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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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038 幼女、変身を披露する

 地下室を堪能したところで、穂乃香たち三人はカーペットエリアに設置されたソファに、並んで座っていた。

 みどりは大きなアネモネのぬいぐるみを抱きかかえていたが、ソファのサイズが大きいので、三人は楽に座れている。

 三人の視線の先では、録画された『プリティーウィッチ・フローラル』の第2話がちょうど終わりを迎えていた。

 奈菜とみどりの二人に、見ようと言い出したのはもちろん穂乃香であり、これから口にすることの準備のつもりだ。

『ピッ』

 穂乃香が手元のリモコンを操作すると、電子音を残してモニターも録画機も同時に電源が落ちた。

 暗くなったモニターの画面に、穂乃香、奈菜、みどりの姿が映り込む。

 急に電源が落とされたことに目を瞬かせるみどりと、不思議そうに横を見る奈菜の間に座る穂乃香が、ピョンとソファから跳ね起きた。

「穂乃香ちゃん?」

「どうしたの?」

 奈菜、みどりの順で声を掛けられた穂乃香は「ちょっと待っててね」とだけ断ると、本棚の横にある机の引き出しから大事そうに魔法のステッキを取り出す。

「あ、アネモネの魔法のステッキ!」

 ギュウッと抱きかかえたアネモネのぬいぐるみを抱きしめながら、みどりが興奮したように声を上げた。

 奈菜は興味深そうに穂乃香の動きを見つめるだけで、声には出さないものの、目は輝きを増している。

「みどりちゃんは知っているかもしれないけど、私は『もう』魔法が使えるの」

 穂乃香の発言に、みどりは無邪気に「やっぱり!」と興奮のあまりソファから跳ね起きた。

 一方で、奈菜は目を丸くしたまま、胸の内で(もう?)と首をかしげる。

「見ててね?」

 穂乃香は二人にそう言うなり、さっき変身ポーズを見せたドラマの中のアネモネのように、魔法のステッキを華麗に振るうと、劇中のように光の粒が宙を舞った。

「え、ええええ!?」

「うわあああ~~~」

 驚きの声を上げる奈菜と、感動と興奮の声を上げるみどり、対照的な二人の反応を背景に穂乃香は笑みを深くする。

 それから、緊張を解くように長く息を吐き出すと、穂乃香はアネモネが劇中で唱えるのと同じ変身の呪文を唱え始めた。

「私と共に歩む運命の花、アネモネ。希望に満ちた春渡る風の祝福と共に!」

 穂乃香の呪文に合わせて、手元のスイッチで花開いた魔法のステッキが光の軌跡を描きながら、右に左に振られる。

 劇中の変身ポーズに合わせて、穂乃香が体を動かすたびに、この日着ていた柔らかい生地のワンピースの裾が空気を孕んでふわりひらりと舞い揺れた。

 そんな可愛らしいダンスのような変身ポーズを眺めているうちに、更に信じられない出来事が、奈菜とみどりの前で巻き起こる。

 いつかと同じように、穂乃香が履く靴下に纏わりついた魔法の輝きが、その形を大きく変化させていた。

 ふわりとたんぽぽの綿毛のように宙に舞い散るように穂乃香の足を覆っていた光が飛び散ると、そこには元が靴下とは思えないほど形を変えたブーツが姿を見せる。

「…………」

「穂乃香ちゃん、すごい!」

 絶句する奈菜と、ピョンピョン飛び跳ねて興奮するみどりの前で続く変身は、まだ始まったばかりだった。

 わずかに踵の高い白いブーツは、ピンクの花びらを模した飾りで彩られ、穂乃香の足元を飾り立てている。

 柔らかくふんわりとした生地のワンピースと、アネモネのブーツは少々ミスマッチだったが、逆に変身途中という雰囲気はより強調されていた。

 そして、その途中を証明するように、今度は腰に魔法の光がまとわりつく。

 膝丈だった穂乃香のワンピースが、ぷっつりとお腹の上で切り取られ、体の動きに合わせて上部は揺れ動き、ちらりと穂乃香のおへそが顔を覗かせた。

 一方で、下部は穂乃香の腰にぴたりと纏わりついてから、ふわりと光をまき散らしながら横へ下へと広がって、白のフレアスカートに、それをふわりと持ち上げるパニエ、その中には可愛いシルエットのカボチャパンツ、最後にアネモネの花をかたどったピンクのオーバースカートが現れる。

 靴下よりも衝撃だったのは、ワンピースが途中で上下に分かれて下の部分だけが変化したことだった。

 無邪気に喜ぶみどりに対して、年齢にはそぐわない洞察力と考察力を持つ奈菜はただただ目を丸くすることしかできない。

 それでも、微かに奈菜の口に笑みが浮かび始めたのは、子供心を刺激されたからかもしれなかった。

「わ、今度はスカートだ!」

 明るく声弾ませるみどりに、穂乃香は笑みを浮かべながら、更に魔法のステッキを振るう。

 上半身を光が包んだ後に、バサッと大きな音を立てて肩から延びたマントが背中に広がった。

 広がった白のマントの内側は淡くそれでいて鮮やかなピンクに染まり、その内側、半袖だったワンピースの上部はノースリーブに形を改める。

 パンと球状に集まっていた首元の光が弾けて、ピンクの丸いブローチが現れ、そこからふわりと大きくて白いリボンが広がった。

 最後に、穂乃香の頭に集まった光が、ミョンと円錐状に伸びて光を散らすと、現れた三角帽子がやや横にずれて、頂点からピンクの房が垂れ下がる。

 奈菜とみどりの前には、瞬く間にアネモネに変身した穂乃香が笑顔で立っていた。

「えーと、私、魔法使いなの」

 穂乃香はそう告げると、奈菜とみどりの反応を窺うように上目遣いで二人を見つめる。

 奈菜はだいぶ前から言葉を失っていたし、それまで興奮のままに盛り上がっていたみどりもなぜか黙り込んでしまったので、三人の間には奇妙な沈黙が横たわった。

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