ちょっとした昔話(八百屋のタカシ編)1
俺らの学校の近所に、高校があって、そことは近いからかいつも小競り合いしていた。
そこの頂点てっぺんを極めていたのは女だって話は聞こえてきていたが、あんまり表に出てこないので都市伝説みたいなものか、あえてそういう影をにおわせて怖がらせようという噂なのかと思っていた。
ツレ達と学校の、お世辞にも綺麗とは言えない落書きだらけの屋上でまったりしてる時。
後輩のトオルが慌てて階段を駆け上がってきた。
あまりの動揺ぶりに、俺とマサキは寝ころんでいた体を起こし話を聞く。
トオルは酷いありさまで、ボコボコに殴られた顔で口から血を流して痛々しい。
トオルと幼馴染のコージが北高の奴らに拉致られたって。
返してほしければ丸腰で俺とマサキだけで来いっていう。
コージは気のいい奴でいつもヘラヘラしながら俺らの後を付いてくるヒヨコのようなやつだった。
あいつはホント弱いから、そこを狙われたんなら黙ってられねえ。
今まではそこまで姑息な手を使う奴らじゃなかったのに、と思いつつ指定の場所に向かうことにした。きっとコージはべそかいて待ってるだろう。迷惑かけたって。
指定された場所は町はずれの廃工場。人目につかないからうってつけなんだろうなぁ。
マサキとアイコンタクトしつつ、重々しい扉に手をかけた。
薄暗い中に、何か天井からぶら下がっている。
ボコボコにされて顔もはれ上がってわかりにくいけど、コージだ。
「コージ、大丈夫か?」
マサキの声にコージ俺らを凝視する。
「先輩、逃げて!!!」
痛々しい叫びに胸が痛む。
「ちゃんと来たなぁ。丸腰じゃなかったら、こいつ、天井から真っ逆さまよ?」
待ち構えていた北高のメンツは、下卑た笑いを浮かべてコージをつるしていたチェーンを固定しているレバーをもてあそぶ。
待ち構えていた奴らはざっと20人くらい。手には鉄パイプやヘルメットなんかで武装している。
見たところ、2年と1年の混合ってところか。この場を仕切っているのは、見たことある。
こないだの小競り合いの時にボコボコにしたやつだ。たしか、万年4番手のアイザワだっけか。
さえない面ツラだし、頭もよくない。ただ、口の回りがいいだけの男だ。
絶対に頂点にはなりえない姑息な男。何のつもりでこんなことやらかしたんだか。
広々とした敷地に、隠れられそうな場所はないが、錆びた鉄骨がむき出しになっていて
天井まで登れそうだな。1人当たり10人。うーん。終わったらコージのおごりでなんか食いに行こう。
けたたましい金属の音がすると縛り上げられたコージが大きく揺れて悲鳴が上がる。
「ああ。そっちの言い分通りにしてきたんだ、とっととコージを返せ」
マサキの怒りを押し殺した声があたりに響く。そいつらは、にやにやと笑いながら
「ああ、そのままお地蔵さんみたいに立っててくれりゃぁ、気が済んだらかえしてやらぁ」
ああ、思う存分殴らせろってことか。
「ッザけんなよ……いつから北高はこんな姑息な手を使うようになったんだ?あぁ?」
マサキの怒りのスイッチが入る。
「そこのチェーンの操作レバー持ってるお前。もし俺達のダチを落としたら、死んだ方がマシって経験させてやるからな。俺の本気、甘く見るなよ?」
俺は、操作レバーを握っている男を睨み据える。
焦ったアイザワがレバー握ってる男に数で勝ってるんだからビビるな!!って怒鳴りつける。
確かに数は多いし向うは手に得物を持っている。しかし、構え方がなっちゃいない。
覚悟がしきれていない迷いがあるんだ。
それほどまでに俺とマサキの名前はこの界隈じゃ通っている。
たかが4番手のいう事とどっちが信ぴょう性があるかなんてちょっと考えればわかるもんだけど、
逆に俺とマサキをボコボコにしたっていう事実で自分らの名前が挙がるとか考えてるんだろうなぁとちょっとお前らドラマの見すぎだよ、って言いたい。
風で何かが落ちた音がした。それが合図となってマサキと俺は駆け出した。
勢いに飲まれつつ、北高の奴らも得物を振り上げてかかってくる。
実は、相手の目の動きを見てると大体どう得物を振り下ろすか勘でわかるようになる。
