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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第一章 幼女と新たな人生
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002 幼女、修正される

「あ、あらいや?」

 気付けば、ゆかりは驚きのあまり、思わず自分が初めて耳にする神様の名前を聞き返していた。

 しかし、ゆかりが本当に驚いたのは聞き覚えの無い神様の名前ではなく、穂乃香が『それ以外に神さまがいるの』と尋ねたことに、である。

 何しろ、ほんのわずか少し前に「狐の神様~御飯ですよ~」と、甘辛く煮付けたお揚げを庭にある真っ赤なお社に二人でお供えしたばかりなのだ。

 いくらなんでもおかしい。

 それが表情に出ていたのだろう。

 ゆかりの考え込む姿に、穂乃香はより一層わたわたと動揺を強めた。

「え、いや、アレだったわ。この世界では多神教だったんじゃった」

 動揺したせいで、穂乃香の語尾が色々おかしい。

 お陰でゆかりは徐々に冷静になってきた。

 まず、と考えたのは、穂乃香が口にした神さまの元ネタだ。

 しかし、穂乃香がすでに幼稚園にでも通っていたのなら、そこでどこかから仕入れて来たとも考えられるが、複雑な家庭環境ゆえに彼女は家から出たこともない。

 それに加えて、ゆかりの本来の主である穂乃香の祖父の命によって、穂乃香に直接接することが許されたのはゆかりを含めても両手の指で足りるほどだ。

 その中でもゆかりは、穂乃香の教育係も兼ねているので、自分以外に穂乃香に何事かインプットできる者がいないことも承知していた。

 そこまで思考を巡らせて、ゆかりはハタと気が付いた。

 穂乃香がおかしなことを言い出したら、その原因は誰にあるのか、もし、それが主に伝わって、怒りを買うようなことになったら、誰が処分されるのか、考えるまでもなかった。

 スゥッと血の気が引いて、体が冷え始めたところで、何事かを思い出した穂乃香が声を上げた。

「狐の神様!」

 思い出せたことが嬉しいのか、満面の笑顔で「ゆかりと狐の神様にお供えをしたのじゃ! じゃなくて、しましたの!」と必死にピョンピョン跳ねてアピールする穂乃香に、ゆかりは笑みを返す。

「そうですね、よく覚えていましたね。流石です、穂乃香お嬢様」

 いつもよりも褒め言葉をてんこ盛りにして、穂乃香の頭を撫でる。

 そして、改めて穂乃香の知識を上書きしようと、ゆかりはトーンを落として口を開く。

「穂乃香様、狐の神様だけでなく、この世には多くの神様が……」

 ゆかりの語り口に、もろもろを察した人生2周目の3歳目前の2歳児は深く頷くと、今思い出したという小芝居を挟んで、明るい声を上げた。

「やおよろず! 八百万の神様がいるのだったわ! 私ってば何で勘違いしてたのかしら、おかしいわー」

 乾いた笑いを上げながら、言い切った穂乃香に、ゆかりは「その通りです、穂乃香様!」とおかしなところからは全力で目を逸らして同意した。

「ふ、ふぅ……わし……私ってば、何を勘違いしてたのじゃろう、なぁ」

 言いながらプツプツと浮き出していた額の汗を、ワンピースの袖で拭う。

 もはやその仕草が、子供とは言えなかった。

 しかし、とりあえず目を逸らそうと決めたゆかりは、あえてそれをスルーする。

 何しろ穂乃香に何かが起きたのはわかっても、急に目の前に突き付けられたせいで、ゆかりとて混乱の中にあった。

 ここで下手に隠ぺいのために即決で行動すれば、大きな失敗に至ると察したゆかりは、この場では静観を選択したのだ。少なくとも、誤魔化せてはまるでいないけれども、穂乃香は自分の変化を隠そうとしているのは間違いない。

 ならば、計画を練って、教育という名目で色々伝えていけば、おかしなことを隠し切れるのではないかとゆかりは結論付けた。

 こうして、穂乃香は、自身の認識の外側で、ゆかりという協力者を知らぬうちに得たのだった。


 穂乃香の覚醒以降、ゆかりはより一層彼女にぴたりと張り付くようになった。

 以前は年齢相応だったのが、ゆかりの言葉を正確に理解し、若干危なっかしいが、穂乃香は着実に知識を蓄えている。言葉が通じるということはとても指導するのが楽だし、知識を次々吸収していく姿に、教える張り合いも出てくる。正直、最初は打算の部分も多分にあったが、今ではゆかりも穂乃香に教えることを楽しく思っていた。

 そんな中でゆかりが穂乃香について書き加えたのは、どうやら前世の知識がある、というよりは、そのまま前世が乗り移ったようだという事実だった。

 知識が色々おかしいのも、言動がちょいちょいおかしいのも、それに引きずられているからだろう。

 だが、その上で、ゆかりは問題ないと判じていた。

 穂乃香自身は現状に適応しようと努力をしているようだし、ゆかりに対してはバレバレだが前世の覚醒を誤魔化そうとしている。そこでゆかりはあえて指摘をせず、流れに乗って指導という矯正を掛けることに決めたのだった。


「それにしても、穂乃香お嬢様は、賢いですね」

「まあ、長く生きとるからのぅ」

「何を言っているんですか、穂乃香お嬢様はまだ3歳にもなっていないじゃないですか」

「そ、そうじゃ……そうよね、何を言ってるのかしら?」

 ハハハと乾いた声で笑う穂乃香に、ゆかりは「お嬢様、誤魔化し方が随分大人っぽいですね」と微笑む。

「そ、そんなことはないよ」

 慌てて笑いをひっこめた穂乃香はそう言って首を左右に振った。

「ならいいのです。やはりお嬢様付きとしては、成長も嬉しいですが、年相応の可愛らしいお姿も見たいと思ってしまうものなのです」

 ゆったりとした口調で柔らかに微笑みながらゆかりは、穂乃香にそう告げる。

「うむ、わかる……わ」

 大仰に頷いた穂乃香は、途中でゆかりの視線に気が付いて慌てて、小さく幾度もコクコクと頷く。

 その様子にゆかりは静かに笑みを深める。

 反射で地が出る回数も徐々に減り、我に返って修正する速度も速くなっている。

 これなら、幼稚園に通う頃には多少の修正が効くだろうと、ゆかりは胸を撫で下ろしたのだが、それが早合点であったと悟るのはもう少し後になってからの事だった。

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