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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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039 幼女、すれ違いに気付く

 変身を終えて様子をうかがう穂乃香の前で、二人の幼女の反応はまさしく正反対だった。

 キチンとソファにアネモネぬいぐるみを下ろしたみどりはキラキラ輝く笑顔をまき散らして「穂乃香ちゃん、すごい! 本物の魔女さんだ!」と嬉しそうにはしゃぐ。

 一方、奈菜はよろよろと後ろに下がり、ソファに足を取られて、ポスンとお尻からソファのクッションに着地した。

「すごい! 穂乃香ちゃん凄いよ! アネモネって、本当は穂乃香ちゃんだったの?」

 目をキラキラと輝かせてはしゃぐみどりに、穂乃香は「違うよ」と首を振って答える。

 それから、穂乃香は「見ててね」と告げると、いつかのようにアネモネからリリーへと変身して見せた。

「うわ、リリーだ!」

 目の前で平然と変身して見せる穂乃香に、みどりは興奮しっぱなしではしゃぐ。

 その反応に、気分を良くした穂乃香は、更なる変身を披露しようとしたところで、奈菜の声に阻まれた。

「穂乃香ちゃん!」

「は、はい?」

「あのね、普通は魔法なんて使えないのよ?」

「へ?」

 奈菜の言葉に、一瞬言葉を失った穂乃香だったが、その後すぐに「ああ」とその意味を理解して大きく頷く。

「うん。大丈夫、学校で習うまでは、使えるの内緒にするから、皆にも……」

「違うよ」

「え?」

「魔法を使える人なんて、穂乃香ちゃんしかいないよ」

「………………・え?」

 奈菜に断言されて、無意識の鈍感力である意味無理矢理気付かないようにしていた真実を突きつけられて、穂乃香は固まった。

 そもそも、穂乃香自身、ゆかりを始め、周囲の大人が魔法を使う姿なんて目にしたことはない。

 それは教育方針か何かかなと解釈することで、穂乃香は見事に『魔法が存在しない可能性』から目を逸らしてきたのだが、小さな親友の断言によって、向き合わざるを得なくなった。

「奈菜、ちゃん?」

 少し怖い顔で言う奈菜に、みどりは恐る恐る声を掛ける。

 そんなみどりに、奈菜は少し怖く感じる真剣な顔と声で「みどりちゃんも聞いて」と返してきた。

「う、うん」

 なし崩し的に頷くことになったみどりは、再び腕の中に抱きかかえたアネモネのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

 だが、それでも目を逸らさなかったのは、みどりなりに覚悟を決めた証だった。

 一方で、気付かないふりをしていた穂乃香は、内心ダラダラと汗を流している。

 気付こうと思えば気付けるきっかけなんて山ほどあったのに、穂乃香はそれをスルーしてきた。

 日常を思うだけで移動には車で、空を飛ぶ人はいない。

 重そうな荷物を運ぶのだって人力で、宙に浮かせる人など見たことがなかった。

 テレビを見るのにリモコンという道具は使っても、魔法の杖は使わない。

 思い起こせば、プリティウイッチのドラマの中でさえ、大人たちは魔法なんて使っていなかった。

「あ、あの、魔法って、珍しい?」

 恐る恐る尋ねる穂乃香に、奈菜は「あのね、穂乃香ちゃん。本当に魔法を使えるのは穂乃香ちゃんだけだと思うよ」と断言して見せる。

 実際には穂乃香が使えるのだから、他にいないという断言はできないが、しかし、その可能性は限りなくゼロに近いのは間違いない。

 穂乃香にこうして断言して見せた奈菜ですら、それをはっきりと理解しているわけではないけれど、ただ一つはっきりと言えることがあった。

「魔法はお話の中だけのことなんだよ」


 姉のいる奈菜は、その影響もあって成熟も早い。

 まだ幼稚舎に入ったばかりの奈菜にとって、もう初等部に通う姉はだいぶお姉さんだ。

 受ける刺激も知識の量も比べ物にならないくらいに違う。

 そして、遥かに常識というモノに精通している姉から、奈菜が教わったことの一つが『この世界には魔法なんてない』という事実だった。

 奈菜がその事実を告げられたのは、奇しくも姉と共に『プリッチ』に興じていた時である。

 魔法の凄さに、衣装の可愛さと、プリッチに夢中だった奈菜は、無邪気に私も魔法使いになるとはしゃいでいた。

 けれども、先に夢から覚めていた姉は、奈菜に『魔法がない』という真実を伝えてしまう。

 それは、いち早く世界の常識を知った姉なりの無邪気な助言だったのだが、奈菜にはそれが重い衝撃だった。

 わずか3歳にして夢破れることになった奈菜は、けれど、幸か不幸か不屈にも、姉ではなく母に挑む。

 幾度となく「何で、魔法がないの?」と訴える奈菜に、母は返答と説明に窮し、かつて世界にあった一つの出来事を伝えた。


「まじょがり?」

 穂乃香の復唱に奈菜は真剣な顔で頷いた。

「それって……」

 その言葉を聞くなり自然と穂乃香の脳裏に浮かんだのは『魔女』と『狩り』の二文字である。

 不吉な文字の組み合わせに、否定して欲しいという甘い願望とともに、穂乃香の中に『そういうことか』という思いもあった。

「そのせいで、魔女さんがいなくなっちゃったんだって」

 真剣に言う奈菜の言葉に、穂乃香は自分の思い浮かべた文字が正しいのだと理解する。

 同時に、かつての世界でもあった『魔法使い』が『魔法を使えない人々』に追い立てられ、その命を散らしたというある国のおとぎ話を思い出していた。

 傲慢な魔法使いの一族を普通の人々が懲らしめたとか、魔法使いの力に怯えた人々が疑心暗鬼で殺してしまったとか、さまざまに伝わるおとぎ話だったが、かつて穂乃香が生きた世界では、それはあくまで教訓話である。

 魔法使いは傲慢にならないように、魔法を使えない人々は恐れを抱かないように、お互い気遣いながら共存するための先達の知恵だった。

 だが、この世界では、魔法使いの排斥が根絶やしにするまで続いていたのだとしたら……。

 穂乃香はその結論に背筋が凍るのを感じた。

 今現在、魔法に関しては『無いモノ』となっているのは、おそらく奈菜の言う通りだろう。

 では、魔法使いだと知られたら、どうなるのか、それを穂乃香は早急に知る必要があると判断した。

 そして、一度気持ちを決めてしまえば、穂乃香の動きは迅速だ。

「奈菜ちゃん、みどりちゃん。私は二人が大事なお友達だから、魔法が使えることを教えたの」

 穂乃香の言葉に、真っ先に奈菜が頷く。

「安心して、穂乃香ちゃんの秘密は誰にも言わない。私達だけの秘密だよ」

 次いでみどりも真剣な顔で同意した。

「うん。みどりも、穂乃香ちゃんの魔法のことは誰にも言わないよ」

「二人とも、ありがとう」

 穂乃香に微笑まれて、奈菜とみどりは改めて真剣な顔で頷く。

 そして、穂乃香は『まじょがり』を調べるために、変身を解いて元のワンピース姿に恰好を戻すのだった。

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