106 幼女、プロを見る
「じゃあ、私も名残惜しいけど、千穂の方に行ってくる」
穂乃香を堪能して床に下した彩花はそう穂乃香に告げた。
「うん、またあとでね、彩花お姉ちゃん」
穂乃香のお姉ちゃん呼びに、背を向けていた彩花の耳がわずかに赤く染まる。
表情はうかがい知れなかったが、歩き方が妙に軽やかだった。
「うわ、彩花が浮かれてる」
それは大変珍しい光景だと言わんばかりに、茉莉が驚きの声を口にする。
穂乃香はそれに苦笑しながらも「茉莉お姉ちゃんもお久しぶりです」と切り出した。
「久しぶりって程じゃないけどね。また会えて嬉しいよ」
微笑みかけながらそう伝えた茉莉は、スーツタイプの衣装に身を包んでいる。
グレーのジャケットは襟や裾の縁が白いラインで飾られ、白と黒のチェックのスカートの裾には黒のレースがあしらわれていた。
足元は膝上丈の黒のニーハイソックス、胸元には黒字に白のストライプのネクタイが締められ、可愛らしくも凛々しい雰囲気を纏っている。
茉莉は「さて」と切り返すと、すっと膝をついて上目遣いで穂乃香を見上げた。
「穂乃香姫、お誕生日おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
穂乃香の手を握りながら礼を尽くすそれは、まさしく姫に傅く騎士の様で、遠巻きに見ている子供たちや大人たちの眼を釘付けにする。
当然、その中には千穂もいるので「ずるい!」と非難の声を上げた。
「茉莉っちも、なんだかんだ言って目立ちたがりだよねぇ」
穂乃香の元に挨拶に来たクルミは、ジト目で茉莉を見やる。
そんなクルミは、黄色いドレスに身を包んでいた。
胸元からドレスを支える肩布が透ける素材でできているため、デコルテが露わになったデザインになっていて、スカートもフワフワに広がっている。
足元にはくるぶし丈の白いレースで飾られたソックスを履いていた。
「クルミお姉ちゃんだって、すっごく可愛いから目立ってるよ」
穂乃香はそう言いながら、みどりや奈菜に集まっていたドレス組の視線がクルミに向いていることを暗に伝える。
見た目的にも、劇中の役でも、一番年下にあたるクルミは、穂乃香のクラスメイトたちからすると、五人の中でも一番話しかけやすいのだ。
当然、虎視眈々と穂乃香とのやり取りを見つめつつ、クルミのドレスに視線を向けている。
「んー、気のせいかな、私より、ドレスの方が注目を集めてる気がするよ」
クルミのセリフに咄嗟に返しが思いつかない穂乃香は、笑顔のままで固まった。
「だよねぇ~」
ふぅっと溜息を零したクルミに、ようやく穂乃香が慌てて否定の言葉を口にする。
「そんなことないよ、クルミお姉ちゃんは優しいし……ムードメイカーだし!」
否定するつもりで語尾が強くなった穂乃香のフォローに苦笑しつつ、クルミは「ん、ありがと」と頷いた。
だが、その反応では納得できないと、穂乃香の中でスイッチが入る。
「いっつも明るく振る舞って皆を支えているし、皆が暴走傾向の時はちゃんとフォローに回ってるし、状況に合わせて見せる顔も変えられるし……」
ふんすと鼻息も荒く捲し立てる穂乃香に、クルミは慌てた。
「待って! ストップ、ダメ、禁止! ストレートな褒め言葉は恥ずい!!」
クルミは珍しく顔を赤くして穂乃香の口を両手でふさぐ。
それを、横まで来ていたアリサが「動揺するクルミは珍しいでデスねぇ~」と片言に聞こえる言い回しで揶揄った。
「うるさいよ、ハロウィン!」
アリサの衣装を差して、アリサは目じりを吊り上げる。
その言葉通り、アリサが身に纏うのは黒のベストにオレンジ色が鮮やかなスカートが組み合わせられたドレスだった。
一方、言われたアリサは感心したように頷く。
「よくわかぁりましたネ、これはハロウィンのコスプレ用の魔女ドレスデスネ」
「合ってるのかよ!」
アリサの返しに思わず突っ込むクルミに、穂乃香は吹き出しながらお礼の言葉を伝えた。
「ふふふ、今日はわざわざ来てくれてありがとうございます」
そんな穂乃香の挨拶に、クルミが頷きながら「戦友の祝いに来るのは当然だぜ!」と何かを気取って言うが、元ネタを知らない穂乃香はキョトンとする。
「くっ『荒野の仁義』ネタは通じないか」
小声でネタのチョイスに失敗したクルミを押しやりながら、アリサが「穂乃香は大事なお友達で、仲間デスカラネ! 来るのは当然デスネ!」と笑いかけた。
「それにシテモ、穂乃香は秋の生まれだったデスネ」
アリサの言葉に、クルミが自分を押しのけた手を払いながら口を挟む。
「穂乃香っていう名前は、稲穂の香りって意味で、稲穂って言うのは秋の代名詞の一つだ。それくらいわかっとけ、似非外人!」
「oh! 外人は差別用語デスネ、使用禁止デスネ~!」
言いながら今度はお互いのほっぺたをつねり合い始めた二人を戻ってきた千穂が止めた。
「もう! 穂乃香ちゃんのお誕生会で楽しいのはわかるけど、じゃれないの!」
別段、本気でケンカしていたわけではないクルミとアリサは、それをきっかけにお互いに手を引く。
それから、顔を見合わせた二人は子供たちに微笑みかけた。
「大丈夫、私達仲良しだから~」
「ソデスネー。これはスキンシップ、スキンシップなのデス!」
ぎゅっと抱き合いながら笑い呆気る二人の姿に、不安そうな表情を見せていた子供たちも笑みを浮かべる。
いかなる時もフォローを忘れないそれがプリッチのプロ意識だった。
『荒野の仁義』は架空の西部劇映画ですが、もし実在の作品があれば修正するので教えていただけると助かります。
版権って難しいデスネ!