マサキもそうだと思うけど、それだけ喧嘩慣れしてるんだよね。
まだ後ろからは回り込まれていないから前の敵だけに集中。
相手の得物を避けて腹に一撃。相手は得物を獲り落としうずくまる。
多人数を相手にするときは、一撃で沈めていかないと体力を無駄に使うから結構大事。
乱闘になると四方八方から攻撃が来るから要注意。
マサキのも俺のも結構パンチは重いからどんどん相手を戦闘不能状態にしていく。
後残るは4人か。しかし、アイザワが雄たけびを上げてコージをつるしている操作レバーを手にして脅しをかけてくる。
「こいつがどうなってもいいのか?!」
マサキが止まる。
「最初に言ったよな? ダチを落としたら、死にたくなる目に合わせるって」
さすがに息が上がってきた俺が叫ぶ。
その声に気をよくしたのか、アイザワはこれ見よがしにレバーを操作し落としては止めを繰り返し本気を示そうとした。
コージが気絶しているのが唯一の救いか。あいつヘタレだから。
時間だけが流れて膠着状態になっていたその時、入り口から怒号が響く。
「何やってんだい、アイザワ!!卑怯な真似は止めな!!」
入り口に、腕を組んだセーラー服の女が立っている。
薄暗い中にいたせいか、逆光に経つその女が神がかって見える。
「あ、アヤメさん!!!!」
北高の奴らの顔色が変わる。みんなガタガタと震え出した。
「アヤメさん、あんたはもうすぐ卒業じゃねえか。だからこれを足掛かりに俺が一気に天下取るんすよ邪魔するんじゃねぇよ、あんたはもう用済みなんだよ」
ビビりながらもアイザワは言い切った。そこは誉めてやろうと思う。ただ足は生まれたての小鹿のように震えている。
「ほう、偉くなったもんだねぇ、アイザワ。じゃぁ、卒業するあたしから、置き土産をしてってやろうね」
ゆっくり アヤメって女は中に入ってくる。進路に邪魔な倒れている北高の雑魚たちを蹴り飛ばし道を開けさせて。
その様子を固唾を飲み見守るアイザワ以外の人間達。俺達も含め。
アイザワは、恐慌状態になったのか。
「いくらアヤメさんでも、素手で鉄パイプを持った俺にはかなわないでしょうよ!!」
その事実に余裕が出来たのかアイザワは鉄パイプを振り上げ、先手必勝よろしく襲い掛かった。
が、何が起こったのか、正直一瞬のことだったので見えなかった。
何をやったのか、アヤメって女は、手を使わなかった。ただ、身のこなしだけでアイザワを避ける。
そのあと、地面に突っ伏したアイザワは再び起き上がり鉄パイプを振り上げた。
そして振り下ろしたときに、アヤメって女はその鉄パイプめがけて蹴りを入れて鉄パイプを吹っ飛ばし、すかさず金的、顎、かかと落としをやってのけその後腹に一撃入れる。
結構な重量のありそうなアイザワを、この細身の女は瞬殺していた。
合気道と空手の技を掛け合わせた武術のようだ。倒れたアイザワは失禁している。
金的かまされたらなぁ。そりゃ男は悶絶して気絶もんだよ。
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「あたしの後輩が迷惑かけたね、すまない」
アヤメさんは俺らに頭を下げる。その姿が潔く、なかなかかっこよかった。
すぐに残ったメンツにコージを下ろすように指示し、コージの無事を確認した。
「北高の他の奴らには、西高に手を出さないように徹底指導しておくから、これで手打ちにしてくれない?」
アヤメさんは、淡々と交渉を仕掛けてくる。
まぁ、これで小競り合いもなくなったら、俺らものんびりできるっていう事で渡りに船だけど。
それ以降、北高との小競り合いもなく、アイザワは、今度北高にちょっかい出したら、失禁した写真をネットにばらまくと脅されたそうだ。もう格好もつかないみたいだ。
街でちょいちょい見かけることもあって、それ以降アヤメさんとは付き合いが細々ながら続いている、が。
アヤメさんは高校卒業と共に結婚して他県に引っ越すんだそうだ。
幸せそうに笑うアヤメさんに、もうあんまし会う事もなくなるね、と言われたが、また会える気がしていた。俺の勘は、結構当たるんだよね




