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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第二章 幼女と森のヒト
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025 幼女、森に突入する

 閃光の魔法と共に幻覚の魔法を発動させた穂乃香は、手首を握る奈菜の手を優しく外して、みどりが消えた森へと向かって駆け出した。

 ジャンプで越えたつもりが、狙いすましたかのように畝の真ん中に足が落ちて、点々と小さな足跡が柔らかな土に刻まれていく。

 せっかく畑を整えてくれた農場の人たちに申し訳ないと思いつつも、緊急事態だと思い直して、穂乃香は一気にみどりの踏み入った森の入口へ向かって、畑を駆け抜けていった。


 密集して生い茂った背の低い木の間を、無理に通ったのだとわかる痕跡を見つけて、穂乃香は一言「ここ、か……」と呟くと、わずかなためらいも見せず、果敢に自らの体を押し込んだ。

 左右から延びる枝が小さな穂乃香の体を圧迫してきたが、それでも二人目だったお陰で、それほど苦労せずに、低い木の砦を突破する。

 低い木の砦の先で穂乃香を待ち受けていたのは、開けた木で囲まれた薄暗いドームだった。

 地面は完全に枯れ葉に覆われていて、木の根も土も目にすることはできない。

 だが、穂乃香を驚かせたのは、たった一歩踏み込んだだけで、濃密に漂い出した独特の不気味な気配だった。

「これって、死の気配?」

 今世では、未だ味わったことのない濃厚な生と死の境界線の気配に、穂乃香は素早く周囲に意識を巡らせる。

「これって……みどりちゃんが危ないってことだよね……」

 そう呟いた穂乃香は、直後、何の躊躇もなく駆け出した。

 何しろ、穂乃香の目線の先には、いかにも罠だと言わんばかりのドームから延びる木でできた通路がある。

 このやや開けたドーム状の場所にいないみどりの行方は、その先しかないと穂乃香は確信していた。

 確かに今世ではこの手の命に関わる出来事には出会っていない穂乃香だが、前世は違う。

 魔法使いとして人々を守っていた穂乃香には、この手の罠を張って獲物を待ち構えるタイプの相手は嫌というほど覚えがあるし、対処も心得ていた。

 ゆえに、迷いなくその脚を森の奥へと向ける。

「みどりちゃん、無事助けるから、待ってて」

 決意表明を込めた一言を後に、穂乃香は森の奥へと踏み入った。


 一方、穂乃香護衛隊は大混乱の中にあった。

『ほ、穂乃香お嬢様のGPS信号途絶から2分です』

 慌てふためく榊原邸地下の指令室からの報告に、農場そばで待機していたゆかりは、声を荒げる。

「落ち着きなさい、状況確認を優先、まずは農場スタッフから情報を取得して」

 ゆかりの指示に混乱の中にあっても、指令室は的確に履行した。

 だが、その直後の報告に、ゆかりは頭痛を覚える。

『穂乃香様は、他の園児と共に畑にいるとのことです』

 それはないと、ゆかりは心の内で舌打ちをしていた。

 なぜなら、ゆかりは自分の目で、榊原家の雇った農場スタッフが、穂乃香の担任であるあかねや友人の奈菜のいるあたりを見て、報告をしているのを目撃している。

 しかも、あかねや奈菜たちは、そこに姿のない穂乃香に対して語り掛けては、盛り上がっていた。

「穂乃香お嬢様の、魔法……ですか……ね」

 あやふやだと感じながら口にして言葉が、異様にしっくりと来ることに、ゆかりの表情が引きつる。

「指令室、穂乃香お嬢様の信号をロストした位置はどちらですか?」

 素早く意識を切り替えたゆかりが、真剣な眼差しで周囲を見渡しながら情報を求めた。

 そこに、エリーが即座に答えを返してきた。

『ゆかり、穂乃香お嬢様の信号が途絶えたのは、北の森の辺りよ』

 言われて、視線をそちらに向けたゆかりは、点々と畑と畝に残された二人分の小さな足跡を見つける。

「おそらく、穂乃香お嬢様ともう一人、森に向かって行った痕跡があるわ」

『了解。護衛班のチームを急行させる』

「私はこのまま先行する。森の中では信号や通信が途絶する可能性もあるから、指揮はエリーに移譲、以降の指示指令はエリーを主体に組み立てて」

『ゆか……了解、指揮権移譲を承諾』

「任せた、親友」

『抜かりなく』

 畑の脇を走り出しながら言葉を交わし終えたゆかりは、既に全力疾走に近いスピードで駆けていた。

 パチンと、腰の留め金を外すと、身に纏ったメイド服のスカートが、エプロンが、ゆかりの体から離れる。

 後続の護衛チームが回収すると踏んで、ゆかりは身軽な全身タイツのような姿へと変身していた。

 自分の足跡、痕跡を残さないように、畑を大きく迂回するように駆けて、ゆかりは視線の先にあるわずかに誰かが通り抜けたであろう低い木のブッシュに向かって、軽やかに跳躍を決める。

 低い木々をハードルの如く飛び越えたゆかりは、森に入った直後に感じた違和感に表情を強張らせた。

「これは……」

 そう呟いた後で、ゆかりは軽く息を整えると、通信機を操作する。

「エリー、聞こえる?」

 そう問いかけながら、だがゆかりは、返事が来ないだろうことを予測して既に行動に移っていた。

 見渡した範囲には、穂乃香の姿も、もう一人の姿もない。

 だが、ゆかりの視線の先には、木々でできた通路が森の奥へと向かって続いていた。

 選択肢などないに等しい。

 持ち込んだスタンガン付きの警棒を太もものベルトから取り外して動作を確認してから、再び太ももに装備し直したゆかりの表情は、普段とはまるで違う厳しいものに変わっていた。

「穂乃香お嬢様、今、参ります」

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