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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第四章 幼女と誕生会
104/812

104 幼女、回想される

 直人が初めて穂乃香に出会ったのは、幼稚舎の初日だった。

 クラスごとに分かれ、不安で泣きだす子も出始めた中で、先生でもないのに声を掛けて泣き止ませて、笑顔まで引き出してしまう姿が衝撃的で、すぐに目を奪われてしまう。

 それがどういった感情だったのかは、今をもって直人は理解していないが、人生の経験を積んだ後になら簡単に名前を付けられる思いだ。

 直人はそれから無意識に穂乃香を視線で追うようになる。

 自然とクラスの中心に座り、当たり前のように注目を集め、そして誰にでも優しく、皆に気を配れる女の子に、お母さんみたいだと思ってしまったのは、いけないことかもしれないと直人は反省していた。

 少なくとも、親戚のおばさんは『お姉ちゃん』と言わないと怒るし、間違って『お母さん』と呼んでも怒る。

 穂乃香なら許してくれるかもしれないという気もするけど、でも言ったり思ったりしない方がいいだろうと、直人は結論付けた。

 そんな憧れの意識を抱いていた穂乃香は、とても人気がある。

 自分がそう感じるように、皆も穂乃香を特別に思っているのだろうと直人は考えた。

 何しろ、普段は怒ってばっかりな母でさえ、穂乃香を褒めるのだから、それほど特別な女の子なのだと理解できる。

 そして、その母が言うのだ。

「穂乃香ちゃんと仲良くするのよ」

 母に言われるまでもなく、直人だってそうしたいと思っていたが、話し掛けることでさえなかなかに難しい。

 穂乃香自身は男子でも女子でも関係なく相手をしてくれるのに、穂乃香の周りにいる女子は男子が近づくのを嫌がるのだ。

 特に、大人しい子だと思われていた奈菜が、頑なに遠ざけようとしてくる。

 別に奈菜をどうにかしてまで穂乃香に近づこうとは誰も思わないので、自然と男子は穂乃香に対して遠巻きに見るようになった。


 直人がちょびっとの勇気を出して尋ねたのは、ゴールデンウィークの直前のことだった。

「なぁなぁ、穂乃香はどんなテレビ見るの?」

 声を掛けるだけで、急に胸が痛くなって、穂乃香を思わず呼び捨てにしてしまった直人だったが、すぐに奈菜に怒られる。

 先生にも、ちゃん付け、さん付け、君付けを言われていたので、自分が悪いと直人はすぐに頭を下げた。

 素直に奈菜にも穂乃香にも頭を下げると、2人ともにこやかな笑顔で許してくれる。

 母や叔母と違うのは、女の人と女の子の違いだろうかと、思いつつ直人は本題に戻った。

 そんな直人の質問に、穂乃香から返ってきたのは「テレビは見ない」という信じられない答えで、思わず奈菜と顔を見合わせてしまう。

 すぐに「それ、つまんなくないの?」と迫った直人だが、穂乃香はそれに直接答えてはくれなかった。

 代わりに、女の子向けの『プリッチ』という番組を見ていることを教えてもらう。

 それを聞いて直人は、観る許可をもらうのに、番組の名前を言わないとダメなのかもしれないなと考えた。

 すると、その考えが正しいと言わんばかりに、穂乃香が「お爺様に聞いてみてみようかなぁ? 直人君、他にはどんなのが好き?」と、提案する参考にと、直人にどんな番組が好きかを尋ねる。

 直人はすぐにチャンスなのだと理解して、素直に自分の好きな番組を答えた。

 穂乃香と話す前は考えてもいなかったが、自分の好きな作品を穂乃香が見るかもしれないというだけで、なぜだかすごい嬉しい。

 時々、お気に入りの持ち物の話で盛り上がってるクラスの女の子の姿が思い浮かんで、直人はその気持ちが少しわかった気がした。

 そうして、今大好きな『アーマードファイター』の話を穂乃香に伝える。

 穂乃香はそう言う作品に興味を示さないかと思ったのに、事実は真逆だった。

 少し退屈そうな表情を見せた奈菜に、共通で知る『プリッチ』の話を混ぜながら、穂乃香はうまく話していく。

 すると、奈菜も興味を抱くようになり、穂乃香もその雰囲気を保ちつつ、うまく直人に話を振るので、想像以上にたくさんの番組の話を、今放送されているものだけでなく過去の作品まで直人は語ることになった。

 それがすごく気持ちよく、充実していたなというのが、穂乃香との一番大きな思い出である。

 もちろん、その後もテレビ番組については幾度か穂乃香と話してはいるものの、それほど印象に残る一件はなかった。

 だというのに、何がどうして、どうなったのかは知らないけれど、直人は穂乃香に立ってとお願いされた後、腕に絡みつかれてしまう。

『命の恩人で師匠』の意味がまるで分からないし、お話のお姫様の様に着飾った穂乃香に腕に抱き付かれているし、助けを求めようと視線を彷徨わせた先で母がなんだか興奮しているし、奈菜を始めとする女子からはすごく怖い目線が飛んできているしと、一つも心落ち着けるものがない状況で、直人は意識を失った。

「わぁ、直人君! 大丈夫!?」

 腕に腕を絡めていた穂乃香が、直人と共に倒れ込みそうになるのを、ギリギリでゆかりの手が支える。

 そうして、直人を抱きあげると、原因であるのに、全く理解していなさそうな誕生会の主役に視線を向けた。

「穂乃香お嬢様、自分の影響力をしっかり自覚してください」

「え~~」

「え~~じゃありませんよ。少なくとも、被害者がいるでしょう」

 珍しく穂乃香の言葉に折れないゆかりに言われて、目を回してしまった直人を見た穂乃香は申し訳なさそうな表情を見せる。

 正直、自分が原因であることに納得したわけではないが、それでも直人が被害者であることには変わりはないと、穂乃香は謝罪の言葉を口にしつつそのおでこを優しく撫でた。

「ごめんね、直人君」

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