あの人たちのあの日あの時 (魚六のマサキ編)3
ユキちゃんって人は、とにかく面倒見がいいらしい。
橋の上で見知らぬ異人の男を拾って喫茶店で話をしていたらしい。
その話を聞いて落ち着かない気分になった。
いや、その異人に連れられて外国になんか行かないよなぁ。
ユキちゃんは人がいいから、世の中には悪い人間もいるんだって気が付いてほしい。
悶々としながら店番をしていると、タカシがやってきた。
男前の異人さんと連れ立って歩いていたって。
面白いもんでも見たかのようなニヤケた笑いを浮かべている。
男前ってのがすごく引っかかる。
オヤジが帰ってきたのでちょっとだけ店番を任せてタカシとユキちゃんを追うことにした。
とはいえ、どこに居るんだろう。当てもなく歩くのも効率悪いよなぁと思っていると
普段は静かな電気屋の前に黒山の人だかりが出来ている。
しかも、噂好きのおばちゃんばかり。遠目でもわかるテンションの上がりっぷりだった。
「あらー、ユキちゃんってモテモテねー若いっていいわぁ」
「マサキ君とどっちが本命なのかしらねー」
「僕の女神だって!!異人さんは大胆だねぇ」
おばちゃんの人垣の隙間から、見知らぬ異人の男がユキちゃんの手を取り見つめあっている。
困惑しているのがわかるのでちょっとホッとしたが、その手をどけろ!!と苛立ちが最高潮に達した。
人垣をかき分けて、電気屋の中にタカシ共々乱入した。
「ユキさん、ずいぶん親しそうだけどお知り合い?」
自分でも情けない。明らかに動揺した声が出てしまう。
それを面白そうに眺めるタカシ。
「私のというか……エミさんのお知り合いデス…………」
テンパるユキちゃん。
エミさんのお知り合いなんだったら、なんで手なんか握らせたまんまなんだよ。
頭に血が上りすぎて言葉が上手く出てこないうちに、何かを察してかユキちゃん異人の男と共に
出て行ってしまった。
「とりあえず、エミさんが待ってるから行きましょうか、エドワード」
後に残されたギャラリーのおばちゃんたちの好奇の目にさらされながら、エイジに事情を聞く。
「なんか、エミさんを探しに本国からはるばるやって来たらしいよ。別に異人さんなんだからスキンシップってあんなもんなんじゃないの?」
エイジは呑気なものだった。
「あ、そうそう。これ、ユキちゃんには渡しそびれたけど、マサキとユキちゃん用には特別バージョンで編集してあるんだよね」
エイジはラッピングされたDVDを2枚差し出して笑顔を向けた。
「結婚する時はうちで家電選んでくれたら安くするよ♪」
エイジもなかなかの商売人だった。
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家に帰って、DVDを再生してみたら、ニュースで紹介された2分半とは別に、商店街で独自に回していたハンディカメラの映像が編集されていた。
商店街のお祭りの様子に、実行委員の動きがすごくよくわかる。
ただ、ユキちゃんの動きが結構追いかけられていて、子供たちに笑顔を向ける姿や、迷子の手を引いて親を探す様子、お客の少なそうな店舗には必死で呼び込みをしている姿とか、いろんな角度のユキちゃんが映っていた。どのユキちゃんも、笑顔でキラキラと輝いている。
なんか、プロモーションビデオを見ている感じだ。
これは、俺用になっているところを見ると、ユキちゃん宛てにラッピングされているのは……。
恥ずかしい想像をしてしまい、こっそり引き出しの奥にしまい込んで封印した。
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それから何年か後、子供らに引き出しをあさられて発掘されて、ユキちゃんの手に渡ったんだけど
それはまた、別の話。