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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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056 幼女、すれ違う

「急にごめんね」

 食事会を終えて部屋に戻ったゆかりは、どこか呆けた顔で窓の外を見る穂乃香に声をかけた。

 ゆかりの謝罪は、食事会の終わりを早めてしまった自分の発言についてだったが、後悔などはまるでない。

 ある意味で、ゆかりの発した覚悟の言葉は、穂乃香の答えで揺らぐようなものではなかったし、それで拒絶されてもいいと覚悟もしていた。

 関係が微妙になっても、自分を拒絶されても、目の前の少女を一人にしないという決意が、暴走気味な使命として、ゆかりの中に強く刻まれている。

 だからこそ、慌てず静かにいつもの如く、いや、いつも以上に親身になって穂乃香を気遣いながら、目の前の小さな主人が下す結論を待った。


 やがて、意を決したのであろう穂乃香が、窓から目を離し、視線をゆかりに向けた。

 いよいよだと、どんな結論でも受け止めようと胸の内で覚悟を決めたゆかりに、穂乃香が声を発する。

 だが、それは、まるで想像もしなかった言葉だった。

「ゆかりさん……私、寂しそうに見えました?」

 穂乃香は眉を下げ、恥ずかしそうに頬を掻きながら苦笑する。

 受け入れられるのか、拒絶されるのかと身構えていたゆかりには、その言葉と態度は想定外で、戸惑いを覚えるに十分だった。

 だが、一方の穂乃香からしてみれば、ゆかりに姉か母にと言われた理由を探った結果、たどり着いた『肉親の愛情に飢えてると感じられた』という理由が恥ずかしくて仕方ない。

 今現在は、確かに幼稚舎に通い出したばかりの幼女だが、その精神は既に成人をし、老衰まで生きたのだ。

 それが、幼子の様に母性を求めているのだと思われているのは、何よりも恥ずかしい。

 特に、穂乃香自身、態度に出した自覚がないので、行動に出ているということなんだろうと思うと、その理由を妄想するだけで叫び出したくなっていた。

 説明したくとも説明できないジレンマに、言葉もなく身もだえる穂乃香だが、そんなことを考えているとはつゆほども思っていないゆかりからすれば、原因が推測できず心配だけが募る。

「穂乃香はたくさんのことを気にし過ぎです。そんなに無理して大人の真似をしなくてもいいんですよ」

 優しく抱きしめながら、言い聞かせるように放たれる言葉は、穂乃香の中にじわりと染みていった。

 だが、何の裏もなく、本心からの言葉だけに、穂乃香は羞恥を刺激され頬の赤身を増していく。

「や、やっぱり、無理してるように映っているのね」

 自分では完ぺきな大人の振舞いを心がけていて、同時にできていると思っていただけに、背伸びしていると受け取られていたのはショックだった。

 何しろ、背伸びしているという評価は、判定の基準が幼女の自分に軸が置かれているということの表れである。

(た、確かに、見た目も、生まれてからの年数を考えても、それは仕方のない事だよね、うん)

 ゆかりのぬくもりに安堵を覚えながら、穂乃香はそう結論づけて、自分の羞恥と受け入れがたい事実を誤魔化した。

「穂乃香はできることも多い、頭もいい、皆からの期待も感じ取ってしまうのでしょう……でも、子供らしくしていいんです。まだ、何も考えずに甘えてもいい年なんですよ。私では頼りないかもしれませんが……」

 返答があいまいなせいか、どんどん深刻になっていくゆかりの言葉に、穂乃香は余計なことを考えている場合ではないと、慌てて自らを抱きしめる手を振りほどく。

「穂乃香?」

 拒絶と取ったのか、ゆかりの顔は青ざめていた。

「あーーー違う、違うのよ!」

「違う?」

「私は大人と変わらないという自負があったから、子供に見なされて、へこんだって言うかね……」

 肩をすくめて心境を語り終えた穂乃香に、しかし、ゆかりは反応しない。

「あれ、ゆかり……さん?」

 しゃがんだ姿勢から顔を覗き込むようにして、上目遣いで穂乃香はゆかりを見た。

 そして、妙な体勢で二人は固まる。


「穂乃香お嬢様は幼稚舎に通うお子様です」

「そ、それはそうだけど……」

「確かに、大人顔負けの知識に知恵を持っています」

「そこはちょっと自慢だよね。まあ……」

 鼻高々で言いかけて、続けるつもりだった(ちょっとズルな気もするけど)という言葉は飲み込む。

「ですが、抜けてるところは多いですし、視野は狭いですし、考えなしなところも多いです」

「うくっ」

 多少自覚があるだけに、否定もできずに穂乃香は呻く。

「子供は放っておいても大人になります。子供でいられる時間はとても貴重で、決して長くないんです」

 穂乃香を真剣に見つめ、言い聞かせるようにゆかりは言葉を紡いだ。

「確かに、穂乃香お嬢様の場合、周りが許さないこともあるでしょう。ですが、今、この私と過ごす一時は、ただの子供でいてください」

 優しく温かい手が穂乃香の頭を撫でる。

「正直……」

「はい」

「正直いうと、私、中身が大人なの!」

「そうなんですね」

「へ? あれ?」

 穂乃香的には一世一代の打ち明けだったのだが、ゆかりはすごく微笑ましい目で見つめるのみだ。

「私もそうじゃないかと思ってましたよ、うふふ」

 ゆかりとしては、特殊班などに前世の記憶持ちもいるので、特に突飛な発言だと思っていない受け答えなだけなのだが、一世一代の告白をした穂乃香としては綺麗に躱された気分で心地が悪い。

 その予想と違う現実に、ただ戸惑いの声を上げるしかできなかった。

「あれ? あれーーーー?」

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