した。

 結果、過去最高の出来栄えに、あかねは危うく涙腺が崩壊しかけるまで感動してしまったのだった。


「ねえ、ねえ、穂乃香ちゃんはどの役をやりたかった?」

 通し稽古を終えて、悪い魔女役の女の子が穂乃香にそう尋ねる。

 すると、ほんの僅かも考える素振りも見せずに即答した。

「魔女です」

「え? ほんと、やったぁ」

 ぱぁと明るい笑顔を見せた悪い魔女役の女の子は、でもすぐに表情を曇らせてしまった。

「あー、でも、悪い魔女は、違うよね?」

「そんなことはありません、とっても重要な役ですし、私は魔女であるだけで、尊敬ですよ」

 と、本気の顔で言う穂乃香の意見には大きな理由がある。

 穂乃香の前世の世界では、『女魔法使い』と『魔女』はまるで別物なのだ。

 厳しい戒律や修行によって身を清め、精神を鍛えたモノだけが、至れる高みこそが『魔女』だ。

 穂乃香も前世が女性であったら挑んでいたであろう高みでもある。

 つまり、穂乃香にとっては魔女は至高の一つであり、彼女の思考で劇を捉えれば、悪い魔女は礼儀としきたりを破った王族へ罰を与えているという解釈になる。

 むしろ、汚れ役を引き受けた尊敬すべき魔女なのだ。

 さらに穂乃香の考察によれば、13人の魔女は罰を与えることを共有しているからこそ、救いが残るように、一番戒めが刺さるタイミングで、13番目の登場を画策したのではないかと睨んでいる。

 よって、穂乃香の評では『悪い魔女』は、極めて高潔な魔女ということになっていた。


「えー、お姫様じゃないの?」

 悪い魔女役のことについて穂乃香の会話を聞いていたお姫様な子たちが揃ってやってきた。

 劇自体が幼児にとっては長いので、出ずっぱりのキャラクターは1役に3、4人が当てられ、劇の進行に合わせて交代していく。

 ちなみに悪い魔女も、王女誕生のシーンと、王女の呪いの成就を見届けるシーンは別の子が担当していて、穂乃香と話していたのは最初のシーンの子だ。

「お姫様も素敵な役だと思いますが、私は魔女をやってみたいです」

 穂乃香が微笑みながらそう言うと、魔女役の子は更にテンションを上げた。

 これまで少し嫌嫌だったのに、穂乃香にお姫様よりやってみたいと言われたことで、すごく嬉しくなったのだ。

「もしかして、穂乃香ちゃんて、魔女さんが好きなの?」

「はい。大好きですし、憧れてます」

「じゃ、じゃあ、じゃあ、あのプリッチ観てる?」

「プリッチですか?」

「うん、プリティーウィッチっていうのがね、今、テレビでやってるんだ」

「へぇ」

 頬を赤く染めて一生懸命伝えてくる魔女役の子に返事を返しながら、穂乃香はその名を忘れまいと、心の中のメモ帳にかなりの太文字で書きこんだ。


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