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リングワールド  作者: seisei
序章
8/29

ポリーンの悩み

【ポリーン目線】


 群衆が道の両脇に溢れかえって大層な喧騒けんそうだ。私は虚ろな瞳を群衆に向けて形だけ手を振って見せた。


 こんなに生気のない私の仕草が人々には上品に見えるらしい。何を言っても良いようにしか受け取ってくれない人達にはもううんざりだ。


 ノエルはともかくとして、私などが都に行くと言う事がこれほど沢山の人々に関心が持たれる事なんて不思議を通り越して呆れる思いだった。


 自分が今こうして偉そうに御輿みこしに担ぎ上げられて聖女だなどと崇め奉られているのは全てラークのおかげなのに。


 本当にこれらの賞賛を得るべきはラークであるはずなのに運命のいたずらなのか助けられた自分が賞賛を受けている。


 彼は私が盗賊にとらわれた時、凄い勇気で後を付けてくれ私のとらわれた避難小屋の場所を突き止めるとノエルに知らせに走りその足で取って返してくれた。


 しかも魔物達を使って盗賊達を襲撃させたりたりと本当に一人で何十人分もの働きをしてくれた。


 ノエルが駆けつけてくれた時には既に、盗賊達は魔物との戦いで戦力のほとんどを使い果たし散々な状態だったという。


 ノエルはラークをしきりに褒めちぎっていた。ノエルの口癖だがラークは当代第一の智謀の英雄で自分はその一番の弟子なのだそうだ。


 ノエルの尊大な態度はラークのモノマネなのだと本人は言っていた。


 それはちっとも似ていないがノエルにはラークのあの超然とした雰囲気がそんな風に見えているのだろうかと不思議だ。


 話が逸れたがラークの活躍はまだまだある。盗賊の中で最大の戦力であった頭目の大男を退治したのもラークだ。


 私が襲われて酷く殴りつけられて意識が遠のいた時に小屋に颯爽と入ってきたラークの凛々しく美しい姿が今でも目に焼き付いている。


 あの状況でなんの躊躇ためらいも無く大男の頭目の背中に飛びかかったラークの勇気を思うと胸が熱くなる。


 頭目は最期の力を振り絞ってラークに斬りつけた。後で聞いたがあの大男の頭目は『旋風』と言う二つ名と【大技級旋風斬り】のスキルを持っている有名な盗賊だったらしい。


 ラークはその頭目のスキルによる攻撃を二度まで避けて見せた。小屋が小さく無ければうまく避けて頭目は事切れていただろう。頭目はラークを切るとそのまま倒れたもの。


 ラークは凄く血を流して私はそこで意識を失ったのだ。


 直ぐにノエルが助け起こしてくれた。慌ててラークの事を聞いたらノエルは泣きながら首を左右に振って……その時の悲しさは今でも忘れられない。


 私はノエルに助け起こされてラークの所に走り寄った。胸が切られていて恐ろしい量の血が流れていた。


 何が何か分からなくなってラークの手を握ったらラークが呻いた。まだ生きているって私は思い、必死で神様にラークを助けてって祈った。


 幸い私のスキルが発現したから命は取り止めた。本当にこの時ほど神に感謝した事は無かった。


 あの日から私は両親の監視のせいで一人では外に出る事が出来なくなった。代わりにラークにたくさん手紙を出したけど返事は一通も来なかった。


 ラークのあの大人びた仕草で話す雰囲気がとても魅力的で私はずっとラークの事だけが好きだった。


 ラークはもちろん素敵な人だ。珍しい銀髪もさることながら見たことのない黒い瞳につるりとした整った丸い卵のような顔が魅力的だ。


 私はある人から人の容姿は卵の様に丸ければ丸いほど完璧な美しさに感じるのだと聞いた事がある。そのような容姿の者に惹かれるという本能があるのだそうだ。


 ラークの顔は今までに見たどんな人よりも目鼻が美しくまとまっており卵のような丸く完璧なホォルムをしている。あまり代わり映えのしない私やノエルなどとは比べられない素敵な美しい人だ。


