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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第一章 幼女と新たな人生
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015 幼女、魔法を使ってみる

 初日をポーズの練習に費やしてしまった穂乃香は、さすがに二日目からは魔法の練習をせねばと、自室でいくつかのプランを練って来た。

 そのお陰もあって、二日目のスタートは実にスムーズだった。

「まずは、基礎から……」

 ふぅっと短く息を吐いた穂乃香は静かに目を閉じ、一本だけ立てた人差し指の先へと意識を集中させる。

 全身から体の内側を通って、わずかに熱を帯びた極小のエネルギーの粒が、指先を目指して移動を開始する。

 さらに、意識を体の外に向ければ、周囲を漂う魔力までもが指先に集まり始めた。

「この世界は、想像以上に魔力が素直だ」

 先日変身の為に魔法を操っていたことで何となく気づいてはいたが、改めて意識を向けるとストレスなく自らの意思に従う魔力の従順さに、知らずと笑みが浮かぶ。

「素晴らしい」

 魔力をそのまま右手に握っていた愛用の魔法のステッキに纏わせる。

 指先に集めていた魔力が素早く魔法のステッキを覆い、直後、その形状が変わり始めた。

 アネモネをかたどった先端部が徐々に別の花へと変化していく。

 丸みを帯びたピンクの花びらの先が少し尖り、外側に反り返り、徐々に色もピンクから白へと変化して、それらが終わったころに現れたのは、アネモネの仲間であり親友でもあるリリーの象徴である百合の花だった。

「魔女から魔女の変身は問題ないと思うのよね」

 そう言って振るうリリーのものへと姿を変えた魔法のステッキから、キラキラと白銀に輝く光が穂乃香の体を包んでいく。

 最初に光が包んだブーツからは縁取りの数枚の花弁が重なったピンクのアネモネの意匠が、わずかに水色を帯びたユリの花びらの意匠に変わる。

 スカートはアネモネよりも少し伸びて、かわりに二段だったモノが三段へと変化し、色も水色を帯びる。

 オーバースカートはアネモネの花びらから、先がわずかに外に跳ねた百合の花びらの形に変わり色もピンクから白へと変化した。

 居間でのお試し変身では、このスカートとブーツまでで終わっていたが、誰の目もない地下室で、魔女から魔女への変身は更に続いていく。

 マントはその内側のピンクが水色に変わり、ノースリーブだった上着は、グンと手首まで覆う長袖に変わると、肩を隠すように現れた生地が膨らんで百合の花の様な形へと変化を遂げる。

 胸元のリボンとマントの留め具を兼ねるブローチの宝石が、ピンクから水色へと変化した。

 最後に少し斜めにずれていた三角帽子がすぽりと大きくなって頭にハマると、ピンクの帽子は水色へと色を変えて、穂乃香はアネモネからリリーへの変身を完了させる。

 その出来栄えをくるくると鏡の前で回転しながら確認した穂乃香は満足そうに笑みを浮かべた。

「そもそもは、正装の採寸なんかが煩わしくて開発した楽をするための魔法じゃったが、予想外なところで役に立ったもんじゃなぁ」

 思わず懐かしむあまり言葉遣いが昔に戻っているが、今は誰の目もない地下室だ。

 気に病むこともないと、失言に気付いて慌てて口を覆った手を下ろしながら、穂乃香は長い息を吐いてから苦笑した。


 一方、地下室をモニタリングしている監視ルームは、水を打ったように静まり返っている。

 穂乃香が魔法を使うことを漠然と聞かされていたエリーをはじめとする穂乃香護衛隊のゆかりを除くメンバーはメインモニターに映された穂乃香の変身シーンに釘付けになっていたのだ。

「まさかとは思っていたけど、自分の目で見てしまった以上、穂乃香お嬢様には『できるのだ』と理解するしかないわね」

 部隊の中でゆかりの副官でもあるエリーが復帰後、最初に口にしたのはそれだった。

「ところで、サーモカメラは動いている?」

 ゆかりはオペレーター席に座るエリーにそう尋ねると、弾かれたようにエリーは手元のキーボードとマウスを操作してメインモニターの映像を切り替えた。

「これが、サーモカメラの映像だけど、穂乃香お嬢様の着ている服の輪郭に沿って、こうして温度を感知している。比較映像を出すけど、私達が用意した衣装と温度的な違いはないけれど、形状はしっかりと今の『リリー』のものに変わって映っているわ」

 エリーの報告に頷きながら、ゆかりは「要は幻影といった類ではなく、服そのものが形状を変えたという感じなのね?」と確認の言葉を口にする。

「信じがたいけど、穂乃香お嬢様は魔法で服を作り替えているんだわ」

 自分の言葉に戸惑いながらも、分析官として導いた答えをエリーは伝えた。

 その直後だった。

「隊長! モニターに異常が!」

 言われて、即座にメインモニターへと視線を向けたゆかりとエリーが目にしたのは、魔法のステッキの先に現れた球体の特異点だった。

「これ、すごい勢いで温度が下がってるわ!」

 エリーの驚きの混じった報告に、ゆかりが即座に指示を出す。

「メインモニターに、現在の通常カメラの映像を回して」

「わかりました!」

 返事と共にモニターが分割され、サーモカメラの映像と縦に二分するようにして通常カメラの映像が映し出される。

 そこには氷の球を形成するリリーとなった穂乃香の姿があった。

「あれは、なに……まさか、氷球?」

 エリーの驚きに満ちた声に、ゆかりは引きつった笑顔で答えた。

「リリーアイシクル……リリーは氷系の魔法が得意なのよ」

「え?」

「穂乃香お嬢様の今見ているプリッチの登場人物の魔女リリーは、氷系の魔法が得意で、アレは再現ね」

 ゆかりの言葉に、エリー以下部隊員たちが呆然としている。

「ともかく、氷なら大丈夫だけど、炎とか使わないように、お伝えしなくては……みんなはプリティーウィッチ・フローラルをまずは放送分全話観るように」

「え、は? え?」

 理解の追い付かないエリーに、ゆかりは仕方ないかと肩をすくめてから言い加えた。

「穂乃香お嬢様が大好きな特撮ドラマなの。変身も、魔法も、それを参考にしているわ。なので、今後の対策の為にも、全員が見ておいた方がいいって判断よ」

「あー」

 エリーは少し呆けた顔で、納得したとばかりに声を上げたが、その恰好のままで固まった。

「どうしたの、エリー?」

「指示の内容とか、状況が、理解したのに飲み込めなかったわ。ごめんなさい」

「いいのよ、何しろ、相手は穂乃香お嬢様だもの」

 ゆかりの言葉に、エリーは苦笑を浮かべて「穂乃香お嬢様だもの……ね」と幾度か上下に頭を動かす。

「みんなも、徐々に慣れていきましょう。大丈夫、穂乃香お嬢様は確かに常識とは無縁な部分も多いけど、でも賢くて周りを思いやれる素晴らしい子です」

 ゆかりのまとめの言葉に、部員全員が頷きで応えた。

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