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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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048 幼女、海を行く

「うわぁ~~~」

「すごい……」

 大海原を疾走する大型クルーザーの船首で、小さなライフジャケットに身を包んだ水着姿のみどりがはしゃぎ、奈菜が感嘆の声を漏らした。

 その後ろでは、この旅の主催者でもある穂乃香が、クルーザーの早さに目を丸くしながら、無意識に海の上といえども、ライフジャケット以外は相変わらずのゆかりのメイド服のスカートにしがみついている。

「ほのかちゃん、ほのかちゃん、すっごくはや……ほのかちゃん?」

 ご機嫌で振り返ったみどりは、珍しく縮こまっている穂乃香を見つけて目をぱちくりと瞬かせた。

 続いて、様子の変化に気がついた奈菜が、心配そうに「穂乃香ちゃん、大丈夫?」と声を掛ける。

 心配そうな二人の眼差しを受けて、穂乃香は少し頬を染めながら「だ、大丈夫……」と言葉を詰まらせた。

 その後で言いにくそうに「だけど、早すぎて怖い……かな」と付け足す。

「あーでは、速度を落とさせましょう」

 即座に反応するゆかりに、穂乃香は慌てだす。

「い、いや、大丈夫、こうしていれば平気だし」

 言いながらもしがみつく穂乃香の手は、よりキュッとスカートを掴んだ。

「わたしも、ほのかちゃんをまもるよー」

 そこへトテトテと駆け寄ったみどりが穂乃香に抱きついて微笑む。

「あ、も、もちろん、私も! 私もです!」

 一テンポ遅れて奈菜もみどりに続いた。

「あ、ありがとう、二人とも」

 左右からみどりと奈菜に挟まれた穂乃香は、二人の行動に感動しつつ感謝の気持ちを伝える。

 一方で、足の自由を三人に阻害される形となったゆかりは、心中で緊急時に対処しきれるだろうかと考えながら、三人を見つめた。


 太平洋を行く穂乃香たちを乗せた大型クルーザーは、当然ながら榊原家所有のものである。

 穂乃香護衛隊発案の穂乃香リフレッシュ計画の一案として、榊原家所有の孤島の別荘への旅が提案され、観光地でもなく榊原家の所有地ならばと、菊一郎も承認したことで穂乃香一行は洋上の人となっていた。

 この旅の同行者として、穂乃香護衛隊の半分が乗り込んでいるが、お客として、みどり、奈菜とそれぞれの母親の合計4人が同行している。

 出航してしばらく、どこを見渡しても水平線しか見えなくなったところで、クルーザー探検の一環として、穂乃香、奈菜、みどりと保護者役のゆかりが船首へとやって来ていたのだ。


「しかし、まさか穂乃香お嬢様に、こんな弱点があるとは思いませんでした」

「うん、だって、おそらをとんだときは……」

「みどりちゃん!」

 ゆかりの言葉に誘われるように、みどりが口を滑らせた瞬間、奈菜がその口を押える。

 そして、口を塞がれたことで、みどりは慌てて「はわわわわ」と動揺した。

 直後、今度は穂乃香が恐る恐るゆかりを見上げてきて、ついで奈菜、みどりが視線を向けてくる。

 ゆかりは視線を受け止めながら柔らかく微笑むと、ゆっくりと口を開いた。

 飛び出してくる言葉に警戒しながら身構える三人は、ごくりと大変分かりやすく息を飲む。

「そうですか、みどりさんは、とても素敵な『夢』をご覧になったのですね」

 ことさら『夢』を強調したことで、三人は直後に顔を見合わせると、ホッと安どのため息を零した。

 その愛らしくも微笑ましい三人の反応に、ゆかりは愛おしそうに目を細める。

「なんですか、ゆかりさん?」

 真っ先にゆかりの眼差しの変化に気が付いた穂乃香は、首をかしげた。

 対して「穂乃香お嬢様は、素敵なお友達を見つけられたようで、皆様の仲の良さを微笑ましく思ってしまいました」とゆかりは本心をそのまま口にする。

 それに、思いっきり頬を赤らめた穂乃香、嬉しそうに照れ笑いをするみどり、もじもじと指を絡ませながらちらちらと見上げてくる奈菜と、三様の反応ではあったが皆嬉しそうな気配を纏っていた。


 水平線に向けて太陽がだいぶ傾いた頃、クルーザーは目的地の孤島へとたどり着いた。

 接岸ということで、穂乃香たち幼女三人は、船首の手すりにしがみついて、徐々に近づいてくるコンクリート製の白い桟橋へと、期待に満ちた視線を向ける。

 ジョボジョボと接岸するのとは反対の船底付近から水が噴き出す音が聞こえると、みるみる桟橋へと近づき、クッションとして設置されている古タイヤにぶつかって、トンと小さな反発が船体を揺すった。

 直後、同行していた穂乃香の送迎を担当している運転手の島村が、老齢に差し掛かっているにもかかわらず、軽やかに桟橋へと飛び移ると、クルーザーから持ち出した係留用のロープを手早く結んでから、乗降用のタラップを引きずり出す。

 そうして、恭しく頭を下げると高らかに宣言して見せた。

「穂乃香お嬢様、みどり様、奈菜様、長旅お疲れ様でした。当家所有の『青海島』に到着でございます。ゆかりはじめ、榊原家の者が付き添いますので、順に下船ください」

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