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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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051 幼女、友達が増える

「ほのかちゃんきれい!」

 自室へ一旦分かれていたみどりが合流するなり口にしたのは、浴衣姿の穂乃香に対する感想だった。

それにすかさず反応したのが、ゆかりだった。

「浴衣でしたら、まだ持ち合わせておりますよ?」

 笑顔で答えるゆかりだが、その言葉の意味が理解できなかったみどりがコテンと首をかしげる。

 気付かぬうちに、穂乃香に接するように言葉を選んでいたなと思い直したゆかりは、改めて言い直した。

「みどりさんも、浴衣を着てみますか?」

「えっ!」

 その言葉に満開の笑みを浮かべかけたみどりだったが、直後、思い出したように自分の背後に立つ母親に視線を向ける。

 みどりの反応と表情に、クスリを笑みを浮かべたみどりの母である岩崎由紀恵が「着てみたいならお願いしてごらんなさい」と優しく声を掛けた。

 由紀恵の後押しに大きく頷いたみどりは、ゆかりにやや緊張した面持ちで「みどりも、きてみたいです」と真剣な目で訴える。

「もちろんです。ではこちらに、どれが好きか教えてください」

「はい!」

 元気よく右手を上げて、みどりはゆかりについて、ウキウキと足を弾ませながら、先ほど穂乃香が着替えに使った隣の部屋に消えていった。

 すると、部屋には自動的に穂乃香と由紀恵が残ることとなる。

 直接会話したことがないせいか、妙な緊張感を覚えた穂乃香に対して、柔らかい口調で由紀恵が話しかけた。

「穂乃香さん。まずは娘を助けてくださってありがとうございました」

 それは、深々と頭を下げた真摯な礼を伴って、穂乃香に告げられる。

 対して穂乃香は、完全に動揺してしまった。

 何しろ、穂乃香がみどりを救った『森の人』の件は、穂乃香の使用人であるゆかりたちが、森に迷い込んでしまった穂乃香と共に、みどりを保護した話になっている。

 穂乃香の家、榊原家に対しての礼はすでに受けているし、一応家の者とはいえ、幼女に対する態度ではなかった。

 まるで『みどりを助けた本人に対する』様な礼に、穂乃香は二の句が継げない。

 そんな戸惑いを濃くした穂乃香に、由紀恵は「ふふふ」と少々悪戯っぽい笑い声を漏らした。

 ますます戸惑いを深め、パチクリと目を瞬かせる穂乃香に、由紀恵は穂乃香にしか届かないほどの小さな声で語りだす。

「みどりがずっと『穂乃香ちゃんに助けて貰った』と言っていたんです」

「……それは……」

 それは『一緒にゆかりさん達に保護されたからじゃないでしょうか』と見解を伝えるよりも早く、由紀恵は言葉を紡いだ。

「穂乃香さんは魔法使いなんでしょう?」

「えっ」

 すっと体温が下がったのを感じて、穂乃香は体を緊張させる。

 隠すと誓ったのに、知られてしまったという事実が、穂乃香の思考力を麻痺させて、言葉を奪い去った。

 そんな呆然としてしまった穂乃香に、由紀恵は少し困った顔で囁く。

「穂乃香さん。私は純粋に娘を助けてくれた貴女に心からお礼を言いたかっただけなの。貴女にどんな秘密があっても、私の娘を助けてくれてお友達になってくれたのでしょう?」

 そう由紀恵に問われて、穂乃香は言葉もなく、ゆっくりとだが、確かに頷いた。

 ささやかな肯定に、だが由紀恵はみどりをほうふつとさせるような明るい笑顔を見せる。

「穂乃香さん、みどりを助けてくれて、お友達になってくれてありがとうございます。これからも、娘と仲良くしてあげてください」

 改めて頭を下げられて、穂乃香は胸が熱くなった。

 魔法使いと言われたときは、拒絶されるかもしれないと身構えたのに、結果として由紀恵が示してくれたのは感謝である。

 そして、それだけではなく、この先も友人でいて欲しいと頼まれた。

 穂乃香自身、想像もしていなかった言葉は、じわじわと胸を熱くさせる。

 そして、思わず目が潤みだした。

「あらあら、ごめんなさいね、変なことを言ってしまって」

 由紀恵はそう言いながら、手元から取り出したハンカチで穂乃香の頬を拭う。

 ハンカチの柔らかい生地の肌触りと、優しい由紀恵の手つきが、穂乃香にはとても心地よかった。


 しばらくして、ソファに仲良く座る穂乃香と由紀恵のもとに、着替えを終えたみどりとゆかりが戻ってきた。

 みどりは、穂乃香とお揃いの浴衣に身を包めたことに大満足そうで、笑顔のまま駆け寄ってくる。

「穂乃香ちゃん、おそろいだよ!」

 嬉しそうに声を弾ませるみどりは、穂乃香と同じく白地の涼し気な生地に、ピンクや紅色でなでしこの花の模様が描かれていた。

 穂乃香と同じく、帯は兵児帯で、ピンクと藤色のグラデーションになっている。

 性格のせいもあって、穂乃香よりも幼く見えるみどりには抜群に似合う組み合わせだった。

「あら、みどり、ずいぶん可愛くなったわね」

「えへへ」

 母親である由紀恵に褒められて、照れるみどりに、穂乃香もゆかりも目を細める。

 そんな中、由紀恵は悪戯っぽい表情を見せると「あのね」とみどりに声を掛けた。

「なに、おかあさん?」

 コテンと首を傾げたみどりに、由紀恵は「私も穂乃香さんとお友達になったのよ」と穂乃香の肩に手を回して、親密ぶりをアピールし始める。

 すると、みどりは顔いっぱいに笑顔の花を咲かせて、由紀恵とは反対側から穂乃香に飛び込むように身を寄せた。

「わーい。おかあさんも、みどりといっしょだね!」

「そうね。お揃いね」

 嬉しそうに会話を弾ませる似た者親子に挟まれて、穂乃香は少し困ったような、それでいて幸せそうな笑みを浮かべる。

 しかし、その幸せそうな光景は、部屋にやってきて、声を掛けるところだった奈菜の時を止めた。

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