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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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042 幼女、心配される

「大丈夫ですか?」

「……うん」

 幼稚舎への送迎の最中、眠そうにする穂乃香にゆかりは声を掛けるが、いつにもまして反応が鈍い。

 影ながら魔法の修練を重ね、人知れず人助けをしようと志した穂乃香だったが、そのせいで興奮が冷めず、結果、睡眠時間が足りなくなっていた。

「今日はお休みしますか?」

 心配そうなゆかりの言葉に、穂乃香は必死に頭を横に振って否定する。

 少なくともこの原因は、興奮し過ぎたせいで眠れなかったという穂乃香的には恥ずかしい理由なので、それを理由に休むのは、どうにも受け入れがたかった。

 一方で、明らかに無理をしているのに、頑なに幼稚舎に向かおうとする姿に、運転手である島村も、幾度となくルームミラーで二人の様子を確認している。

 ゆかりからの指示があれば、いつでも引き返す構えだ。

「ちょっと眠いだけだから、大丈夫」

「そうですか?」

 ゆかりとしては穂乃香の体調不良を理由に引き返したかったのに、この日に限って体温は普段の平均で異常はなく、咳などの症状もない。

 結果、こうして幼稚舎迄わずかのところまで来てしまったのだが、穂乃香はこの程度でという妙なプライドを発揮しているので、帰る素振りは全く見せなかった。

 やきもきする気持ちをそのままに、ゆかりは軽く溜息をつくと、車を降り、穂乃香の降車を手伝う。

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫、辛くなったらちゃんとあかね先生に言うし」

 少し影のある笑みを向けられて、まるで納得できないゆかりだったが、それでも穂乃香の意見は尊重しようと、いつも通り手を繋いで幼稚舎へと歩き出した。


「おはよう、ほのかちゃん!」

「おはようございます」

 昨日ぶりのみどりと奈菜に迎えられ、穂乃香は「おはよう」と挨拶を返す。

 だが、普段とは少し鈍い穂乃香の反応に、奈菜が表情を曇らせた。

「穂乃香ちゃん、調子が悪いんじゃないですか?」

 心配そうな奈菜の言葉に、みどりが過敏に反応を示す。

「えぇ、ほのかちゃん、びょうきなの?」

 しゅんと一瞬で落ち込んでしまったみどりに、穂乃香はすぐに「大丈夫だよ」と微笑み掛けた。

 だが、いつもの様な、周りがつられて微笑んでしまうような笑みでは無かったせいで、みどりと奈菜の表情は冴えない。

 それどころか、穂乃香の想像を超えて、みどりは果敢に動き出した。

「あかねせんせ!」

 急に声を掛けられて、他の子の出迎えをしていたあかねがびっくりしてみどりに振り返る。

「え? あ、みどりちゃん、どうしたの?」

 あかねはしゃがみつつ視線をみどりの高さに近づけながら、優しい声で問いかけた。

 しかし、みどりを思って掛けた優しい声が、逆にみどりの不安になっていた心をゆすぶってしまう。

「あの、あのね……ほのかちゃんがね……」

 涙混じりになってきたみどりの発言に驚きながら、あかねはみどりと奈菜に挟まれて立つ穂乃香を見た。

「もしかして、穂乃香ちゃん、調子が良くない?」

「え?」

 視線を交えただけで、あかねにそう尋ねられた穂乃香は目を丸くする。

 直後、穂乃香の反応を待たずに立ち上がったあかねが、振り返りながら大声を上げた。

「すみません、ゆかりさん、ちょっといいですか?」

「えぇ?」

 予想外にゆかりを呼び止めて、招き寄せるあかねを見て、穂乃香は更に驚きと戸惑いの声を漏らす。

 急に呼ばれてやや駆け足で戻ってくるゆかりを背に、あかねは再びしゃがみ込むと、今度は穂乃香に視線を合わせた。

「ねぇ、穂乃香ちゃん」

「は……い?」

「幼稚舎に毎日通うのはとってもえらい事だけど、調子が悪いときは休むのも大事なことなのよ?」

 あかねが口にする言葉に、すでに自分の体調が悪いことが前提になっているのだと察して、穂乃香は戸惑いを強くする。

「穂乃香ちゃんは、この前も頑張りすぎて、長くお休みすることになったでしょう?」

 諭すようにあかねが言うのは先日の『森の人』との一件で、ドクターストップがかかり、通園禁止されていた件だ。

「あの時も、奈菜ちゃんやみどりちゃん、クラスのみんなが心配していたの」

 あかねは奈菜とみどりを順に見て、それから再び穂乃香に視線を戻す。

「皆も穂乃香ちゃんに会いたいし、穂乃香ちゃんと一緒に過ごしたいけど、でも、穂乃香ちゃんに元気が無かったら、みんな心配しちゃうの」

 原因は興奮して寝るのが遅くなって陥った寝不足だけに、穂乃香としてはうまく頷けない内容だったが、それでもいつもより頭が重いし、自分でもわかるほど頭が回っていないのも事実だった。

 少なくとも普段に比べて不調なのは確かだし、ゆかり、奈菜、あかねと次々にそれを見抜かれている。

 そして、みどりも含め、皆が心配して声を掛けてくれていたのも事実だ。

 思い起こせば島村だって忙しなくルームミラーで様子を確認していた記憶もある。

「だから、無理をしないで今日はゆっくり休みましょう?」

 同意を求めるように優しい口調であかねが言えば、みどりが上目遣いで続いた。

「みどりも、いつものげんきなほのかちゃんがいいよ!」

 そこへ真剣な表情で奈菜も「私も穂乃香ちゃんは元気な方が嬉しいです」と訴える。

 皆の優しい心遣いに、あまりにもマヌケな理由で寝不足による体調不良を引き起こした穂乃香は、ばつが悪そうに苦笑した。

 それでも彼女たちの好意に応えて、穂乃香はゆかりとともに帰宅することに決めると、それを皆に伝える。

 ホッとしたような顔をした奈菜やみどり、あかねに「また明日」と告げながら、穂乃香はゆかりとともに車に向かって歩き出した。

 幾度か振り返りながら、奈菜とみどりだけでなく、他のクラスメイトとも挨拶を交わしながら穂乃香は遠ざかる幼稚舎の園舎を見る。

 すっかり自分だけが守るつもりで息巻いていた自分に苦笑しながら、穂乃香は優しい目を向け、言葉をかけてくれる友人たちに感謝した。

「私だけが守るつもりだったけど、私も守られてる……か」

 しみじみと誰にも聞こえない程のささやかな声で呟いた穂乃香は、明日は心配を掛けまいと、興奮で寝られないなんてことがないように、意識を鎮静化させる香りの魔法を頭に描きだす。

 そうして、明日に備えての対策も立てた穂乃香は、島村の運転する車に揺られ始めると、ほどなくして小さな寝息を立て始めた。

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