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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第四章 幼女と誕生会
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105 幼女、再会を喜ばれる

「いやぁ、穂乃香ちゃん、自分の魅力はきっちり自覚しないと罪だよ」

 直人をゆかりが運んで行ったタイミングで、誕生会会場に姿を見せた人物が苦笑しながらそう告げる。

 穂乃香はそちらへと視線を向けると、やってきた人物に嬉しそうに微笑みかけた。

「あ、千穂お姉ちゃん、来てくれたんだ」

「もちろんだよ、穂乃香ちゃん~~」

 言うなり軽い足取りで穂乃香に駆け寄った千穂は、ぎゅっと抱きしめる。

 別れてから2週間ほどしかたっていないというのに、長く会わなかった恋人同士の様に、二人の抱擁は熱烈であった。

 舞台は穂乃香の誕生会で、急遽駆けつけてきた人物がその主役と熱烈に抱き合えば、否が応にも注目を集める。

 そうして、まず目撃した女の子たちを中心にざわめきが起きた。

「あの人……」

「え、ほんと?」

「たぶん……」

 自らの目と記憶の正しさを確認し合う輪が徐々に大人たちへと広がっていく。

「あの子、テレビに出てる子よね?」

「ああ、娘が好きなアネモネの子だわ」

「やっぱりそうよね」

 囁き合いは徐々に確信へと変わり、大人たちが頷きあい始めた。

 すると、具体的に役名が飛び出したのもあって、その波は子供たちの方へと戻ってくる。

「やっぱり、アネモネちゃんだ!」

「穂乃香ちゃん、アネモネちゃんと知り合いなの!?」

「でも、穂乃香ちゃん、プリッチ好きって言ってたから~」

 ざわざわと騒ぎ出す子供たちを他所に、注目を集める千穂がちょいちょいと手招きをして見せた。

 すると、その手の先にいたみどりが頷いて駆けよる。

「みどりちゃんも久しぶり!」

「千穂お姉ちゃん、こんにちは!」

 穂乃香ほどではないが、しっかりと抱きしめ合う二人に会場の大人たちが一気に言葉を失った。

 何しろ、子役とはいえ芸能人である千穂と、穂乃香が知り合いであるのは、榊原家という存在を考えればそう理解のできないことではないが、みどりの岩崎家は芸能界にコネクションのある家ではない。

 それゆえに、自然と穂乃香の取り巻きだからだろうという予測が立つ。

 そして、それを裏付けるように、千穂は奈菜とも抱擁を交わしてみせた。


 親たちの中に、自らの子供と穂乃香を近づけさせればいいことがあるのだという認識と、利用しようという邪な感情を持つモノが出始める中で、穂乃香たちは楽し気に再会を祝っていた。

「穂乃香ちゃん、すごく可愛いよ! ほんと、物語のお姫様みたいだよ!」

 興奮した様子で、千穂が穂乃香を褒めちぎる。

 だが、それが恥ずかしくて仕方ない穂乃香は、苦し紛れに千穂を褒め返した。

「千穂お姉ちゃんだってすごく可愛いよ。白とピンクなんて流石アネモネってくらいに合ってるよ。まさに、妖精さんだよ!」

 自分はティアラまでつけているからと、妙なところだけ冷静に分析した穂乃香が、白を基調にしたドレスに身を包んだ千穂を褒める。

 まっすぐ見つめられながら投げかけられた穂乃香の言葉に、千穂は思わず赤面するが、すぐに嬉しそうに綻ばせた。

「ありがとう~穂乃香ちゃんに褒められると、幸せ感が一気にあふれ出すよ」

 そう言って再び穂乃香に抱き付こうとした手が、パシッと止められる。

 千穂はその手を止めた相手に視線を向ければ、そこには彩花が立っていた。

「彩ちゃん、何で止めるの?」

 不服そうに可愛く唇を突き出した千穂に返事するよりも先に彩花は、穂乃香を抱き上げる。

 いかに年下の女の子とはいえ、それなりに体重のある穂乃香を、彩花は千穂から遠ざけるように軽々と持ち上げてみせた。

 劇中のリリーのイメージの水色ではなく、より深い藍色のロングドレスに身を包んだ彩花は肘まであるドレスと同じ色のロンググローブをはめている。

 パフスリーブからグローブの間とデコルテから上に限られて露出が絞られた彩花の出で立ちは、彼女自身が纏う雰囲気と相まって、大人のような気品を存分に醸し出していた。

 そんな彩花が穂乃香を抱き上げると、お互いの雰囲気や衣装の対比もあって、千穂の妖精とお姫様のメルヘンな雰囲気とは違う、お姫様とそれを守る魔女のような凛とした空気を纏っている。


 だが、千穂にとってはそんな印象よりも、穂乃香が遠ざかったことの方が問題だった。

「あ、穂乃香ちゃん」

 遠ざけられて悲しげな表情を浮かべる千穂に、彩花の容赦ない言葉が飛ぶ。

「千穂、お姫様の独占は駄目に決まってるでしょう。私だって、穂乃香ちゃんと触れあいたい」

 言いながら抱き上げた穂乃香に頬ずりをする彩花は、観ているものが思わずため息をつきそうなほど柔らかい表情を浮かべていた。

「それはそうだけど、まだ、穂乃香ちゃん成分が足りないの!」

 千穂は言うなり、彩花ごと抱きしめようと動き出すが、またもその動きを阻止されてしまう。

「へにゃ」

 おでこを押されて、強制的に仰け反った千穂が間の抜けた声を上げた。

「だから、順番だってば、千穂」

 千穂の動きを手の平で止めた茉莉が、大きく溜息をつく。

「皆穂乃香ちゃんに会いたかったの。それをあんたは……」

「茉莉ちゃん……だってぇ」

「だってじゃないから……それにここには他の子もいるんだから、周りにも気を遣いなさいよ」

 茉莉のお小言に、千穂はようやく状況を思い出したとばかりに、慌てて周囲を見渡した。

 そこでは子供たちを相手にクルミとアリサが、言葉を交わしながら、カード付きのプリッチグミを配っている。

「クルミちゃんも、アリサちゃんも、先に子供たちに挨拶してくれてたんだね」

 座長として、穂乃香に目がくらんだ自分を恥じながら、千穂はすぐに気持ちを切り替えた。

「夜があるんだし」

 ポソリとこぼした一言で気持ちを整え直すと、千穂は茉莉に告げる。

「じゃあ、クルミちゃんとアリサちゃんと交代してくるね」

「うん。挨拶したら私も行くよ」

「了解」

 千穂は言葉を交わし合うと笑顔で子供たちの元へと駆け出した。

「みんなーこんにちは! アネモネこと春咲凛華です!」

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