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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第四章 幼女と誕生会
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110 幼女、迫られる

「ねぇ、穂乃香ちゃん!」

 クラスメイト達が帰宅して、プリッチメンバーと榊原の関係者だけとなったタイミングで、千穂が穂乃香に襲い掛からんばかりの勢いで詰め寄った。

「な、なに、千穂お姉ちゃん?」

 反射的に自分の体を抱くようにして、後退った穂乃香に、その分だけ体を寄せて千穂は迫る。

「あの男の子は、だれで、どう思ってるの?」

 鬼気迫る勢いで血走った眼を眼前に押し付けられた穂乃香は、瞬きで応えつつ、千穂が誰のことを言っているのか思い至り苦笑を浮かべた。

「えーと、彼は岸本直人君、私が『師匠』と呼んでる子です」

 穂乃香がさらさらと口にする答えに、求めるものが少なかった千穂はさらに距離を詰める。

「好きなの? 嫌いなの?」

「え? 好き嫌いで言うなら、好きですけど……」

「っ!!!」

 穂乃香の回答に、千穂は絶望の滲んだ暗い表情で崩れ落ちた。

「え!? ちょっと、千穂お姉ちゃん?」

 がっくりとうなだれたまま、呪詛の如くぶつぶつと言葉を漏らし始める千穂はそれなりにホラーだった。

「はやい……まだはやいよ……ほのかちゃんには……まだはやい……」

 崩れ落ちて両手で辛うじて体を支えているとはいえ、幼稚舎一年目の穂乃香との身長では、千穂の頭は目の前に近い。

 そのせいで呪詛の言葉を至近距離で浴びせかけられることになった穂乃香は、表情を盛大に引きつらせた。

「あ、あの、千穂お姉ちゃん?」

「……まだなの……大人になってからでも十分なの……いくら成長が早くても、はやすぎなの……」

 呼びかけにたいして、一向に答えない千穂に、思わず後退りそうになった穂乃香は、しかし、心を奮い立たせて踏みとどまる。

 純粋に好意を向けてくれる千穂は、穂乃香にとってもすでに大切な人なのだ。

 そもそも誤解なのだし、と、胸の内で覚悟を整えて、再度声をかける。

「直人君は特撮番組のことを教えてくれる男の子のお友達です」

 紛れもない事実を口にするも、それで千穂が戻ってくることはなかった。

 穂乃香は仕方がないとさらに腹をくくる。

「それから、私はまだ子供だし、その、恋愛感情とか、ないです」

 これも本心であり、事実なのだが、口に出した『恋愛感情』という響きが妙に恥ずかしく、穂乃香は若干言葉からスムーズさを失ってしまった。

 そこに目ざとく気付いた千穂は、穂乃香にとって実にメンドクサイ返しを見せる。

「それは、自覚してないだけかもしれないもん」

 唇を尖らせて口にした拗ねたセリフは、早熟な印象の千穂には微妙に似合わなかった。

 けれども、その言葉を向けられた穂乃香には強烈なダメージを与える一撃と化す。

 というのも、穂乃香の頭の中には最善手が浮かんでいるのだ。

 ただ、それを口にするのが、無性に恥ずかしいので、穂乃香としては口に出さずに済めばと思っている。

 が、千穂の態度も行動もそれを誘っているのだ。


 わずかな沈黙ののちに、覚悟を決めた穂乃香が口を開く。

「……だから……」

 かすれるような穂乃香の言葉に、わずかに顔を上げた千穂の視線が上がり、二人の目がピタリと合った。

 瞬間、顔を真っ赤にした穂乃香が、大声で勢いをつけて浮かんだ言葉を言い切る。

「千穂お姉ちゃんのほうが好きだから!」

 言いきって、全身が発熱しているのを感じながら、脳裏で響くユラの『助けはいるかの?』の問いかけに、頷きそうになるのを無理やり堪えつつ、穂乃香は息を荒くしながら耐えた。

 穂乃香の中にある一度人生を終えるほど経験を積んだ人格が、遥か年下の少女に告白をしたようなシチュエーションに、羞恥の針を振り切ってしまっただけなので、端から見ていれば大好きなお姉ちゃんに対する幼女の微笑ましい告白である。

 しかし、穂乃香の中の老魔法使いの視点で見れば、孫娘でも通じそうなほどの年頃の少女に、落ち着かせるためとはいえ、告白紛いの宣言をしたのだ。

 それも『恋愛感情』という自身が発した言葉で、無駄に意識をした状態で、である。

 結果、甘酸っぱい青春や恋の季節など、とうに通り過ぎた年老いた精神には、いささか苛烈的なほど羞恥を刺激するものとなった。

 だがしかし、穂乃香はそれをギリギリで、危なっかしくも耐え抜いたのである。

 羞恥の壁をどうにか乗り越えたつもりの穂乃香は、実に清々しい気分で千穂の反応を見る余裕をどうにか取り戻していた。

 だが……。


 千穂は感受性の強い少女である。

 周囲に気を回せるということは、周りの人間の機微に聡いということだ。

 しかし、それはあくまで常識の範疇の話である。

 穂乃香が大人びた思考や行動をするとはいえ、魔法使いであることや増して年老いた魔法使いの精神が宿っているなどは普通は考えない、まさしく『非常識』の範疇だ。

 その状況で、全身を朱色に染めて、呼吸も狂わせながら発せられた穂乃香の宣言が、千穂の眼にどう映るかと言えば……答えは『愛の告白』である。

「穂乃香ちゃん……うんうん、穂乃香」

 ギュウッと千穂は穂乃香を抱きしめた。

 告白を受け入れるという気持ちの籠った強い抱擁に、周囲は色めくよりも凍り付く。

「とりあえず、女の子同士でも結婚できる国を探して移住しよう!」

 無駄に具体的な千穂の発言に、穂乃香は目を点にしてフリーズした。

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