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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第四章 幼女と誕生会
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111 幼女、混沌の渦に落ちる

「いや、さすがに暴走し過ぎだから」

 長い長い沈黙の後、どうにか再起動を果たした茉莉がそう言い放つ。

 が、冷静さを取り戻したかに見える茉莉も動揺は大きく、両足が小刻みに震えていた。

「でも、こういうことは早く備えるに越したことはないと……」

 力説し始めた言葉を遮るように、大きく振りかぶった彩花のチョップが千穂の脳天に全力で振り下ろされる。

「とりあえず、黙って! じゃなかった、落ち着いて!!」

「いや、彩花が落ち着け!」

 彩花の暴走に、さらに一段階平静を取り戻した茉莉が即座に止めに入った。

 さらに手を振り上げたところで茉莉に羽交い絞めにされた彩花が暴走しているとわかるほどの謎セリフを口走る。

「茉莉、早く何とかしないと、千穂が正気を失ってしまうわ、今のうち、今のうちにとどめをさしたら、まだ踏み外し寸前で止められるのよ!」

「何言ってるんだよ、彩花! お前が正気を失ってるぞ!」

 彩花が目をぐるぐると回しながら、妙に物騒な理論を振り回してる間に、穂乃香をクルミが確保して、千穂をアリサが引きはがした。

「と、とにかく、落ち着いて、千穂! 私は応援してもいいなとは思うけど、急ぎすぎですよ!」

「ちょっと、なに顔を赤らめて賛同に回ろうとしてるのよ、バカアリサ!」

 クルミの指摘通り頬を赤くするアリサは、千穂の背後から腕を回すようにして抱き付いている。

 アリサの胸に顔を押し当てられた格好の千穂は、一瞬苦し気にもがいてからピタリと動きを止めて、その後、全力で暴れてどうにか離脱した。

「はぁ……はぁ、く、くるしかった……」

 胸に手を当てて荒い呼吸を繰り返した千穂は、そこで視線をクルミと穂乃香に向ける。

「クルミって、穂乃香ちゃん、好きだよね」

 抑揚の少ない千穂の言葉に、クルミは戦慄を覚えながら、それでも年長者の責任として穂乃香を背に庇った。

「まあ、穂乃香は可愛いしね。好きだよ」

 シレッと言い返されたクルミのセリフに、千穂がピタリと動きを止める。

 暴走状態の千穂がどう動くか見当もつかないクルミは、ともかくも回避できるように身構えた。

 その視線の先、千穂の後方でそろりそろりと遠ざかり始めたアリサを睨みつつクルミは、緊張に背中を押されて、口の端をわずかに上げる。

 そうして、クルミが覚悟と準備を決めたところで、千穂が口を開いた。


「だよね、私も大好きなんだよ!」

「へ?」

 へらッと笑いながら言い放たれた千穂のセリフに、一瞬、クルミは一気に気が抜けるのを感じ、そのまま疲労感で項垂れる。

 が、油断は命取りという事実を数々の舞台で見てきたクルミは、頭を振って思考を切り替えると、瞬時に気持ちを立て直した。

 そうして、およそ日常生活では出くわすことのない緊張感が、クルミを中心に広がっていく。

 だが、想定した攻撃などは起こらず、千穂はへらへらしながら雄弁に語り出した。

「穂乃香ちゃん、可愛いし、カッコいいし、演技も上手だし、賢いし……」

「は?」

 さすがに目を点にしたクルミは、淀みなく穂乃香を褒める千穂に、間の抜けた声を漏らすことしかできない。

 そうして呆然としていると、クルミが自らの背に庇っていた穂乃香が「ぎゃあああ」と声を真っ赤にして千穂に駆け寄った。

 ムギュっと小さな両手を押し付けて、穂乃香は千穂の口を塞ぐ。

「もうだめ、もうやめて、それ以上禁止!!」

 顔を耳まで真っ赤に染めた穂乃香が、一方的に千穂の口から垂れ流されていた穂乃香賛美の言葉を、声を大きく荒げながら必死に止めていた。

 一方、にへらと笑う千穂は「ひゃんへ? ほんふぉのことひゃほ?(なんで? ほんとのことだよ?)」とほんの一ミリの罪悪感も抱いていない様子をみせる。

「恥ずかしいから、それ言われ続けるの、私が恥ずかしいから!」

 必死に訴える穂乃香に、千穂はうんうんと頷くと「そっかぁ」と納得を示した。

「わかった。穂乃香ちゃんが嫌ならやめるね」

 とても穏やかに笑ってそう告げる千穂を前に、穂乃香はヘナヘナとその場にへたり込んでしまう。

 そんな穂乃香の頭に手を伸ばして千穂が優しく撫で始めた。

「穂乃香ちゃんは恥ずかしがり屋さんだなぁ、でも、そこも可愛いよ」


「えーと、これは解決?」

 いつの間にか、背後に回り込んできていたアリサの問いかけに振り向いたクルミは、責めるような視線で睨み付けた。

「あーははは、ごめんなさい」

「まあ、いいけど、次は逃げるなよ、バカアリサ」

 そう言いながら視線を外したクルミは、目の前で、片や輝くほど満面の、片や表情を引きつらせた苦い笑みを交わし合う千穂と穂乃香に視線を戻す。

「……んー、納得できないけど、あの結婚がどうとかいう暴走は収まった風に見える」

 正直わからんと、胸の内でさじを投げながら、クルミはそう結論付けた。

「クルミが断言しないなんて、珍しい……かも?」

 アリサのつぶやきに、クルミは苦笑する。

「千穂も穂乃香もレア中のレアな生き物だから、行動学の遥か外側から楕円軌道で本質に迫ったり、急速に遠ざかったりする……正直、枠にはまらないタイプは、いや、枠にはまらないんだから測り様がない」

 もはや呆れるだけだと言わんばかりのクルミに、アリサは理由もなく、ただ衝動に駆られて頭を撫でる。

「ちょっと、アリサ! なによ、急に!」

 嫌そうな声を上げながらも、クルミは振り払おうともせずアリサの手を受け入れていた。

 それが妙に嬉しくて、アリサは籠める力を増すと、さすがにクルミが拒絶の構えを見せる。

「やるなら加減を覚えろ、バカアリサ!」

「むふふふふ、クルミが可愛いのがいけないんだと思いますよ」

「どんな理由だよ! 頭の隅々までバカなの!?」

 そんな新たにじゃれ合い始めたアリサとクルミの元に、苦しそうな抗議の声が届いた。

「ちょっと、2人とも、彩花を止めるの手伝って!!!」

「「あー」」

 声の方に振り返ったアリサとクルミは声を揃える。

 視線の先では、すっかり忘れていた茉莉が必死な形相で彩花を羽交い絞めにする姿があった。

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