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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第四章 幼女と誕生会
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109 幼女、偽装する

「すごかった、すごかったよぉ~~」

 帰り際に月奈は幾度も穂乃香に抱き付きながら、プリッチのステージの感動を必死に訴えていた。

 そんな抱き付く月奈を見る周囲の目に不穏なものがいくつか混ざっていたが、それをわざわざ指摘する者はいない。

 結果、当事者の二人は周囲の空気に気付くことなく会話を進めていた。

「月奈ちゃんが喜んでくれて良かったよ」

 それは偽らざる穂乃香の本心だったが、月奈はその一言に、ハッとする。

「あ、ごめんね、ほのかちゃんのおたんじょうかいなのに!」

 急にシュンと落ち込んだ様子を見せる月奈に、穂乃香がフォローの言葉を掛けた。

「お客様が満足するのが一番だから、気にしないで~」

 これもまた穂乃香の本心なので、そのままストレートに胸にしみた月奈は歓喜でまたも抱き付く。

 周囲の空気などまるで気にせず穂乃香を堪能すると、名残惜しそうに千穂たちを眺めてから月奈は母親と帰路についた。


「じゃあ、私達も帰りますね」

「ほのかちゃん、またねぇ~」

「う、うん」

 満面の笑みで挨拶をする奈菜とみどりに、穂乃香は若干表情を引きつらせながら頷く。

 穂乃香の誕生会は終わったが、それはあくまで一次会の話で、この後にはプリッチの監督の一人であるあおいも混じる泊りがけの二次会が予定されていた。

 奈菜とみどりもこれには招待されているのだが、他のクラスの子たちやその親たちの眼があるので、二人は一旦帰宅する。

 だが、幼稚舎ですら、別れの挨拶で落ち込んだ風を見せる奈菜とみどりであるので、満面の別れの挨拶は違和感しかなかった。

 理由をすぐさま読み取られはしないだろうけどと思いつつも、穂乃香は周囲にどう見えているかが気になって仕方がない。

 嘘をついたり、誤魔化すのがあまり得意ではない穂乃香からすると多分に居心地が悪い状況だった。

『主殿、御心が乱れてるゆえ、協力しようかの?』

 不意に脳裏に響くユラの囁きに、即座に頷きかけた自分を無理やり押し留めて、穂乃香は(大丈夫!)と魅惑の誘いを断る。

 ユラの能力で心の引っ掛かりを収めると、その反動でタガが外れて、結果に身もだえることになるのを経験で知っている穂乃香は、そうそう切れる切り札ではないと温存を決めていた。

 そんな葛藤をしている間に、奈菜とみどりが瞬きしながら顔を近づけてくる。

「だいじょうぶ、みどりたち、すぐかえってくるからね」

 こそこそと声を潜めてささやくみどりに、奈菜が続いた。

「お待たせするのは少しですから!」

 真面目な顔で言う二人が、寂しくて自分の反応が薄くなったと考えたのだと察した穂乃香は苦笑しつつも「ありがとう」と伝える。

 自分たちに向けられた感謝の言葉に頷いたみどりと奈菜は、励ますように穂乃香の左右の肩をそれぞれ叩いて、自分の母親の元へと駆け出して行った。


「あー、穂乃香ちゃん」

 一通りの別れの挨拶を済ませたところで、遠慮がちに声をかけてきたのは直人だった。

「あ、師匠! 今日は本当に来てくれてありがとうございました」

 ぺこりとこの場の主役である穂乃香に深めに頭を下げられて、直人は当然の如く戸惑う。

「ちょっだから、その、えと、そ、そーだ」

「どうかしましたか?」

 慌てふためく直人に対して、穂乃香は落ち着いた口調で問いかけた。

 目の前で取り乱す人がいると、冷静さを取り戻せるのは、前世からの経験も裏付けることなので、穂乃香は胸の内で直人に感謝の言葉を抱く。

 一方、穂乃香が落ち着いた態度を取るせいで、直人の緊張と混乱はより濃縮されていた。

 穂乃香の目の前で狼狽しながら、時折、母親に視線を投げては、何か言いなさいの指令にピクリと体を震わせる。

 そんな哀れな状況に置かれてしまった恩人に対して、放っておけるほど、穂乃香は薄情でも、無情でもなかった。

 柔らかく慈愛に満ちた笑みを浮かべると、直人を落ち着かせるように声をかける。

 もっとも、割と視野の狭い穂乃香ゆえに、その表情や接し方が、周囲にどう解釈されるかまでは頭が回っていなかった。

 ただ、直人の緊張を解そうという思いしかないのに、周囲は二人の間にロマンスの気配を感じて騒めく。

 特に血走った眼で注視するゆかりや千穂の反応が顕著だった。


「落ち着いて、師匠」

「え……あ……えと……なんで、ししょう?」

 緊張と混乱の中にいた直人はパチクリと目を瞬かせてから、ようやくたどり着いた疑問を素直に言葉にした。

 穂乃香はその質問に「あー言ってなかったっけ?」と首を傾げる。

 その問いかけに、直人はものすごいスピードで上下に首を動かして頷く。

「そんなに首を振らなくても……大した理由じゃないよ?」

 苦笑しつつ直人をなだめた穂乃香は苦笑を深めた。

 そう断りを入れた上でもじっと自分を見つめっる直人に、穂乃香は柔らかな笑みをみせる。

「実は夏休みの間に、直人君の教えてくれた『アーマードファイター』の情報が役に立つことがあったの。それで、教えてくれた直人君を特別な呼び方をしたいなって思ったんだけど、師匠がいいかなぁと思ったの」

 師匠のくだりで悪戯っぽい笑みに切り替えた穂乃香に、直人は素直にそう言うことかと頷いた。

 穂乃香が参考にした『クレナイ』の劇中で、主人公クレナイが、情報を提供してくれる仲間の一人を『師匠』と呼んでいる。

 武術ではなく、ネットを駆使した情報提供者というなかなか個性的なポジションで、ネット技術の師匠なのでそのまま『師匠』となった背景があった。

 もちろん、そのことを熟知している直人は、話通りなら、確かに穂乃香との関係によく似ていると、すんなり納得する。

 それになんといっても、師匠はちょい悪の頼れるアニキキャラで、直人も憧れを抱いていた。

 気になる女の子に、そのカッコいいポジションのキャラクターにちなんで呼ばれるのだから、悪い気がするわけがない。

「そういうことだったのか」

 情報収集を終えるタイミングで言う『師匠』の決めゼリフを放った直人は、完全に気分の上では『師匠』になりきっていた。

 それに頷きながら「ようやく、気付いたか」と、穂乃香も『師匠』のセリフを引用して微笑みかける。

 二人の『アーマードファイター』ファンは、お互いのセリフに笑い合ったところで、別れの挨拶を交わし合った。

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