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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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047 幼女、気遣われる

 穂乃香の魔法研究開始からしばらく、季節は巡り、穂乃香たちは長い夏休みを迎えていた。

 とはいえ、榊原家は大変特殊な家柄であり、また種々の家庭事情を抱えているため、穂乃香の日常は幼稚舎への登園が無くなり、結果、外出はいっさいなくなってしまっている。

 もっとも、穂乃香自身はそれを気にすることもなく、逆に研究のし放題だと、喜々として部屋にこもっているのだが、女性メンバーで構成された穂乃香護衛隊では、穂乃香が可哀想という風潮が蔓延していた。

 その中でも、穂乃香護衛隊最年長であり、榊原家に長く女性警護担当として勤める西海純子は、二児の母でもあることから、その主張を率先してゆかりに訴えている。

「しかしですね、穂乃香お嬢様を外にお連れするともろもろの危険が高まってしまいますよ?」

「そこは、私達が万全の警護をしますから!」

「そうはいっても、菊一郎さ……旦那様の許可がない限りは、いかに私でも許可は出せません」

 ゆかりも部下であり穂乃香に対しても、仕事上の敬意以上の愛情を見せる純子の意思は尊重したいところだったが、権限を越えることはできず、苦しい回答をせざるを得なかった。

 対して、エリーはニヤリといかにも何かを企んでますといった風な笑みを浮かべて、一つの策を口にする。

「それならば、穂乃香お嬢様にお願いしてもらえばいいのではないかしら?」

 エリーの悪びれた様子もない言葉に、ゆかりは大きく溜息をついた。

「穂乃香お嬢様を唆せと?」

 いかに穂乃香の為であるとはいえ、護衛隊の考えを押し付け、穂乃香を操るような行為に、ゆかりの返事に若干の嫌悪が混じる。

「そうは言うけど、このまま穂乃香様が引きこもりになってしまってもいいの?」

 ずばりと的確に急所に切り込んでくるエリーに、ゆかりは「うっ」と言葉を詰まらせた。

 次いで、純子がゆかりごと包み込むような柔らかな口調で迫る。

「あのように才気に溢れ、いかな俊英と言っても、穂乃香お嬢様はまだお小さいのです。時に周りの者が手を伸ばさなければならないことがあると思いますよ」

「それは……」

 ゆかりの口からは続く言葉が出てこなかった。

 なにしろ、穂乃香の危険性はゆかりも十分に理解している。

 周囲の誰よりも、下手すればそこらの大人よりも賢い穂乃香は、それでいて自己防衛本能というべきか、自らを守るという意識が欠如しているように、ゆかりには感じられていた。

 それは自己犠牲か、あるいは博愛のなせる思考なのか、少なくとも穂乃香は自分の危機よりも誰かの危機を払うことに意識が向くタイプである。

 ゆえにもどかしく、危なっかしいと、穂乃香護衛隊の面々も思っているし、最も近くで接しているゆかりからすれば、その思いは誰よりも強かった。

「穂乃香お嬢様は、自らよりも周囲に目を向けられる、いわば英雄タイプの思考の持ち主です……が、自分に対してはとことん無頓着な部分があると思います」

 そう断言された分析能力の高いエリーの言葉に、否定する箇所などありはしない。

 そもそも、常日頃、ゆかり自身が思っていることだ。

「私の体験で恐縮ですが、自分や周囲が大丈夫だと思っていたとしても、ストレスっていうのは知らないうちにたまるものです。特に子供は自分のストレスに気付きにくいものです。それも踏まえて、気分転換の為に、例え一日でも外出などをなさるべきではないでしょうか?」

 子育て経験からくる知識だと裏付けまで加えて、純子は念を押してくる。

 とはいえ、警護の不安などは、皆が一丸となればこなせないことはなく、穂乃香護衛隊にはその実力もあり、何より穂乃香の精神衛生的観点で言っても、提案は理に適っていた。

 ここまでくれば問題はただ一つである。

「はぁ……わかりました」

 ゆかりが折れる形で純子やエリーをはじめとする護衛隊の主張を受け入れた。

 だが、ゆかりは最後に一言、唯一にして最大の問題を口にする。

「いいですか、我々の実力は誇っていいレベルであり、高水準であると自負しています」

 ゆかりの言葉に、エリーと純子は何を言い出したのかと、一瞬呆けた顔を見せた。

 それを気にすることなく、ゆかりは核心に踏み込む。

「ですが、穂乃香お嬢様は『超』がいくつもつく規格外です。正直フォローしきれるか、自信がありません」

 ゆかりの真剣な表情と、重い言葉に、寸前まで呆けた顔をしていた二人の表情が引き締まった。

 境遇の寂しさに情が先行していた部分もあり、エリーと純子は冷や水を浴びせかけられたようなひやりとした衝撃に、仕事人としての目線を呼び起こされる。

 とはいえ、2人の結論は変わることはなかった。

 より一層気を引き締めなければとは意識をしたが、穂乃香にこの屋敷の外の景色を見せてあげたいという思いに揺らぎはない。

 むしろ、それを妨害するものをことごとくねじ伏せる覚悟で挑むと、宣言するようにエリーと純子はゆかりに力強く頷いた。

「わかりました。それならば、私も全力で唆しましょう」

 ゆかりも二人の態度に笑みを浮かべると、そう断言する。

 何しろ、屋敷どころか自室にこもりきりの穂乃香に不安を感じていたのは、ゆかりも同様だったのだ。

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