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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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057 幼女、危うさに気付く

「ゆ、ゆかりさんって、ど、動じないタイプなのね」

 穂乃香は自分の前世の記憶持ち発言が空ぶったことに、それは見事に動揺していた。

 そんな穂乃香の狼狽ぶりに、ゆかりは居たたまれなくなって、フォローを始める。

「いえ、ですね……身の回りに割とそういう人が多くいるので、そんなに驚くような内容ではないというか……ですね」

 それよりも何よりも、魔法を使うことの方が衝撃なので、と続く言葉は伏せながら、知っていることを知られてもいい内容だけで慰めているので、ゆかりも踏み込めず、結果、穂乃香を追い詰めていた。

「い、いいのよ、無理に慰めようとしなくても」

 ひらひらと手を振って、背を向ける穂乃香に、ゆかりは困った顔をすることしかできない。

 同時に、いろいろと制限をかけてくる菊一郎への怒りが募っていく。

 とはいえ、このまま穂乃香を放置するわけにはいかないので、ゆかりはコホンと咳払いをして、仕切り直した。

「いいですか、穂乃香お嬢様!」

 グイッと肩に手を掛けられて無理に振り向かさせられた穂乃香は、パチクリと目を瞬かせる。

「穂乃香お嬢様に前世の記憶があろうがなかろうが、穂乃香お嬢様は穂乃香お嬢様です。それに前がどうであっても、今は幼稚舎に通う女の子なんです。私が何より言いたいのは、前世に引きずられるのではなく。今の状況を受け入れ、楽しんでほしいということです」

 言い切ったゆかりの息は荒くなっていた。

「ゆかり……さん」

「前世のことを覚えていたとしても、ただ、それだけの事です……ですから……そのことが、穂乃香お嬢様が無理をする理由にはならないのです」

 ゆかりの思いは言葉を紡ぐたびに真剣度を増していく。

 脳裏をよぎるのはあの日の事だ。

 たった一人でみどりを救出し、勇敢に『何か』と戦ったことが、穂乃香のかつての記憶と魔法が使えるという事実に起因していることは間違いない。

 穂乃香を心から心配しているゆかりの根源の願いは『穂乃香にこれ以上たった一人で無茶も無理もしないで欲しい』だった。

「穂乃香お嬢様は確かに他の子よりも優れた部分が多くあります。でも、だからと言って、無理をしなければいけないわけじゃないんです。自分が力を持っているからと言って、何かの義務を負ってるわけじゃないんです! もっと子供でいいんです!!」

 ゆかりの真剣な訴えに、穂乃香は「ああ」とようやくその思いの深淵を理解する。

 ただ純粋に目の前の人は、自分を心配してくれているのだと思うだけで、穂乃香の胸は熱くなった。

 確かに、人と違う分、何かをしなければという思いは穂乃香の中にあったし、実際に皆を守るという覚悟を決めてもいる。

 それをゆかりが見透かしているのかどうかは穂乃香には判断がつかなかったが、それでも気負うことなく今を謳歌しろという彼女の言葉にも思いにも、感謝しかなかった。

 そして、それゆえに、より一層穂乃香はみんなを守ろうという思いと意思を強くさせる。

「ねぇ、ゆかりさん」

「はい」

「ゆかりさんの気持ちはすごく伝わってきました。だけど……」

 ゆかりの気持ちを裏切るようで、穂乃香には続く言葉が上手く出せなかった。

 だが、ゆかりはそんな穂乃香に対して微笑みかける。

「わかっています。穂乃香お嬢様は、誰よりも正義感が強いですから……まあ、保険みたいなものです」

「ほけん?」

「そうです、説明すると長くなるので、保険については自分で調べてください」

「えー」

 穂乃香は露骨に嫌そうな顔で苦情を口にするが、この奇妙に緊張した空気を和らげるための処置だと、二人ともが理解をしているので、続くのは苦笑の交わし合いだ。

 それが、数瞬続いてから、ゆかりは表情を引き締める。

「穂乃香お嬢様が無茶をするのは仕方のない事だと思います」

 断言されてしまうと居たたまれないのだが、それでも否定のできない言葉だけに、穂乃香は沈黙で受け止めた。

「なので、穂乃香お嬢様の行動を止めるつもりはありません」

 まっすぐ自分を見つめるゆかりの瞳にこもるそれを、穂乃香は『心配と信頼』なのだと察して頷く。

 穂乃香自身、それを、その思いを裏切るつもりなど一切ないのだ。

 だが、続くゆかりの言葉に、穂乃香は深く考えさせられることになる。

「その代わり約束してください。ご自身の身に危険が生じたときに、自分を守ることも忘れないと!」

 ゆかりの強い口調の言葉に、全身がビクリと震えた。

 それはゆかりの言葉に恐れを抱いたからでも、気圧されたからでもではない。

 みどりを助けるために、勝てる見込みも定かではないのに『森の人』に挑んだ過去があるからだ。

 今更ながらに、喫緊の状況になった時に『自分で自分を守る』という生物としての根本をないがしろにするかもしれない可能性を指摘されて、穂乃香は口を閉ざす。

 皆を守ると誓った時に、果たして自分も数に入れていたのか、それを考えても、穂乃香の記憶には、自分を含めたという明確なものはなかった。

 その事実にようやく気付いた穂乃香は、自分の危うさに、なぜゆかりが必要以上に心配したり、無理をしていると考えるのかを知る。

 しかし、穂乃香がそのことについて深く考察をするよりも早く事態は動き出した。

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