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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第一章 幼女と新たな人生
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022 幼女、担任と戦う

『聖アニエス学院幼稚舎』の昼食は、園児の間で格差が出ないように、全員同じ給食が提供される。

 栄養バランスのみならず、アレルギーなども考慮しているため、学年ごとに微妙にメニューが違うほど、細部にまで気を遣われていた。

 間仕切りのあるプレートに盛り付けられたおかずとみそ汁を含むスープ類に、ご飯や米粉製のパンが付くのが平均的なメニューで、最年少のクラスでは給食担当の職員が、一人一人の席まで配膳してくれる。

 そして、ここでも穂乃香の影響は大きかった。

 配膳されると、自発的に大きな声で感謝の言葉を伝え、最後、給食担当の職員が退出する際には、クラス全員が揃って頭を下げるのが、穂乃香たちもも組の給食の一コマである。

 給食担当の職員は、同じ学年の隣のクラスと交互に配膳する担当を交換しているので、穂乃香が先頭を切り手本となることで、保育士の指導がなくとも、皆が集団行動をとり、しっかりと挨拶やお礼が言えるという事実に目を疑うのだ。


 穂乃香は幼い頃からゆかりに食事作法を指導されている上に、覚醒して前世の経験を手にしたことで、その所作はより一層磨き上げられ、下手をすればあかねよりも優雅に見えるほどの出来栄えを誇っていた。

 それゆえに穂乃香に憧れを抱く子たちには目標になり、逆に負けたくないと思う子には壁となり、それ以外の子たちには手本となる。

 視線を感じることを何とも思っていない穂乃香は澄まし顔で食事を進めては、近くの子のフォローも欠かさないので、直した方がよいところ、気を付けるべきところと的確に指摘し伝えていった。

 結果的に、わずか一カ月、給食スタートから二週間ほどで、もも組の昼食は静かで品の良いものとなっている。


 昼食を終えると、帰宅の時間の少し前までは、休憩時間を挟んで運動の時間となる。

 鬼ごっこや駆けっこといった遊びで体を動かす日もあれば、参観日のお遊戯の練習をする日など、日によってさまざまだ。

 だが、唯一決まっていることに、体操着へのお着替えがある。

 朝のお着替え同様、こちらでも穂乃香の影響は色濃かった。

 当初は穂乃香が着替えのできない子全般のサポートをしていたが、最近は男の子の中に、男子は男子でという流れが出来てきていて、穂乃香が手を貸すのは女子だけになっている。

 プライドゆえか、あるいは兄弟の影響か、女の手は借りんと言い出した男子のリーダー格の子が、それでも四苦八苦しながらできない子を一生懸命手助けしている様子に、あかねだけでなく、穂乃香も微笑ましいものを見る目を向けていた。

 もっとも、そんな穂乃香の柔らかいまなざしに気付いた奈菜が、嫉妬を爆発させたので、今現在は微笑ましく思っても視線を向けないようにしているのだが、当の男性陣はそんな出来事があったことすら、知る由もない。


「それでは、今日は鬼ごっこをします~」

 あかねの言葉に、生徒たちがわくわくした表情で「はーい!」と元気に返事を返す。

 その素直で明るい返事に大きく頷いたあかねは「それじゃあ、先生が鬼をやるので、皆は逃げてくださいね」と宣言した。

 即座に園庭へと散らばっていく園児たちの中で、10をゆっくりと数えるあかねの前に幼女がひとり、不敵な笑みを浮かべて佇んでいる。

「ほ、穂乃香ちゃん!?」

 鬼の前に悠然と立つ幼女、穂乃香の姿に、逃げることに夢中で彼女が逃げていない事実にようやく気が付いた奈菜が、悲鳴のような声を上げた。

「逃げないと捕まえちゃうぞ、穂乃香ちゃん?」

 カウントを続けながら、首を傾げたあかねに、穂乃香は「タッチされなければいいんですよね?」と真顔で返してくる。

「そうだけど、先生手加減しないよ?」

 少し意地悪かなと思いつつも、穂乃香に対してそう宣言したあかねへの彼女からの返事は予想もしないものだった。

「あかね先生の本気、楽しみです」

 屈託のない笑顔で微笑む穂乃香に、むくっとあかねの中で、この子を驚かせたいという感情が起き上がる。

 多少大人げなかろうが、これはもう捕まえるしかないと、あかねは心に誓って「ぜーーろ」とカウントの終了を宣言して見せた。

 ビュッ。

 あかね自身、自分でもどうかと思う速度で、利き腕の右手が穂乃香に襲い掛かる。

 まっすぐに穂乃香へと伸ばされる手が、数瞬を挟んで宙を切った。

 トトン。

 軽い足運びで、後ろに軽く飛んだ穂乃香は。先ほどまで自分がいた場所を薙いでいったあかねの腕を見て、再び視線をあかねの顔に向ける。

 穂乃香の態度も動きも、決して、あかねを挑発する意図はなかった。

 だが、あかねには全く逆の、文字通り『挑発』に映ってしまう。

 結果、他の園児達を完全に置き去りにした保育士と園児のガチバトルが始まってしまった。

 学生時代バスケ部だったあかねは、そのプライドに掛けて、可能な限りのスピード、フェイントを混ぜたテクニックで穂乃香に迫る。

 一方の穂乃香は、自らの体重が軽いことを活かして、巧みなフットワークであかねの手を、バックステップで、あるいはしゃがんで、または横に飛んで、と、様々な動きでかわし続けた。

 いつのまにか周囲の園児や副担任をギャラリーにして繰り広げられた熱い戦いは、運動の時間の終了を告げるチャイムが鳴るまで繰り広げられる。

 そして、園庭には大の字で横たわるあかねと穂乃香の姿があった。

「や、やるわね、穂乃香ちゃん」

「先生こそ……さ、さすがです……」

 そう言葉を交わし合ってから、上半身を起こした二人は、がっしりと手を握り合う。

 だが、そうしながら二人は同時に思うのだった。

((何してんの、私!))

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