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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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027 幼女、覚悟を決める

 先制は木の体を持つ人型だった。

 すっと上げた右腕らしきものから、鋭い槍のようにとがった枝が穂乃香目掛けて、恐るべきスピードで迫る。

「木はそんな急成長しないでしょ!」

 そんな挑発の言葉とも、文句ともとれる言葉を残して、穂乃香は上に跳躍すると、その小さな体を中心にして球体を形成するように風がまとわりついた。

 穂乃香が自らの攻撃を回避したのだと認識した人型は、ゆっくりと虚ろな穴が開いただけの頭部をその動きを追うように上へと向ける。

 ゆったりとした頭部の動きに反して、その視線に呼応した腕から伸びる槍の動きは凶悪だった。

 穂乃香が立っていた場所を貫いていた木の槍が、ボコボコと地面を覆う土を掘り返した直後、真上へと方向を変えて、急激に殺意を伸ばしてくる。

「ちょっはやっ!」

 焦りの滲んだ声で穂乃香は体に回転をかけることで、殺意のこもった木の槍が刺さる直前に回避するが、わずかに掠った体操着が破れた。

 それなりに伸び縮みする丈夫な素材の布をいともあっさりと切り裂いていった木の槍に、穂乃香は顔を青くしながら、ドームに侵入した際の飛行速度で、木の人型から距離を取る。

「す、スピードも危険だけど、風の障壁貫通するの!?」

 穂乃香は体験したばかりの不都合な事実に眩暈を覚えた。

 相手が想像よりも強く、自分の魔法が想像よりも弱い、最悪の事態に穂乃香は大きなため息を零す。

 だが、みどりが目の前に囚われている以上、穂乃香に撤退の二文字はなかった。

 不利だろうと、不利で無かろうと、みどりを置いてのこのこと逃げるつもりなら、最初からここに踏み入っていない。

 とはいえ、選択肢がそれほど多いわけではないこの状況で、穂乃香にできるのは経験をいかにうまく発揮するかに尽きた。

 ゆえに、様子を探りつつ思考をまとめるために、穂乃香は一度構えを解くと、演劇の登場人物が一人ゼリフを口にするように、ゆるゆると木の人型に歩みながら語りだす。

「例えばね、森の人……あなたを火の魔法で燃やすと、色々危険でしょ?」

 目前の木の人型に、かつての世界に存在していた魔物の名前を重ねて仮称した穂乃香は、自分の言葉に反応するか……すなわち会話が通じるかを試みながら、慎重にみどりへと歩み寄っていた。

「つまり、火の魔法は今は使ってはいけないと思うのよ」

 一歩一歩穂乃香は決して急くことなく足を進める。

 そして、目算にして3メートルほどの距離に近づいた時、森の人が動いた。

 先ほど穂乃香を射殺そうと上空に向かって制止していた木の槍が、一歩踏み出した穂乃香の足目掛けて、グンとものすごい勢いで迫る。

「ここが、限界、か」

 先端が鋭すぎるせいで、空気を切り裂いているのに風切り音すらしない凶悪な刺し攻撃が、穂乃香の足の置かれた場所を刺し貫いた。

「距離が微妙だし、攻撃も鋭くなってるし、そもそも会話は成立しないし」

 バックステップで数歩後方に退いた穂乃香は、うんざりとした表情で溜息をつく。

「とはいえ、みどりちゃんを助けないわけにはいかないし、痛いの覚悟でやるしかないか……正直凄く嫌だけど……」

 脳裏に浮かんだいくつかのプランから、穂乃香は自分が傷ついても、みどりを傷つけないプランを選択して、嫌そうな顔をした。

 自分で決めたことで、誰に文句が言えることでなくても、つい顔に出てしまうほどうんざりした気持ちが穂乃香の中に渦巻いている。

 だが、それはみどりを傷つけないという決意を曲げるモノではない。

 だからこそ、穂乃香は不敵に笑った。

「では、榊原穂乃香、参ります」

 胸に手を当てて深く頭を下げる。

 その行動に森の人は反応を示さないし、みどりだってこちらを見ていないだろうが、それでも穂乃香にこれから戦いに挑むのだと深く認識させ、スイッチを切り替えるのには必要な儀式だった。

「せーのっ」

 直後、穂乃香の体が掻き消える。


 穂乃香を追う形で、木でできた右に左にと微妙に曲がるトンネルの細道をゆかりは懸命に駆けていた。

 全力に近い速度で駆けながらも、ゆかりの視線は忙しなく動き回り、ところどころ木のトンネルに刻まれた『何かが無理に通り抜けた痕跡』を捉えている。

 ものすごい力技でへし折られた木々の断面は真新しく、そうなってからの時間経過が乏しいことに、ゆかりはこの先に待ち受ける脅威に気を引き締めた。

 少なくとも、枝を無理やりへし折って進める何かがこの先に待ち受けていて、ほぼ間違いなくそこに穂乃香がいる。

 直前に行方が消えたらしい少女がいるかどうかはわからないが、穂乃香がむやみやたらに屋敷の外で魔法を使わないのは、これまでの付き合いでゆかりは確信していた。

 つまり、この先には穂乃香が何らかの魔法を行使してこのような傷をつけねばならない理由か、あるいはかなりの弾性があって丈夫そうな木を平然とへし折ってしまう何かが待ち構えている。

 そう結論付けたゆかりは、穂乃香の無事を祈りつつ、走るのに邪魔なため太ももに戻しておいた特殊警棒を引き抜いた。

「穂乃香様に、仇なすモノは排除します」

 すっとゆかりの眼差しが、ひどく冷たいモノへと変わっていく。

 そして、ゆかりは更に上体を前のめりに倒すと、全力であった筈の疾走から、更に速度を上げた。

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