 ラークが男の子達から虐められる最大の原因はラークが無能者だからではなくラークの容姿がとても綺麗な上に大きな農園の領主の息子だからだと思う。


 女子達ですら嫉妬する美貌と言えば良いのだろうか。もし私もラークが無能者じゃなかったら近づく事も出来なかっただろう。


 もちろんラークの美しい容姿も大好きだがラークは自分の容姿に触れられるのがとても嫌らしいので私は昔からラークの容姿以外でラークの素敵なところを探すようになり、そのおかげで今では誰よりもラークの素敵なところを知っているのは私だと思う。


 しかしラークは私なんか子供の女性には本当に興味がなかったようだ。もう少し自分を磨いてラークのお母さんのような素敵な女性にならないと私になんか本気で興味を持ってくれないのだろう。


 いつも私がラークの村に無理に行くと言うのをラークは止めてくれていた。距離もあるし魔物が出ないとは限らないからだ。


 それでも私が無理矢理ラークの元に遊びに行くのでラークは仕方なしに私と遊んでくれていた。


 ラークは不思議な大人の雰囲気と透明感のある性格で達観した世界観を持っていた。


 不思議な世界の御伽噺おとぎばなしをたくさん聞かせてくれた。


 ラークのしてくれる御伽噺はありえない世界の話なのに妙な真実味をもっていて私だけじゃなくノエルも夢中になって聞いた。


 ノエルもとても頭の良い子だったがラークの底の知れない知性には遠く及ばない。ノエルもいつも感心していた。


 私が最初にラークに夢中になって次にノエルが夢中になった。


 あの日はラークが始めて私を迎えに街道にまでやってきてくれたのだ。後でそれに気付いて嬉しく思った。あるいはラークは神様からたくさんの加護を受けていて私の危機を知るそんな感覚を持った人なのかもしれないと思った。ラークがいなかったらと思うと背筋が凍りつく思いだ。


 あの後ラークが盗賊に切られた後遺症で臥せていると聞いた。飛んで看病に行きたかった。少なくとも命を助けてもらった事を一言、心からのお礼を言ってから都に行きたかった。


 何度もお礼のために両親を連れて伺いたいと両親に手紙を出すようにお願いしたが返事が来ないと両親は言っていた。最初は大地主の息子さんだから積極的に遊びに行けって言っていた両親も最近は私がラークの話をすると何だか嫌そうにする。もしかしたらラークのご両親から怪我をさせてしまった私に身分をわきまえろとか叱られたのかもしれないし、あるいはラークは私が無能力者で無くなったから嫌いになって断ってきたているのかもしれないって思った。ラークはそんな人だった。私は両親に真相を正すのが怖くて聞けなかった。


 私はラークから面倒がられている事は分かっていた。それでもラークはいつも私の悩みや愚痴を黙って聞いてくれ、大人の考え方を教えてくれる人だった。最近ラークは見た目も少し大人っぽくなってとても格好良くなった。私はラークのそんな記憶だけを宝物にして都のシスターとして暮らして行くつもりだ。


 あれからノエルとは何度か会ってラークの事を話した。


 ノエルは自分達が無能力者でなくなったのでラークとは生きる世界が違うようになったから手紙の返事が来ないんだろうと両親と同じような事を言った。


 訳のわからない事を言うなとノエルを叱ったら、ノエルはスキルが発現してもラークに叶わなかった事で落ち込んでいて、しかも英雄に祭り上げられて引っ込みが付かなくなったようだった。


 ラークの手柄がいつのまにか全部自分の物になっている事をいくら否定しても誰も聞いてくれないのだそうだ。ラークはそんなくだらない事は全て許してくれるってノエルに言ったけどノエルはかたくなにラークから逃げているように見えた。


 ノエルはまだまだ子供なんだと思った。


 都にある癒しの女神サイレス様の教会からお誘いの話があり両親が勝手に話を進めていると知ったのはもう断る事も出来ない段階になってからだった。


 幸いノエルも聖騎士団からのスカウトがあり入団のため都に登ると言う。


 まさかこんなに派手な出発式をするなど全く知らなかったし、知っていたら断ったのに。でももしかしたらラークが見に来てくれているかも知れないと群衆を見回していた。

おはようございます。

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