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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第一章 幼女と新たな人生
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011 幼女、変身する

 プリッチの劇中でアネモネに変身する凛華はそうして呪文を唱えるのが、お決まりなのだ。

「私と共に歩む運命の花、アネモネ。希望に満ちた春渡る風の祝福と共に!」

 劇中の凛華そっくりの動きで、左に右に花が開いたステッキを振るう。

 ドラマの中ではステッキを振るう度に、花の中央のピンクの石から光が降り注いで、光に触れた服が魔女の衣装へと変貌していくのだが、さすがに光を降らす機能まではついていなかったし、当然ながら、変身機能だってついていない。

 それでも、穂乃香はこれで魔女になったとばかりに、意気揚々と次のステップ『魔法の練習』に移ろうとしたところで、思いがけない横やりに動きを止めた。

「穂乃香お嬢様、魔法をお使いになるならちゃんと、魔女服にならなくては駄目ですよ?」

 そう言って柔らかく微笑むゆかりの脳内には、杖とともに送られてきた穂乃香サイズで制作された魔女アネモネの可愛らしい衣装が浮かんでいた。

 穂乃香がなりきって遊べるように手配されたものを、取り出して見せたら喜んでくれるだろうという目論見の発言だったが、穂乃香にとっては違う意味で聞こえていた。

 つまり、魔法のステッキを手にして、変身ポーズを決めても、服が魔女の服にならなければ、魔法を使う特例措置は認められませんよという忠告だと思ったのだ。

 それゆえに穂乃香は真剣な顔で「なるほど」と頷いた。

 ゆかりは、自分が未だ魔女の衣装の事を言ってもいないのに、穂乃香が頷いて見せたのは、存在を察したのだろうと解釈して、ここに決定的な両者の思考のずれが生まれてしまう。

「では、私は準備がありますので少し席を外します」

「わかりました」

 魔女の衣装を取りにゆかりは立ち上がり、一方の穂乃香は頭の中で、かつて着替えに使っていた魔法を思い浮かべていた。

 こうして、ゆかりが居間を離れた直後、事件は起こったのだ。


「ゆかりさんがこっそり教えてくれたのは、変身しないとダメってことだよね」

 一人でうんうんと頷きながら穂乃香は自らの手の魔法のステッキを見つめる。

 キュッと持ち手の双葉の間のボタンを押し込むと、アネモネの花が開き花の中心にピンク色の半透明の石が露出した。

 まずはこの宝石を光らせるのが、変身の最初だ。

 記憶をもとにその光景を思い描いた穂乃香は、まずはと、空気中を漂う魔力を煌めかせる。

 そもそもこれは魔法というよりは、魔法の源であり本来は無色透明で視認できない魔力を視認できるようにする技術で、魔法の基礎にもあたる魔力操作に分類される。

 魔女への変身にあたって、最初に魔力操作を必要とするというのは、実に魔法の基礎に沿った素晴らしい構成だと、穂乃香は心底感心していた。

 ゆかりが『プリッチ』の様な子供向けの作品には、子供への教えが込められていると言っていたが、穂乃香はなるほどと深く納得させられる。

 実際には、物語の中で描かれる一般常識や教訓、法律を含む社会的ルールなどをゆかりは言っているのであって、間違っても魔法のシークエンスを指してなどいないのだが、主従の微妙なすれ違いは、そのずれに両者が気付かないまま、依然として二人の間に横たわっていた。

 次に、光を振りまいて、意図した場所に魔力の光を集め、その場所の衣装を変える。

「これも、教本通りじゃの……本当に巧みじゃな」

 穂乃香は思わず昔の口調に戻りながら、光らせた魔力を本来は靴を履いている足元に纏わせる。

「靴下じゃが、まあ、良かろう」

 膝丈のハートが無数にちりばめられた靴下に纏わせた光が、靴下の繊維の中へと入り込み、淡く発光を始めると一気にその姿をやや踵の高いブーツへと姿を変える。

 全体に白を基調としたブーツにはピンクの花びらを模した意匠が膝近くの履き口を飾る。

「うん、足は完璧」

 腰を直角に近い角度で折って足元を確認したころには、穂乃香の口調もすっかり普段通りだ。

 足元の変身でわずかに気持ちが高揚したのだろう頬がわずかに紅潮している。

「次はスカート……っと」

 劇中で凛華はそう言えば制服や私服から変身していたけどと穂乃香は自分の身に着けているワンピースを見る。

「あれは、部分部分で変身するのを考慮した服選びじゃったのか!?」

 思い至った衝撃の真実に、穂乃香は打ちのめされる。

 さりげない日常のシーンで、女の子らしい可愛い服を好む凛華は、フリフリのドレスの様な衣装を着ている時でさえ、構成は上下のツーピースだった。

 少なくとも上下は別の構成になっていて、今日の穂乃香のようにワンピースなどという選択は一度もなかった。

 思い返してみれば、途中から仲間になる他の魔女たちは、登場時こそワンピースだったりしても、変身するようになると最低ツーピース、回によってはベストやジャケットでさらに構成が多くなる。

 その事実に、膝をつきそうになりながら、穂乃香は彼女らの影ながらの努力に敗北感と感動を味わっていた。

 実際のところは、変身シーン作成にあたって、ドラマ製作スタッフが意図していることなのだが、今の穂乃香にはそこまで考える知識も余裕もなかった。


「と、ともかく、今は、練習。そう、練習だから!」

 どうにか立ち直った穂乃香はワンピースの腰からやや上、おなかから下の生地を魔力で包み込み、白いフレアスカート、ふわふわに膨らませるパニエ、その下に見え隠れする見せてもいいカボチャパンツ、そしてアネモネの花びらを模したオーバースカートへと変化させた。

 そのタイミングで、部屋に戻ってきたゆかりが衝撃の変身シーンに、息を飲んで、数瞬、穂乃香に見られる前に壁の影へと姿を隠す。

 ワンピースを無理に変化させたせいで、丈の短いシャツもどきとなったワンピースから、ちらちらとおへそを覗かせながら、魔法で変えた自分のスカートを確認している穂乃香は、ゆかりが戻ったことに気付いていない。

 魔法の完成度を確かめるために、何の躊躇もなくスカートとパニエを捲りあげて、自分の下腹部を覆う真っ白なカボチャパンツを確認する。

 その光景を壁に身を隠したままで確認しながら、ゆかりはどうしたものかと表情を引きつらせていた。

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