103 幼女、祝われる
「「「穂乃香ちゃん、お誕生日おめでとう~~~」」」
普段は穂乃香と使用人しかいない榊原家の屋敷に、子供たちの声が響いた。
声の主は穂乃香の誕生日を祝うために集まったクラスメイトの子たちである。
みどりや奈菜を始めとしたクラスの女子全員と、唯一男子では直人が参加していた。
当初、皆が招待されていると聞いていた直人だが、それが『女子全員』であって『クラスメイト全員』ではないことを知って驚愕したが、それを知ったのはお誕生日会の始まる直前であり、何かを期待してしまった母親に引き留められて、逃げ出すことはできず、なし崩し的に穂乃香の傍でお祝いの歌を歌っている。
最も穂乃香の左右は、みどりと奈菜と決まっているので、並ぶことはなかった。
榊原家のお屋敷には、普段は襖で区切られている大広間があって、この襖を全て取り払うと百畳敷きの大きな和室となるのだが、今回は参加人数が子供たちと、その親の一部、総勢で30人程度なので、部屋の半分、五十畳ほどで穂乃香の誕生会は催されている。
大きな漆塗りのテーブルを四卓ほど組み合わせて作った特製テーブルの上座に穂乃香を据えて、そこから左右に順序良く子供たちが席についていた。
付き添いの親たちは、別テーブルが用意されていて、みどりの母である由紀恵や奈菜の母親である加奈子もこちらの席で子供たちの様子を見つめている。
「今日は、私の誕生日のお祝いに集まってくれてありがとう。これからも、よろしくお願いします」
お祝いの歌を贈られて立ち上がった穂乃香は、そう挨拶すると深く頭を下げた。
身に纏うピンクのドレスが、穂乃香の動きに合わせてふわふわと揺れ動く。
スカートの裾に向けて色を濃くしていくピンクの光沢のあるグラデーション生地のドレス本体に、丸く膨らんだ半袖丈のパフスリーブや腰回りを包み込むようにふわりと纏わりつくオーバースカートが白い半透明の柔らかな生地であしらわれていた。
ドレスのスカートも徐々に膨らみを増すように三段で構成され、重く感じるギリギリを見極めた絶妙なバランスで、スカートの段の境や裾、衿元に胸元と、計算されつくしたレースやフリル、刺繍による飾りが豪華さと可憐さをよりますように配置されている。
その上、穂乃香の頭の上には小さな銀色の王冠型のティアラが乗っていて、まさにお姫様と表現するに相応しい恰好となっていた。
全員が座布団に直接座っている中、一人だけ立っているので、その場の全員が穂乃香のドレス姿を目にすることになり、その完璧さに自然と見惚れてしまう。
そのせいで、穂乃香がプラスチック製のコップを手に宣言した「乾杯」の音頭に、ほぼ全員が反応できなかったのは、残念な事故だった。
しかも、恥ずかしさで赤面した穂乃香を見て、心を鷲掴みにされる犠牲者も出るほどの大事故である。
再度、穂乃香の乾杯の声を合図に始まった宴会は、食事もそこそこに穂乃香に子供たちが殺到する事態となった。
まずは、穂乃香の身に纏うお姫様ドレスに興味を示す子たちが、集まってきて遠慮なく鑑賞するので、みどりや奈菜がやんわりと取り締まる。
そのうちに、深い緑色のドレス姿のみどりと、深い青色のドレス姿の奈菜にも興味が移り、自然とドレス組が穂乃香から離れた。
ついで、穂乃香を囲むのはお姫様に憧れる組で、自分たちの知る、絵本やアニメなどに出てくるお姫様の名前を例えに出しながら、穂乃香がいかに可愛かったかを口々に囀る。
嬉しそうにお姫様語りをする少女らは、純粋に穂乃香を褒めて憧れを口にしているのだが、それゆえに穂乃香は恥ずかしくてたまらなかった。
自ずと視線が下がり、頬や耳が赤く染まる。
その照れの姿勢がより一層か弱く可憐なお姫様像を抱かせるせいで、更に穂乃香を取り囲む少女たちの褒め言葉を加速させてしまった。
結果、ゆかりのストップがかかり、穂乃香はどうにか救出される。
もっとも、救出にあたりゆかりが選択した抱き上げ方が、その肩と膝の裏に腕を回すお姫様抱っこスタイルだったので、きゃあきゃあと歓声を振りまくことになってしまったが、半分以上フリーズしていた穂乃香はその声にすら気付かなかった。
少し場を離れ落ち着いたところで、穂乃香は宴会の場へと舞い戻る。
ドレス組は鑑賞を終えて落ち着きを取り戻し、お姫様憧れ組は距離を置いて愛でる方向にシフトをしていた。
みどりと奈菜はドレス組に囲まれてしまったせいで気疲れして、どこか疲れた様子で座り込んでいる。
そんな多少穂乃香へのガード力が落ちたところに、直前に母親に何かささやかれていた女の子たちが近づいてきた。
「ねぇねぇ、穂乃香ちゃん、なんで男の子は直人君だけなの?」
「穂乃香ちゃんは直人君が好きなの?」
「いーなずけ? なの?」
明らかに、誰の質問か想像がつく質問の数々に、穂乃香は逆に冷静さを取り戻す。
陰謀渦巻く世界で生きた記憶を持つ穂乃香からすれば、幼女としてお姫様扱いされたりちやほやと褒められるより、よっぽど慣れ親しんだ探り合いの気配に思わず笑みまでこぼれそうになった。
「簡単に言うと、直人君は命の恩人で、その感謝の気持ちを示したくて呼んだの、ね、直人君?」
穂乃香は言うなり、少し遠巻きにこちらを見ていた直人に声を掛ける。
急な呼びかけに驚く直人だが、穂乃香はそんなことは気にしないとばかりに、スタスタと近づいて立ち上がらせた。
「そして、直人君は私の師匠なのです!」
「は? えっ! はぁ!?」




