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追う者と追われる者②

「ユリ兄様! ユリ兄様!!」

「こら、ナナリー、そんなにユリアスを揺すると危ないよ!」


 大きく肩を揺すられているのに、ユリアスはいっこうに起きる気配がない。

 すっかり日は昇り、朝食の時間ではなく昼食の時間になっていた。

 どんなことがあっても、きっちり規則正しく起きてくるユリアスが、まさかの寝坊――?!

 使用人たちがコソコソ話しているのを聞いたナナリーが、一大事だとユリアスの部屋に入ったのだが、当の本人はピクリとも動かず、寝こけている。

 大声で呼んでも全然起きない。

 あまりの騒々しさに、レオンハルトが痺れを切らしやってきたのだが、本当にユリアスは起きない。


「ちゃんと息もしているし、熱もないから、しばらく寝かしてあげよう」

「レオ兄様、こんなに大声で呼んでるのに全然起きないなんて絶対おかしいです! なにかの病じゃないかしら!? お医者様に診てもらわないと!」

「ちょっと、落ち着きなさい、ナナリー。ユリアスはきっと疲れているんだよ。慣れない王宮でずっと頑張っていたのだから」

「ユリ兄様、いじめられてたのでしょうか……みんなのために、一人で……いつもユリ兄様ばっかり」

「まぁ、いじめられていたかどうかはさておき、ユリアスは上手に立ち回ってたんだと思うけど」

「でも、お父様は、ユリ兄様が帰ってきて、とてもがっかりしていたでしょ。それをユリ兄様、責任感じている。もし、ユリ兄様が側仕えとして宮中でうまくやってくれれば、魔導家が公爵家から外れることなく安泰だったのにって……みんなの前で言わなくても……」

「父上は確かにがっかりしていたけど、『他の側仕えは一週間も持たなかったものばかりなのに、よく頑張った』とユリアスに言ってたよ。だから大丈夫」


 そう言いながら、レオンハルトは俯くナナリーの頭をポンポンと叩く。

 ナナリーはギュッとスカートの裾を握りしめ「ユリ兄様、この家を出ていってしまう気がするの……」とポツリとこぼした。

 

「そりゃ、ユリアスだって、だれかと結婚すればこの家を――」

「ううん、そうじゃなくって……うまくいえないけど」

「叔父さんが亡くなって、ユリアスがうちの家族になった。親は違うけど、ユリアスは家族だ。ユリアスがこの先、家を出ていってしまってもね。ユリアスの選択を家族として尊重してあげよう。どこへ行っても、どこにいても家族だからね」

「うん」


 ナナリーは、ずっと眠っているユリアスの手をそっと握る。

 自分以上に思ってくれている人が側にいることは、素晴らしいことだ。

 でも、それはときに足枷になるのかもしれない。





                 **********





「サキヨミの巫女殿、その後何か進展がありましたかな?」


  人払いがされた神殿の奥で、シュナイゼルとシルフレイアは対峙していた。


「シュナイゼル殿下、立ち話もなんなんで、どうぞおかけになられてください」

 「それは、どうも。いつもは忙しいからと、時間をもってもらえませんのに、何か良いことがあったのですね」

「ええ、とてもいいことを視たのです」

「ほほう、それはどんなことかお聞きしても?」

 

 いたずらっぽく両手を差し出し、シュナイゼルはニヤリと目を細めた。

 その挑発に答えるように、シルフレイアもセンスを広げ、「ただし条件が――」ともったいぶる。

 第二皇子に向かって駆け引きをしようとしている今の彼女には、おそらく誰も勝てない。

 それは、人の心を弄ぶのが上手いシュナイゼルであっても、だ。

 彼女の予知能力は、本物で、これまでいくつもの天災を言い当てている。

 多少、違っても大きくハズレたことはない。


 賢者の叡智の力にはない『能力』――

 もしかしたら、賢者を上回る最強の力なのではないだろうか――

 未来さえわかれば、先回りして自分の描いた未来に塗り替えることだって可能だ。

 彼女がこちら側についたのは、皇帝戦に勝ったも同然だ。

 

 シュナイゼルは、組んでいた足を組み替え、顎に手の甲をあてて言う。


「条件とは?」

「必ず、ケインを賢者にしてください」

「それは以前からのあなたの願いでしたね。私を皇帝にする条件」

「ええ。だから、本物を処分していただきたいのです」

「本物の賢者が見つかった……と?」


 シュナイゼルは、目を大きく開き、シルフレイアを見つめる。

 皇帝選を控えた今、本物の賢者が現れる可能性は潰さなければならない。

 シュナイゼルは若干動揺したが、すぐさま冷静を取り戻し、シルフレイアの続きを待った。


「ええ。わたくしもあなたも、そして、第一皇子であるラザフォード殿下もその者に会っております。すぐさま探し出してください」

「誰なのです? 私もあなたも、兄上も会ってている人物なんて限られて―――」


 頭のなかで、その者の名前が浮かび、次の瞬間、自然に口から出ていた。


「ユリアス・ヴィーゼント……彼なのか……?」

「ええ。皇帝会議のビジョンで視ました。彼は、ラザフォード殿下の側仕えですね?」

「ああ。正確には『側仕えだった』だが」

「今はどこへ?」

「自分の領地へ帰ったと聞いている」

「では、早く彼を――」


 シルフレイアはその先の言葉をあえて言わなかった。

 いわずとも、彼ならわかるはず。

 自分以上に『願い』に執着している男だから。


 シュナイゼルは、不敵な笑みを浮かべ、シルフレイアに挨拶も言わず、すぐさまその場を立ち去った。


 

 

 


 

 







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