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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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026 幼女、戦う

 木々でできた回廊は、右へ左へと曲がりくねりながら、奥へ奥へと続いていた。

 最初は走っていた穂乃香も、息が上がる体の未熟さに方針を変更し、身に纏った風で体を浮かせて飛んでいる。

 もう少し体が重かったらできなかったであろう飛行という手段のお陰で、穂乃香はずんずんと奥へ進むことができ、走っていたのとは比べ物にならないほどのスピードで、穂乃香は新たな木々のドームに飛び出した。


 ガサ、バサと穂乃香の体を覆うように纏わりついた風に触れた木々が葉を散らす。

 そして、その音にいち早く反応したものが、ドームの中心にいた。

 穂乃香の目に映った中心に立つものは、不気味な気配を放つ、蛇のようにうねうねとうねる真っ黒な髪を膝まで伸ばし、髪の中に顔を隠した手足のひょろ長い人型な何かである。

 そして、その陰に隠れるように小さな少女の姿があった。

「みどりちゃん!!!」

 思わずその名を叫んでしまった穂乃香だったが、自分の状況に慌てて口を両手で覆う。

 まだ魔法を使えないはずの三歳児が、空を飛べるはずがないのだ。

 だが、穂乃香の失敗に、みどりは何の反応も示さない。

 視界に捉えた時から一切の変化を見せることなく、目の前の人型を見上げていた。

 その様子に一瞬安堵したが、しかし、まるで安心できる状況じゃないと、穂乃香は意識を改める。

 少なくとも、目の前の人型の能力か、魔法で、みどりは正常ではないのだ。

 穂乃香は空中で次の一手を思考しながら、ドームの天井付近を覆う枝に一度足をつけると、そのまま直滑降で枯れ葉が幾重にも積み重なった地面へと舞い降りる。

「こういう場合は風が有効……」

 ポツリと呟くなり、穂乃香は右手を水平に振り抜いた。

 すると、その軌道をなぞるように出現した風の刃が容赦なく、人型の頭部へと迫っていく。

 対して人型の反応は鈍い。

 まるで防御行動を起こしていない頭部に、バンと猛烈な音を立てて、穂乃香の放った風の刃が衝突した。

 だが、衝撃と音に対して、穂乃香の放った風の刃がなしたのは、人型の髪を巻き上げるくらいで、それ以上の効果は見られない。

 風の刃の鋭さは、頭部をすり抜けていった残骸ともいうべきものが、そのまま進んで衝突した木のドームの天井からばらばらと切られ、あるいは砕かれた枝が落ちてきたことからも、不足などあるはずもなかった。

 むしろ、髪を巻き上げただけしか影響が出ない人型の方が異常といえる。

「これ、普通の魔物じゃなくて、精霊とか、魔霊級じゃないの?」

 うんざりとした表情で、穂乃香は肩を落とした。


「とりあえず、優先すべきはみどりちゃんの奪還」

 気を取り直した穂乃香は、気合を入れ直すために、自分のすべきことを宣言する。

 そうして、人型へと向けて駆け出した。

 対する人型は髪の毛が巻きあがったことで露出した顔らしきものを穂乃香に向ける。

 穂乃香に向けられた頭部らしき部位には、木々の樹皮の様な皮膚に、目と口の位置に暗いウロの様な不気味な穴が開いていた。

 シュッ。

 急に響く風切り音に、みどりへ向かって真っすぐと進んでいた穂乃香が急激な進路変更で反応する。

 上から見れば直角を描く様な穂乃香の緊急機動、そして最後に穂乃香が踏もうとした地面には、竹串よりやや太い植物でできた針のようなものが刺さっていた。

「何か、撃ってきた、なんか撃ってきた!!」

 声を荒げながら、跳ね飛ばされるようにみどりと人型から遠ざかる穂乃香は、驚きと恐怖から徐々に声が大きくなっていく。

 反射神経でなく、魔法による自動防衛で強制的に進路を変えることとなった穂乃香は、地面に触れることなく人型から遠ざかったところで、ふわりと着地した。


「じゃ、じゃあ、次の作戦!」

 攻撃を受けたことに、バクバクと心臓が騒ぎ立てる。

 以前ではこんなことはなかった……いや、久しく経験していなかったというのに、戦闘中の死が隣に寄り添ってくる緊張感を無理に想起させられて、穂乃香は淡い怒りを覚えていた。

 そして、自分に命の危険を感じさせるような存在に、みどりが囚われている事実が、穂乃香に焦りを呼び込む。

「みどりちゃんを、強奪する!」

 宣言するなり、木のドームに突入する際と同じように、穂乃香は一瞬でみどりの周囲に風を纏わせた。

 そのまま、自分の方へとみどりを引き寄せようとして、だが、その試みは失敗に終わる。

「なんで!?」

 魔法を一方的に止められたことに衝撃を覚える一方で、その衝撃が幸運にも穂乃香に冷静さを呼び戻していた。

「あ、足に、木の根を巻き付けてる!?」

 みどりに纏わせた風がその足元に堆積した木の葉を散らしていくと、足首に太いのから細いのまで複数の木の根のようなものがまとわりついているのが顔を出す。

 引き寄せようとした魔法がうまくいかなかった理由を理解した穂乃香は次の手を思考する。

 ギュンギュンと目で分かるほど渦巻く風が、みどりを捉えて離さない根を傷つけられないことも考慮して、穂乃香は次に討つ手を決めた。

 体勢を低くして、再び人型に向かい突っ込もうと身構える穂乃香に対して、人型も周囲の景色が歪むほどの怪しげな気配を漂わせ始める。

 そして、両者の戦いの火ぶたは切られた。

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