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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第四章 幼女と誕生会
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102 幼女、感謝する

 休み明けの幼稚舎は、普段とは少し違ったグループに分かれる。

 家が近かったり、仲が良くていつもいるグループとは違い、久しぶりに顔を合わせる子たちが挨拶を交わすので、普段は珍しい組み合わせも生まれていた。

 その中でも、特に目を引くのは、当然というべきか、穂乃香の動向である。

 流れるような動きで、さっさと自分のロッカーの前に立った穂乃香は、周囲の目線など気にしないと言わんばかりに夏服である藤色のジャンパースカートを脱ぎ去ると、あっという間に持参してきたゆかりお手製の布袋から取り出したスモックに着替えた。

 そうして、ジャンパースカートをたたんで、通学かばん、布袋とともにロッカーに仕舞うと、穂乃香は周囲を見渡し始める。

 直前まで観察対象だった穂乃香に、逆に視線を向けられて、園児たちもわずかにざわついた。

 そんな中で目的の人物を見つけたのか、穂乃香は笑みを浮かべると迷うことなく歩き出す。

 が、その向かった先が、その場の全員にとって予想外だったので、教室内のざわめきは一段増した。


「本当にありがとう!!!」

 急に両手を取られて、穂乃香に握られたことに、驚きのあまり直人は完全硬直していた。

 なにしろ、穂乃香に手を握られるだけでもものすごく緊張して頭に血が上ったというのに、その相手にすごく強めに感謝の言葉を告げられているのだから、戸惑うなという方が無理である。

「え、えーと……えええ?」

 訳も分からず呆然とする直人だが、そんな反応など気にも留めないとばかりに、穂乃香のお礼の言葉が乱れ撃たれた。

「もうほんと、一時は自分の身の危険まで感じたんだから、ほんと、直人君には感謝しても感謝しきれないんだよ」

 勘違いじゃないかなどという直人の軽い現実逃避を、名指しという間違いが決して生まれようがない発言で、穂乃香は平然と打ち砕く。

 しかし、直人には身に覚えがほんの僅かもないので、一層混乱が増すばかりだ。

「直人君のお陰で、無事助かったし、新しいお友達もたくさん作れたし、夏休みが思い出いっぱいになったのも、全部直人君のお陰! だから、本当にありがとう!」

 改めて、ブンブンと握られた手を穂乃香に上下にシェイクされながら、向けられる眩しいほどの笑顔に、直人はただただ頬を赤らめて固まるしかできない。

 そして、自然と皆の注目を集める穂乃香が言うだけ言って満足したところで、教室に姿を現したみどりが声を掛けてきた。

「ほのかちゃん、おはよう!」

「あ、みどりちゃん、おはよう」

 くるりと踵を返した穂乃香は嬉しそうにみどりへと駆け寄っていく。

 その時点で、散々穂乃香に感謝の言葉を掛けられていた直人だけが硬直したままその場に取り残された。


「奈菜ちゃんもおはよう!」

 穂乃香がみどりの着替えを手伝っているところで、ちょうど奈菜も姿を見せた。

 共通の思い出がたくさん増えた三人は、揃うとついついいつも以上に笑みを交わし合ってしまう。

 別段秘密というわけではないけれど、やはり三人だけに通じるものがあるというのは、意識しなくてもワクワクと胸を弾ませてしまうモノがあった。

「えと、お父さんから、打ち上げに行ってもいいって言って貰えました」

 奈菜が少しもじもじとしながら、嬉しそうに報告をすれば、みどりも手を上げて「みどりもー」と自分も許可が下りたことを宣言する。

 そうなると、二人の視線は自然と穂乃香へと向かった。

「あーー、えーーと、私は難しいかも」

 奈菜とみどりの期待の籠った視線に、穂乃香は申し訳なさそうに眉を寄せる。

 打ち上げは演者だけでなく、撮影クルーなども参加するために、菊一郎も陽子も許可が出せないと言われてしまっていた。

 もちろん、その旨はすぐに千穂に伝えた穂乃香だったが、テレビ電話越しでもその落胆の色は濃く、その反応に大いに胸が痛んだのは記憶に新しい。

 そして、みどりと奈菜も同じように消沈した表情を見せた。

 穂乃香はすごく困った顔をしてから「で、でもね」と千穂に対しての解決策を2人にも伝える。

「私の家で、千穂お姉ちゃん達と、上映会をして交流会をして、お泊り会をすることにはなったの」

「「え?」」

 急遽放たれた聞き捨てならないセリフに、意気消沈していたハズのみどりも奈菜もほぼ同時に穂乃香を見た。

「くわしく!」

「そうです、詳しく教えてください!」

 みどりと奈菜に詰め寄られる格好になった穂乃香は二人の変わりように驚きながらも、意気消沈されているよりいいかと苦笑を浮かべながらも、事情を説明する。

「えと、不特定多数……知らない人も来るかもしれない打ち上げは駄目だけど、お爺様や陽子さんがあったことがある千穂お姉ちゃんたちと、私のお家で集まるのはいいよってなったのね」

 穂乃香の説明に、理解したとばかりにみどりと奈菜がコクコクと頷いた。

「それで、千穂お姉ちゃんたちは忙しいからお昼間は難しいけど、夜なら集まれそうってことになって、遅くなりそうなら、うちに泊まってもらおうってことになったのね」

 どこかたどたどしく説明をする穂乃香は、ものすごい勢いでテンションを上げて、今から来そうな勢いだった千穂を思い出して苦笑を浮かべる。

 だが、回想の少女だけでなく、暴走しそうな人間は、この時も穂乃香の目の前にもいたのだ。

「ほのかちゃん、みどりも! みどりもおとまりしたい!」

「わ、私も、私もお願いです、お願いします、私も!!」

 ものすごい勢いで左右からみどりと奈菜に迫られた穂乃香は、お泊りに熱くなる子がここにもいた事実を実感して、引き気味に頷く。

「い、いいけど、お父さんとお母さんの許可は貰ってね?」

 穂乃香の言葉に、みどりと奈菜は「「はーーい!」」と可愛らしく声を揃えて頷いた。

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