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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
100/812

100 幼女、再会を誓う

 青海島を離れ数時間、穂乃香たちを乗せた船は荒波の中を突き進み、予定通りの時間には無事入港を果たしていた。

 甲板で今や遅しと待ち構えていたクルミが、着岸し渡し板が掛かると、真っ先に飛び出していく。

「おお、揺れてる感じが抜けない!」

 一番最初に上陸したクルミが、ふらふらと千鳥足で揺れの影響を実感していた。

「あぶないですよ……」

 次いで、茉莉に支えられながら顔を青くしたアリサが、クルミに忠告しながら下船する。

 行きよりも波が高かったために、それに続くみどりも奈菜もそれぞれの母親に支えられていた。

 娘を気遣う余裕があるとはいえ、加奈子と由紀恵も多少表情が優れない。

 その中で平然としているのは、穂乃香、千穂、茉莉、彩花とゆかりら榊原家使用人の面々であった。

「なんかもう、穂乃香ちゃん達はさすがって感じがするよ」

「そうですか?」

「うん。穂乃香ちゃんはすごい子だけど、お家の人たちもみんなすごいんだなぁって」

 穂乃香の凄さだけでなく、使用人の能力の高さを知ったことで、自分では手の届かない遠さを幻視した千穂はわずかに寂しそうな顔を見せる。

 千穂の表情と発言から、その胸中に抱いたであろう気持ちを察した穂乃香は、優しい口振りで囁きかけた。

「私なんて、全然すごくないですよ……というか、プリッチの主役してて、優しい上に美人さんで、皆の気持ちを考えて行動できちゃうどこかのお姉さんの方がすごいと思うんですけど?」

 穂乃香の茶目っ気たっぷりな言い回しに、千穂はぱちくりと目を瞬かせる。

 それから、プッと噴き出した。

「なんか、そういう風に穂乃香ちゃんに言われると、その人、とっても凄い人に聞こえるね」

「とっても凄いですよ。私の憧れの人なので」

「そうなの?」

「ええ、そうです」

 最初はドラマの中の人、この世界で初めて見つけた自分と同じ魔法使い、魔女の先輩などと思っていた穂乃香だが、今はずいぶんと千穂に抱くイメージが変わっている。

 最初に憧れたイメージのまま、穂乃香の中には千穂に特別な感覚を抱いていたが、思いがけない共演と共同生活を経て、魔法使いとしてではなく、純粋に人として尊敬していた。

 プリッチメンバーの中では音頭取りをして先頭を進んだり、あるいは影に控えて皆を見守ったり、ムードメイカーとして雰囲気を明るく変える姿を穂乃香は見ている。

 スタッフに対しても、気遣いを欠かさないし、いつも笑顔で言葉を交わしていた。

 人数がやや少ないこともあって、スタッフにかかる負担が大きいために、そのサポートを嫌な顔どころかニコニコして積極的にこなす。

 そして、撮影にあっては圧倒的演技力で、皆を引っ張っていくのだ。

 更に、長く生きた経験を内に抱え、多くの子供たちを指導してきた穂乃香には、千穂の類まれな才能と努力、精神性と目に留まることも多い。

 千穂が新たな人生における最も近しい目標になるのは、穂乃香にとってはとても自然な事だった。

「私は千穂お姉ちゃんの様になりたいって思ってます」

 まっすぐ向けられる穂乃香の目に、千穂はすぐさま目を涙で潤ませる。

「どうしよう、どうしよう、すごく嬉しいけど、嬉しい以外の感情が出てこないよ!!!」

 ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、頬を赤くして千穂が大声を張り上げた。

「あ~~、千穂お姉ちゃん、涙、涙!」

 穂乃香は慌てて、スカートのポケットから取り出したプリッチのハンカチで千穂の涙を拭う。

 すると、目ざとくそれに気づいた千穂が、ハンカチに目を向けた。

「穂乃香ちゃん、これ……」

「あー、えーと……」

 ハンカチの準備はゆかりがしてくれているので、穂乃香は千穂の涙を拭おうと何も考えずに取り出したのだが、それに視線が向いたことで、何をどう説明しようかと戸惑う。

 一方で千穂は、穂乃香の手にしたプリッチハンカチに描かれるイラスト化された自分たちを見て苦笑した。

「これ、ずいぶんと可愛く描かれてるよねぇ」

 直前までの涙はまるでなかったかのようなケロリとした顔で、千穂はぼそりと言い放つ。

 その急激な変化と発言に、今度は穂乃香が思わず吹き出した。

「ん? なんか変?」

 キョトンとした表情で首をかしげる穂乃香に、千穂が問いかける。

 フルフルと左右に首を振ると、穂乃香はにっこりと笑みを浮かべて言い放った。

「いえ、現実の千穂お姉ちゃんのほうが可愛いです」

 はっきりきっぱりと言いきられたそれが、あまりにも不意打ち過ぎて、千穂は言葉を失ってしまう。

 そして、動かなくなる千穂に、ただ思ったままを口にしたに過ぎない穂乃香は不思議そうに首をかしげた。

「どうしま……ふあっ!」

 固まった千穂の様子を窺おうとしたところで、千穂の猛烈なハグに抱きしめられ、驚きの声に変わる。

「穂乃香ちゃん、もう嬉しいこと言いすぎだよ!」

「喜んでくれて嬉しいですけど……くるし……」

「あ、ごめんね」

 千穂は言いながら抱きしめる手は解かずに籠める力だけをわずかに抜いた。

 穂乃香が押し付けられた千穂の胸からはとても速い心臓の鼓動の音が聞こえてくる。

「ねえ、穂乃香ちゃん。また会ってくれるよね」

 柔らかいのに、切なくなるような寂しさが籠った不思議な千穂の声音に、穂乃香はゆっくりと手を伸ばした。

 そうして、千穂の体を抱きしめ返しながら、穂乃香ははっきりとした声で告げる。

「もう、私達はお友達じゃないですか。お友達に会うのは普通の事ですよ」

「……うん、そうだね。ありがとう」

 穂乃香と千穂はしばらくの間抱き合ってから、再会を誓い合って、少し寂し気な笑みをお互いに交わし合った。

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