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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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031 幼女、帰還する

『ゆかり、ゆかり、応答して!』

 急に回復した無線から、エリーの緊迫した声が響いてきたのは、木のドームへと続く回廊の途中、みどりを待たせた場所に戻ったところだった。

「あー、エリー、こちらは状況終了したわ。穂乃香お嬢様とご友人の岩崎みどりさんを保護したわ」

『っ!』

 無線機越しに、エリーが声を詰まらせたのを察して、いまは穂乃香とみどりがいるので言えないが、後ほど心配をかけたことを詫びようと、ゆかりは心に誓う。

「とりあえず、みどりさんに目立った外傷はないけれど、穂乃香お嬢様は衣服が傷ついていて、泥だらけなの」

『了解、そちらに医療班も向かわせるわ』

 あっという間に気を取り直したのであろうエリーが的確に次の行動を決定していた。

「私は、一応警戒しつつ班が着くまで待機するわ」

『了解』

 そこで一旦通信が切れる。

 すると、それを待っていたのだろうみどりが、穂乃香を抱きしめたままのゆかりをじっと見上げて話しかけてきた。

「あ、あの、お姉さん、ほのかちゃんは……」

 多少怯えの混じった、それでも、穂乃香が心配で無理に勇気を出したのだとわかる声で、みどりは果敢に問う。

「だいじょうぶですよ、疲れて眠っているだけです。大きなけがはありません。見た目はボロボロですが……」

「ねてるだけ?」

「そうですよ。でも、小さな怪我はあるかもしれないので、これからお医者さんに診てもらうんです」

「おいしゃさん」

「みどりさんも一緒に見て貰いましょう?」

「え、わたしも?」

「はい、みどりさんも気づいていない怪我があるかもしれませんから、それに、穂乃香お嬢様が心配でしょう?」

「うん!」

「あ、ちょうど、来たみたいです」

 ゆかりがそう言って視線を向けると、女性だけで構成された集団が近づきつつあった。

 知らない顔ばかりの集団の急な接近に、みどりは両手を左右一杯に広げて、穂乃香とゆかりの前に立つ。

 その後姿に笑みを浮かべて、ゆかりはみどりに優しく囁いた。

「大丈夫です、彼女たちは、穂乃香お嬢様のお家で働いている人たちです」

「そうなの?」

 目をぱちくりさせながら振り向いたみどりに、ゆかりは頷きを返す。

「それよりも、穂乃香お嬢様を守ってくださってありがとうございました」

 次いでゆかりが深いお辞儀と共に伝えた言葉に、みどりは顔を赤くしてもじもじし始めてしまった。

 その姿にゆかりは、優しい手つきでみどりの頭を撫でると、ゆっくりと立ち上がる。

「穂乃香お嬢様と、こちらのみどりさんのメディカルチェックをお願いします。幼稚舎の方々への説明はどうなってますか?」

 みどりに近づいて挨拶をする数人とは別に、真っ先にゆかりに歩み寄ったチームのリーダーを務めているメイド服姿の市川マナが問いに答えた。

「はい。エリー副隊長の指示で、穂乃香お嬢様とみどりさんは体調不良で早退したと、錯覚させました」

「そう……別班が来ているのね」

「はい」

 一瞬驚いた顔をしたゆかりだったが、状況を考えれば、特殊状況下である以上、綜合警備保障会社である榊原保障の中でも、どの部署にも所属しない独立のチームである通称『別班』が投入されるのは納得できる。

 そして、この『別班』とは、古来からこの国の闇に潜む、妖怪や魑魅魍魎から人々を守ってきた榊原家の呪術者集団だ。

 現状、穂乃香が巻き起こす超常現象に最も対処可能で、知識も豊富なチームでもある。

 ただ機密の為に、メンバー構成もチームの所在地も通常は秘匿され、存在だけが語られる都市伝説にも似た存在であった。

「すでに、奥に向かっているようです」

 マナがゆかりの背後、先ほどまで森の人と穂乃香が戦っていた木のトンネルの奥へと視線を向ける。

「わかりました、まずは穂乃香お嬢様とみどりさんを医療チームに診て貰いましょう」

「はい」

 マナがお辞儀をしたところで、みどりはマナと同じメイド服姿の女性に抱き上げられていた。

「それじゃあ、みどりさん、行きましょう」

 ゆかりの言葉に、みどりが「はい」と返事を返し、穂乃香たちを迎えに来た一同も無言で頷いて後に続く。

 大人数にしては異常に静かな集団が、入ってきた畑の方へと向かって歩き出した。


「こちらが診断書です。おそらく疲れがあったのではないかとのことでした」

 みどりを岩崎家まで送り届けたマナは、みどりの母親由紀恵に医者の診断書と共にその診断結果を伝えていた。

 森の人にかどわかされている間の記憶がみどりになかったこともあり、畑の作業中に気分が悪くなったので、同じく不調を訴えた穂乃香とともに病院で診察してもらったという話になっている。

 勇気をもって穂乃香を助けようとした頑張りを、母である由紀恵に伝えられなくなることを詫びたゆかりに、みどりは「お姉さんとみどりのヒミツだね」とあっさり受け入れてくれたのだ。

 お陰で、マナの説明のようになっている。

「みーちゃん、大丈夫なの?」

「うん、だいじょうぶだよ、お母さん。ね、マナさん?」

「はい。検査では健康そのものでしたね」

 そう言って微笑みあうみどりとマナに、みどりの母親は大丈夫そうだと肩の力を抜いた。

「榊原家の皆さんには、ご迷惑を……」

 母親がそう切り出したのをマナは手を上げて遮る。

「迷惑などとんでもありません。穂乃香お嬢様も一人で受診されるのは不安でしたでしょうが、みどりさんと一緒であれば心強かったことと思います。それに、穂乃香お嬢様の事を心から心配してくださっていましたし、とても優しいお嬢さんです。お母様からもその優しさを褒めて差し上げてください」

「は、はい」

「それではごきげんよう。みどりさん、これからも穂乃香お嬢様をよろしくお願いします」

「は、はい」

 緊張の表情でみどりと母親が同じ態度で頷いたことに、マナは少し噴き出しそうになりながら、最後に一言感想を口にした。

「お二人ともとてもそっくりですね。素敵な親子でうらやましいです」

 自分の言葉への反応がまるで一緒だったと微笑むマナに、一瞬頬を染めてから顔を合わせた親娘は朗らかに笑い合う。

「ホントに素敵ですわ」

 最後にマナが口にした言葉の裏には、周りに使用人しかいない主へのわずかな哀れみが混じっていた。

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