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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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029 幼女、発光する

 全速力で先を急いでいたゆかりは、急に目の前に飛んできた幼女に、慌ててその手を伸ばす。

「ほ、穂乃香様?」

 穂乃香と同じ体操着姿の幼女にそう声を掛けたゆかりだったが、その答えが返ってくるよりも先に猛烈な風圧が容赦なく伸ばした腕に襲い掛かってきた。

 ギシッと風圧に無理に捩じられそうになる関節が嫌な音を立てる。

 それでもゆかりは怯むことなく、手の先に触れる幼女の柔らかく暖かい感触に意識を集中して、無理やりに空気の回転で隔絶した領域へと踏み込んだ。

 ダメージを吸収する素材で作られた全身タイツの様なゆかりの身を包む耐衝撃スーツでも、容赦なく打ち付けてくる風圧という暴力が、ゆかりの内臓にダメージを蓄積させていく。

 それでも、ひるまず、手を離さず、空気の壁を気合と使命感だけでゆかりはねじ伏せた。


「お、お姉さん?」

 ぎゅっと抱きしめた腕の中から、穂乃香ではない少女の声がして、ゆかりは腕を解く。

 既に幼女を包んでいた空気の壁は消え去り、穂乃香のクラスメイトである少女の顔がそこにあった。

「あなたは、岩崎みどりさんですか?」

 穂乃香のクラスメイトの顔も名前もはっきりと覚えているゆかりは、確認の為にそう尋ねると、みどりは一瞬固まった後でコクリと頷く。

「怪我はありませんか?」

 ゆかりは必要以上に丁寧で柔らかい口調を心掛けながら、みどりに話しかけた。

 そうでもしないと、この目の前の被害者であろう少女を放り出して、穂乃香の姿を求めて、再び通路を駆け出してしまう。

 心中の焦りを押し込んで、反応を待つゆかりに、だが、みどりは予想外の言葉を発した。

「えと、あなたは、ほのかちゃんのお母さ……お姉さん……です?」

 言いかけた言葉をみどりが即座に変えたのは、幼児と言えど表情の豹変したゆかりに恐れを抱いたからに他ならない。

 だが、その機転のお陰で、ゆかりは暴走する前にみどりの言葉を聞くことができた。

「あの、みどりも、よくわからないけど、ほのかちゃんがひとりで、あっちにいて、木のおばけとたたかってボロボロで……」

 震える指で自分が着た森の奥を指さしたみどりの瞳から、大粒の涙が溢れ出して零れ落ちる。

 ゆかりはそんなみどりに何処からともなく取り出した柔らかなハンカチを差し出すと、笑った。

「大丈夫です、穂乃香お嬢様は私が救い出します。ですから、あなたはここで待っていてくださいますか?」

 諭すように、なるべく柔らかな口調で逸る言葉を押し込めて、ゆかりはみどりにそう告げる。

 対してみどりはボロボロと大粒の涙をこぼしながらも、しっかりと覚悟を決めた目でゆかりを見つめ返して、大きく頷いた。

「さすが、穂乃香お嬢様のお友達です。とても勇敢ですね」

 ゆかりの言葉は少し難しかったけれど、それでも褒められたのだと感じ、みどりは無理に涙を止める。

 なぜならそのまま泣き続けていたら、目の前の大人の人は、ゆかりは、穂乃香を助けに行けないのだ。

 だから、心細くて不安でも大好きな友達を、穂乃香を助けるために、みどりはキュッと唇を噛みしめる。

 その立派な覚悟にゆかりは大きく頷いて、躊躇なくみどりをその場に置いて先へと駆けた。

 リスクを考えれば、みどりを一人残すことは得策ではない。

 それでも、みどりを守り、未知へと向かい、さらに穂乃香を救う自信がゆかりにはなかった。

 みどりを抱き留めるために払ってしまった代価は、決して安くはない。

 駆け出しながら、自分の選択がミスだったことをゆかりは痛感しながらも、だとしても、穂乃香を助け、もう一度みどりを保護すればいいのだと、気持ちをやる気で上書きした。


 穂乃香は森の人を倒せる手段を確保していた。

 かつて、木こりたちに頼まれて開発した生木を乾かすための魔法、それは余りにも強力過ぎて、木材にも薪にもならないほど、一気に枯らして脆くしてしまう欠陥魔法でしかない。

 その後、生木の乾燥を速める魔法は、再度設計から見直して完成させたのだが、穂乃香が辿り着いた欠陥魔法の活用法とは、植物系の魔物から水分を奪い去ることで死滅させるという戦闘方法だった。

 だが、欠陥魔法なのはその威力の大きさだけではない。

 その威力を担保するために、圧倒的に魔力消費が大きいのだ。

 とはいえ、かつての魔力を潤沢に保有する穂乃香であったならば、大したことではない。

「改良はしておくべきだった……」

 後悔の念を抱きながら、穂乃香は数を増やした木の槍の猛攻を避けては砕いていた。

 状況は穂乃香の優勢に見えたが、その回避と破壊の行為は、実際には彼女を追い詰めていっている。

 避けることで体力が、砕くことで魔力が奪われていくじり貧に、穂乃香は覚悟を決めた。

「やっぱ、賭けるしかないか……」

 一旦、バックステップで後方に飛び退いたところで、穂乃香はふぅーと長い息を吐く。

 その穂乃香が見せた隙に、手を緩める森の人ではなかった。

 殺意のこもった5本もの木の槍が、穂乃香を貫き命を奪おうと襲い掛かる。

 直後、穂乃香は、地面に滑り込まんほどの低姿勢で、森の人に向かって駆け出した。

 迫りくる槍の襲撃を、手を伸ばし地面に伏せることで、どうにかやり過ごし、前に滑り込んだ勢いのまま無理やり体を起こして、森の人に抱き付く。

「人のために、命を奪わせてもらう……ごめんね」

 ささやくほど小さい声でそう告げた直後、抱き付いた穂乃香の体が強烈な光を放った。

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