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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第一章 幼女と新たな人生
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004 幼女、制服を誂える

 半ばなし崩し的に合格の言質を取った穂乃香とゆかりの主従コンビだったが、後日改めて、体験入園をしてもらいたいと幼稚舎に呼び出されていた。

 二人にしてみれば、合格を勝ち取っているので『慣らし』のイメージだったが、実際には少し違う。

 面接官たちが口を揃えて、穂乃香の特殊性を訴えたため、他の園児と協調できるかというのが問題になったのだ。

 本来、私立学園である『聖アニエス学院』としては、国内有数の大企業を傘下に収める榊原グループ総帥の孫娘と言えば、諸手を挙げて大歓迎なのだが、同時に厄介なお客様でもある。

 問題を起こさないように丁重に扱う必要があるというのに、何かが突出していると、当然ながら、集団の中で目立つ存在となるため、良くも悪くも平穏にというのが難しくなる。

 特に、無邪気ゆえの残酷さで人を傷つけてしまう子もいる以上、学院側の警戒心は自然と高くなり『榊原のお嬢様を傷つけさせるな』は、学院側からの厳命となった。

 そうなると、自らの発言から行動、さらには園児の誘導と不安になる保育士は多い。

 結果的に、環境に慣れて貰うためという名目で、穂乃香の一日体験入園が実施されることとなった。


「制服をわざわざ作るんですか?」

「はい」

 百貨店の外商員達の手で着せられた聖アニエス学院幼稚舎の制服であるセーラー襟の紺のワンピースの袖を引っ張りながら、脇に控えるゆかりにそう尋ねる。

「これでは駄目なんですか?」

「ダメです」

 即答に、一瞬目を丸くした穂乃香だが、なぜと首をかしげる。

「この制服、特に違和感はないと思うのですが?」

「確かに、よくお似合いです。流石穂乃香お嬢様です」

 くるりとゆかりの前で一回転する穂乃香の動きに従って、スカート部がふわりと舞った。

 その可憐な姿に、外商員を含め穂乃香を囲む一同が目を細める。

「では、これでいいのではないのですか?」

「それは駄目です。お嬢様の体に合わせた最上のものを取りそろえるのが旦那さまの方針ですので」

「…………」

 ゆかりの断言に、穂乃香は表情を曇らせる。

 榊原家について勉強をした穂乃香からすれば、オートクチュールで制服を作ることに異存はない。

 むしろ、榊原家がお金を使うことはとても大事なことなのだと学んではいる。

 だが、さすがに『体験入学の為』だけに、誂えるというのには抵抗があった。

「な、ならば、ずっと着れるように、少し大きめで……」

「お嬢様、お察しください」

「……うぅ」

 一度しか着ない服を買う。

 しかも、オートクチュールで、だ。

 服なんて着れればいいと思っていた前世の影響色濃い穂乃香には、なかなか踏ん切りがつかない。

 そもそも、穂乃香の中の記憶で言えば、そんなことをしていたのは、暗君として国を傾かせたとある国王の正室や娘達くらいで、すこぶる印象が悪い。

 まさか、愚かと思っていた者たちの後塵を拝すことになろうとはと嘆くも、祖父に養育されている身の上で、否は押し通せない。

 結局、体の隅々まで計測されて、一週間後の体験入園に納入するということに決まった。

 他の依頼を止めてでも、最優先で事に当たると高らかに宣言して立ち去った外商員たちに、どうにも表現しがたいもやもやしたものを感じながらも、穂乃香は丁寧に感謝の言葉を伝えて見送ったのだった。


 紺地に白のラインのセーラーワンピースに、純白のスカーフが眩しい。

 制服自体の生地もそうだが、裏地ですら、試着したものとはまるで違っていた。

 歩くだけでフワフワと裾が舞うほどスカートは軽やかなのに、多少走っても膝上まではまくれ上がらない。

 驚異の技術力に脱帽だが、ゆかりにははしたないと怒られてしまった。

 さらに制服としては、聖アニエス学院の校章が刺繍された紺の膝丈のソックスを履き、頭には全周につばのある紺色の帽子を被る。

 帽子には一周するように幅の広いリボンが巻かれていて、左のこめかみの上あたりに、同じリボンを蝶結びにしたものに、校章が刺繍された飾りが取り付けられている。

 校章はセーラーの左肩にも、大きめな革製の通園カバンにも刻まれている。

 足元のワンストラップの革靴にすら、内側に校章が刻印されているので、穂乃香が身に纏う下着と肌着以外は、すべて校章入りだった。

「では、早速参りましょう」

 穂乃香に制服を着せ終えたゆかりは、満足そうに微笑む。

「体験入園はどんなことをするのかのぅ?」

 目を細めて、呟く穂乃香に、ゆかりは手短に口調を注意してから、穂乃香の祖父から聞いた話を伝える。

「そのまま、文字通りの体験入園らしいです。穂乃香お嬢様より一年年上の方々に混じって、幼稚舎を体験するだけです」

「体験するだけ……か」

 少し緊張気味に呟いた穂乃香に、ゆかりはさらに言葉を続ける。

「旦那様のお話では、特に何かをする訳では無いそうですよ」

 ゆかりの言葉に、不安そうな顔を見せた穂乃香の顔が、そうは言ってもと訴えていた。

 その表情に、ゆかりは苦笑を返しながら「大丈夫です。穂乃香お嬢様なら問題なくやり遂げられます」と断言して見せた。

「女は度胸ですよ、穂乃香お嬢様」

 ゆかりの言葉に、気弱になっていた自分に気付いた穂乃香は、ふぅっと長い息を吐いた。

「そう……ですね。考えても仕方ないですね。行きましょう」

 穂乃香はまるで自分に言い聞かせるかのように、そう口にすると、ゆかりに微笑みかけた。

「はい」

 短く返事を返したゆかりは、穂乃香を先導して歩きだした。

(旦那様は、お嬢様が馴染めるかの確認と言っていましたし、まあ、大丈夫でしょう)

 胸中でそう結論付けたゆかりは、穂乃香の手を優しく握ると、通園用に配車された黒塗りの高級車へと穂乃香を導いていった。

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